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大地を司る人外者との絆を断ち切ってみた  作者: 蒼緋 玲


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『オーリス3』






シェリルがレウィナに似た魔力を纏うようになって、約三年が過ぎた頃だった。


数年に一度、領土を見回るという名目の監査のようなものがあり、伯爵家にはディサイル国宰相と筆頭相談役の人外者、サリトリーが訪れた。


そこで驚愕の事実を知ることとなる。




サリトリー本人からシェリルが魔絆の相手だということが伝えられた。



シェリルは涙を流して喜び、タチアナも歓喜していたが、オーリスは呆然と目を見開いて震撼し恐怖に駆られた。



(シェリルの周りにはあの子供の魔力が纏っている。ということはサリトリー様の本当の魔絆の相手はあの子供か―――――!)



もしこれがばれてしまったら我がアグランド家は終わりだ。



そしてそんなことよりも何より恐ろしいのは



あの魔力を感じられなくなってしまうではないか。




シェリルから「お父様、驚きすぎですよ!私もですけど!」と声を掛けられ、その場はなんとか取り繕ったが、背中は冷や汗でだらだらだった。



これは何としてでも隠し通さなければ。



魔呪道具は魔力の吸収の流れが外から解らない精巧さだ。だからこその禁忌指定なのだから大丈夫なはずだ。





その夜、シェリルには腕輪のことを再度強く言い聞かせた。彼女は「そうは言っても元は私のものなのですから、正当な使用方法なのですけどね。でも腕輪は禁忌だから、きちんと隠さなければですね!」



と相変わらず意味不明なことを言っていたが、言わないでいるのならどうでも良かった。



要は周りに知られずに、この状態が続けばいいのだ。




そうしたら私はずっとあの魔力と共に居られるのだから。




そしてそれから三年後、シェリルが16歳の誕生日を迎えた翌日、王宮に参上し、婚約式を行う少し前のことだった。



貴賓室に途轍もない膨大な禍々しい暗色の魔力渦が顕れ、部屋中に吹き荒れた。



轟音の中でシェリルの悲鳴が聞こえ、そちらを見ると彼女を覆っていた魔力の渦が散乱して、こちらにも飛んできてオーリスも覆われた。胸元あたりの意識の中での一番大事な部分がぐしゃっと潰された感覚に見舞われ、とてつもない苦痛に絶叫して蹲ってしまった。




ようやく痛みが治まってきて、あたりを見回すとタチアナがシェリルを見て悲鳴を上げていた。


そちらを確認するとシェリルの顔半分には悍ましい蔦模様の痕がびっしり繁っていてオーリスは怖気が走る。




これは間違いなく呪い返しの痕跡だ。




オーリスはがたがたと震えだし、これは大変なことになったと戦慄いた。

異様に身体が重く感じ、誰かがオーリスに話しかけているが、ひたすらオーリスは首を横に振り続けた。




ばれては駄目だ。

何とかしなくては。

そうでないと。







―――の魔力が感じられなくなってしまう






恐慌に陥りながら、なんとか策を巡らすが、どうにも良い方法が浮かんでこない。


呪い返しが返ったということは恐らくあの腕輪はもう使えないのだ。

あの子供がどこかに行ってしまう前にまた魔力を吸収できる魔呪道具を付けさせなくては。




―――の魔力を取り戻さなくては。




そんな中、今の惨状に場違いな歌うような可憐な声が聞こえた。



「国王様、あの離れの子供は、お父様を騙して、お母様を苦しめた悪い女の子供なので、悪い子なのです。そしてあの子は私の魔力をずっと奪っていましたのよ。だからお父様の執務室にあった魔吸収ができる腕輪をお借りして、あの子に付けて魔力を返してもらっていたのです。禁忌とはいえ、人助けをした素晴らしい腕輪なのです。」



ここで落ち着きを取り戻したシェリルがとんでもないことを暴露してきた。オーリスは口がこれ以上は開かないと言うほど開けて、戦慄いた。



「シェリル!お前こんなところでなんということをっ――――――」

「お父様、ここは隠さずに正直に話した方が宜しいかと思いますわ。これは魔呪道具が正義の鉄槌代わりになった正しい使い方なのですよ?それをちゃんと説明すれば大丈夫な筈です。私は正しいことをしているのですから、ね?」



こてんと首を傾けるシェリルを茫然自失状態になったオーリスは前からあった不可思議な言動をちゃんと諫めておかなかったことを心の底から激しく後悔した。



頭が混乱してどうにも上手く働かず、魔呪道具の入手経路など色々聞かれているが答える余裕もなく、知らない、分からないと返していると、またもやシェリルが囀った。



「あら、そういえば魔呪道具と一緒にあそこの隠し棚に書類のような紙が沢山ありました。そこにお父様とお祖父様のサインがあったことだけ覚えていますわ。」




オーリスは我が娘から止めを刺され、崩れ落ちた。



そんなシェリルは自分の顔半分から腕にまで呪い返しの悍ましい蔦模様が顕現された己の顔を、慈悲で渡された鏡を凝視して悲鳴を上げて失神していた。





その日からアグランド家には、大勢の調査員と騎士が家の中も外も囲むように見張られて、片っ端から調べられていた。

オーリスは既にまともな答えを返す気力もなかったが、執務室の中はくまなく調べられ、今まで大事に蒐集してきた魔呪道具が押収され、男爵との関わりも全て公になってしまった。





そして離れにいたあの子供は離れを破壊して消えてしまったらしい。




魔力が




―――に似た魔力が




その時、オーリスは何故か最愛の人の名前を思い出せないことにようやく気付いたのだ。


彼女との幸せな日々の思い出は未だに色褪せていないのに、名前だけは何故か、何度思い返しても頭の記憶から蘇ってくれなかった。




そして更なる災難がオーリスに降りかかる。


あの婚約式の日からオーリスとシェリルは魔力が消失してしまった。

一時的なものでなく、魔力器そのものが失われてしまったのだ。



何故そうなったのか、魔呪道具を勝手に使ったのはシェリルなのに、何故自分までがこんな目に遭うのか解らなかった。


執事が使い物にならなくなったらしく、新しく執事に繰り上げされた執事補佐のジャコビーが、放心状態のオーリスに引き継ぎの報告に来た時に思わずそう呟いてしまったのを聞いて「ご自身の咎を理解されていない主に仕えていたとは、私も愚かの極みですね。」と首を振りながら諦観の眼差しをして出て行った。






そんな状態が一ヶ月程続き、ある日のこと。オーリス達は国から召喚をかけられた。

そして謁見室には、何故かあの子供が居たのだ。




なんとかあの子供に少しでも魔力を分けて貰えないだろうか。

あの子供はオーリスの血が入っているのだから。

彼女とオーリスの()()()()()()()()子供なのだから。




その願いは急に目の前に差し出された血縁玉で玉砕された。

子供が血縁玉に触れた後、血縁の筈の赤色でなく、血縁でない黒色が顕現したのだ。



オーリスは割れんばかりに目を見開いた。


そして何の感情も見えない冷え切った表情で、あの子供がオーリスを見て口を開いた。




「私の母は貴方に攫われてから亡くなるまで、ただの一度も貴方に心を傾けたことはありませんでした。」




その言葉が耳を通り噛み砕いた時、オーリスの一番脆い何処かの奥底がパキッとひび割れた音がした。




この子供は何を言っているのだろう。

そんなことある訳がない。




「母には愛する伴侶がいました。私はその相手との子供であり、貴方の血はただの一滴も入ってはおりません。これは母が貴方から隠していた日記から解ったことです。貴方に対しては情の一欠片もありませんでした。」




パキパキ――――――――――――




伴侶が居た?この子供はその伴侶との…――――――そんなことただの一度も聞いたこと―――




「僅かにでも情があったならば、死ぬ間際に魔力消失の魔術を施すわけがないでしょう。貴方に亡骸も、髪の毛すら一本まで奪われたくなかったのですよ。」





パキパキパキ―――――――――――――パキ―――――――――――




そんなことはない。彼女はいつも怒ったふりをしていたが、オーリスがいつも大人の対応で温かく包んであげていたのだ。






「母は、貴方に対して、ただの一欠片も、愛情は、全くありませんでした。」





え?






――――――グシャッ――――――――――――








『あんたなんか大っ嫌い!!!消えろ!!!』




あれは本気でそう思っていた?



そんな筈はない。





そんな筈ないそんな筈ないそんな筈ない―――――――――――――






子供はタチアナの前に立ち、実はタチアナが彼女から魔力を奪っていたことを突き付けた。それがなければ彼女は死ななかったのだと。オーリスはその話を聞いて愕然とした。





でも、そんなことよりも



彼女はオーリスを愛していなかった?



そんなこと――――――――






そこから先は殆ど覚えていない。






後にアグランド家に来る使いの者からは、彼女の子供から、呪い返しに併せて、自殺不可や病死不可、逃亡不可等多数の付加魔術がかけられたことを説明された。




何故オーリスがこんな目に遭うのだろう。

ただ彼女を愛しただけなのに。





―――でもあの子供は彼女と伴侶の―――――



伴侶?彼女には男がいた?彼女は男を愛していた?





―――――憎い。



―――――憎い憎い憎い――――その男が!!!!!!




「!!!っがぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!」



体中から迸る激痛が襲い、悶え狂う。

その痛みと衝撃は彼女に愛する伴侶がいたという男を思い出す度に襲いかかった。






ああ、彼女の――がみたい。彼女の声で――と呼んでもらいた……―――





あれ




そういえば






一度も『オーリス』と名前で呼ばれたことはなかったな








彼女が微笑みかけてくれたことは






ただの一度もなかった――――――――――――――














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