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大地を司る人外者との絆を断ち切ってみた  作者: 蒼緋 玲


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珊瑚文鳥との戯れ






―――手にチクチクと刺す痛みと、どこからか「キャルルル」という鳴き声にルウィエラは覚醒して目を覚ます。


枕の横にはタオルを丸めたのもがあり、その奥から鮮やかな朱色と先が白っぽい嘴が左右に揺れて覗いている。



(ああ、そうだ。珊瑚文鳥……―――)



そう思い出し、手が痛かったのは突かれたのだなと理解した。

未だにタオルの中からは「キャルルルル…」とくぐもった鳴き声が奥から聞こえてくる。そのまま見ていると、首を長く伸ばしながら揺らして威嚇してくる珊瑚文鳥の顔が覗いたと思ったらまた引っ込んでいった。


昨日までずっと瞑っていて見えなかった珊瑚文鳥の小さな瞳は藍色に青りんご色のような薄い黄緑を少し散りばめたような綺麗な色合いで鳥にも多色があるのなら、魔力が高めなのかなと少しぼんやりとした頭で考える。


珊瑚文鳥はある程度復調したらしく、タオルで作られた巣のような穴の中から首を伸ばしてルウィエラに威嚇し続けている。


その仕草が可愛いなと思いながら、手をゆっくりタオルの巣に近づけてみると敵襲だと思ったのか、「キャルルル!カルルル!」と威嚇しながら嘴で何度も突いてくる。連続でやられると流石に痛くなってくる。


ルウィエラは再度突いてきたところで思わず嘴を摘んでしまうと、珊瑚文鳥は嘴を引き戻せないことに焦ったようで「キャルッキャルキャルッ」と必死に後方に下がろうと後退り踏ん張っている。



「そんなに沢山突いたら痛いよ。程々にしてね。」



そう言って離すと、吃驚する程の素早い早歩きでタオル奥底に行ってしまうではないか。しかもタオル穴の先は行き止まりになっておらず嘴がはみ出してしまうという状態でタオルの後方から続けられている威嚇の鳴き声で愛くるしい要素が倍増だ。


あまりの可愛さにルウィエラは心がもぞもぞ痒くなるような気持ちになる。



「あ、喉乾いたよね。お水飲む?」



そう言って机の側に置いておいたキックリが用意してくれた木彫りの小さい器に水を少し入れた。



「そこだと濡れるから机の方まできてね。もう翔べるのかな…」



そう言いながらルウィエラは自分用の林檎水の入れ物を持って机から一番離れたベッドの端っこに座って喉を潤す。タオル巣をみると未だにキャルキャル威嚇しているので暫く離れて様子を見ようとそのままメモ帳をペンダントから取り出し見始めた。


暫くすると、この部屋の主が静かになったのを不審に思ったのかタオル巣から頭を出したり引っ込めたりする動作が視界に入ってきたが、敢えて気付かないふりを続けていると、ゆっくりこちらの様子を伺いながら少し翔んで木彫りの入れ物の近くに寄り、そこに飛び乗って水に口を付け、ぐいんと上体を起こして水を飲んでいる。


あの紅い鳥の仕草を思い出して思わずじっと見つめてしまうと、何度目か飲んでこちらに気付いた珊瑚文鳥はぴゃっと驚いて直ぐにタオル巣の中に戻り、中で首を揺らしながら今度は無音威嚇を始めた。

色とりどりの尾っぽがタオル後方からはみ出しているのが何とも可愛い。


翔べることも確認してホッとしたルウィエラはメモ帳を仕舞ってから、クローゼットに向かい、開けた中のマホガニー色のチェストの抽斗から大判のふわふわ素材の薄茶色のタオルを取り出しベッドの枕の近くにそのタオルを広げて形成を始める。


すると、タオル巣から顔を覗かせた珊瑚文鳥が縄張り争いの如く、手を攻撃してくるので、ルウィエラはずっとこの調子では疲れもするだろうし困るなと思い、嘴を再度摘んだ。



「私の言葉が通じるかは分からないんだけど―――」

「キャルル!キャルーッ!」



とりあえず話そうとしたのだが、珊瑚文鳥は必死に嘴を取り戻そうと必死だ。

そこでルウィエラは嘴を持ったまま、昨夜気持ちよさそうにしていた頬部分をもう片方の手でこしょこしょと掻いてあげた。



「キャルル!?キャルルル―――キャルッ!―――キャル…ルル――キュゥ……」



始めは急に伸びてきた手に驚きなんとか贖っていたのだが、気持ち良い頬部分を絶妙な加減で掻かれた珊瑚文鳥は暫く続けていると徐々に体を丸くしてうっとり状態に屈した。



「ちょっとそのままで聞いていてね。あなたは昨日黒い鳥に襲われて、その時の攻撃が原因で魔力の一部が凝固されて危ない状態だったの。」

「ピチチ!?」



どうもこの珊瑚文鳥は言葉が分かるらしい。毛並みを立てて驚いているが、ルウィエラが頬こしょこしょを続けているので、またふわんと毛並みを緩ませている。



「私の魔力をあなたの中に流してそこは解せたのだけど、損傷部分が完治するまでは私の魔力で覆っている状態なの。だから今のあなたは私の眷属状態になっているから私の命令が絶対になっている。」

「チチ!?」

「野生なのか飼われているのか分からないけど、折角繋いだ命だから。その部分が治るまではそのままの状態でいるよ。それと沢山怒って鳴いていると疲れちゃうよ。治ったら逃してあげるから、それまでは我慢してね。」

「……チチ」



やはり言葉が分かるようで、珊瑚文鳥は何か考えた後に了承的な鳴き声で答えたので、ルウィエラはホッとした。暴れられて命令で言うことを聞かせるのはあまり良い気分ではなかったので助かった。



「命令することは特にないけど、治るまではこの家から出ては駄目。それとここには私以外にキックリお婆が住んでいるけど、その人に攻撃もしないでね。突くのが習性なら多少は仕方ないけど、あまりに痛い時は嘴を摘むからね。」

「ピチ!?」



現在進行形で摘まれている嘴が人質ならぬ嘴質にとられると知った珊瑚文鳥はわなわなしながら、残虐な人間のようにルウィエラを見ているのが些か解せないが、突かれるのもそこそこ痛いのだ。


ルウィエラが嘴と頬を掻いていた手を外すと、飴と鞭を与えられていたような状態だった珊瑚文鳥は、一瞬自分がどちらの感情に揺られていたか分からなくなったのか、頭をこてんをほぼ45度に曲げた。


そのあまりに愛くるしい姿を拝見してしまったルウィエラは思わず片手を口にあて、嬌声を上げたくなるのを我慢した。


同時に感情の振り幅が威嚇に移行したらしい珊瑚文鳥ははっと我に返り、タオル巣に頭から突っ込んでキャルキャル言い始めているのだが、突っ込み過ぎて今度は向きを変えるのに苦労しているようだ。俗に言う頭隠れて尻ならぬ尾っぽが表にほぼ全公開だ。


今迄にない心の面映ゆい動きに、何故かきゃわーと叫びたい気持ちを押さえたルウィエラは、そのタオル巣の隣に先程の大判のタオルをふわっとくしゃくしゃに丸めて巣のような穴を作ってみた。


そして元のタオル巣を解体してパッと持ち上げてみると、急に御目見得されてしまった珊瑚文鳥はぎゃっとなったが、元のタオル巣よりふかふかで大きいものが目の前にあると知ると、ささっと中に入って行き自分がすっぽり収まる空洞に満足したのか奥の方から安心してキャルキャル威嚇している。



鳥というものは木の枝に止まって寝るイメージでコートラックを止まり木代わりにしないのかなと思ったが、まあ好き好きでいいかとルウィエラはあまり深く考えることを止めて、そろそろ起きて準備しようと、再度クローゼットを開いた。



キックリが揃えてくれたローブの下に着る服は、とても動きやすく幾つか見せてくれた物から、ルウィエラが選んだのは、収縮性のある生地を使ったニットタイプのトップスだ。それとスカンツというスカート幅の長めのパンツを履いて、ローブを着るのが定着していた。タイツを履いたワンピースのものもあるのだが、普段森に採取に行ったり良く体を動かす時はズボン型に限る。


今日はキックリの作業を手伝うので、上下濃紺のトップスとスカンツを履いた。

両方とも無地だが、特注で刺繍なども誂えるらしく何時かやってみたいなと思っている。


ルウィエラは寝巻きを脱いで上下共下着状態で着替えを始めると、ちらちら新しいタオル巣から顔を出していた珊瑚文鳥が「ヂヂッ!」と驚いた鳴き声をあげ、また奥底に入ってしまった。


服を着る布の音で驚かせたのかなと思ったが、こちらは生活音なので我慢してもらおう。

ルウィエラは手早く着替えて靴下も履く。部屋履きを履きながら珊瑚文鳥がいる場所以外のベッドを整えて、鏡台に座り髪を梳かしながら自分の姿を見る。


ここに来た頃より髪の質は艶が戻り、今は擬態を解いているので本来の黒に紫が混ざった色だ。長さもキックリが整えてくれたので、もう見窄らしい姿ではなくなった。元より太らない体質なのか、かなり食欲は旺盛だが急にふっくらすることもなく、まだ少し痩せ気味な体型だ。


そういえばとルウィエラは珊瑚文鳥の方を見る。



「鳥は何を食べるのかな。野菜?パン屑?それとも虫なのかな。」



野生と飼われているのでは多少違うだろうが、そんなところかなとふと疑問に思った。

そんな独り言をタオル巣に籠もっている珊瑚文鳥にはちゃんと聞こえたらしい。


「ピチ!?」

「とりあえずお婆に聞いてもらって適当に何か―――」



話し終わる前に珊瑚文鳥がタオル巣から飛び出し、翔んできてルウィエラの肩に乗る。真っ直ぐ翔んで、羽にも問題なさそうだと安堵する。



「羽の調子は大丈夫そう?一緒に行く?」

「チチッ」

「これから下に降りるんだけど、暖炉とかあって危ないところもあるから、あちこち翔ばないようにね。」

「ピチッ」

「それと耳や首を突いたら嘴摘むからね。」

「ピチ!?」



肌の繊細な部分は流石にご遠慮いただきたいので、少しばかり脅かしておく。そのまま肩に居座るようなので、ルウィエラはローブを持って一階に降りていった。







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