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大地を司る人外者との絆を断ち切ってみた  作者: 蒼緋 玲


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『オーリス2』






そしてついにその時が来た。



レウィナは装飾品店に寄る時は時間がかかり遅くなる事が多く、その時は裏通りから人気のない所で転移を踏むらしい。そこを狙えば大丈夫だとイオから言われて機会を伺っていた。




オーリスはイオから高性能の認識阻害の魔術をかけてもらい、少し陽が傾き始めた頃、予想通りにレウィナは装飾品店から出てきて、裏通りに入っていった。


人気のない所で直ぐ様行動を起こし、腕を掴むと「え、誰!?」と吃驚している彼女を側で待機させていた馬車に押し込み、すぐに彼女の腕に魔吸収と魔封じの腕輪を装着した。



レウィナは目を見開き「何してくれてんのよ!ここから出せ!!」と怒鳴って暴れた。魔術が使えないと解ると手足をこれでもかと駆使して、オーリスを攻撃してくる。


痛みは勿論あるが、それ以上に彼女がようやく自分を認識して見てくれていることが嬉しくて、うっとり微笑んだ。

その顔を見てレウィナはぎょっとしていた。「ずっとこの時を待っていたんだ、待たせたね。」と囁いて、この日までに猛特訓した渾身の睡眠魔術をかけると、彼女はくたっと倒れ、オーリスは引き寄せ抱きしめた。髪からとてもいい香りがして、もうこれは離せないなと屋敷に着くまで顔を擦り寄せて抱きしめ続けていた。





それからはとても毎日が幸せで今まで生きてきた中で一番充実した日々を過ごした。


オーリスはこれまでの人生が如何につまらないものだったかを痛感した。


なんて無駄な時間を過ごしていたのかと。


でもこれからは死ぬまで彼女と一緒だから色鮮やかな日々を送れることだろう。



レウィナから毎日酷い言葉を浴びせられても、関心を自分に向けて欲しくてやっているのだと思うと可愛くて仕方ない。それと照れ屋な部分もあり自分で歯止めが効かない時もあるようだから、オーリスが仕方なく窘めながら魔呪道具を使って力を抜いてあげるのだ。


魔吸収した後は更に幸せに浸れた。何故なら彼女の魔力が自分と融合するからだ。

胸に手を当て、彼女の魔力が自分の全てに纏っているのを感じ蕩けるように微笑む。

もしかしたら魔絆の対を見つけた人外者はこのような気持ちなのかもしれない。



毎日愛でて愛してあげた。

オーリスは自分が淡白な方だと思っていたが、とんでもなかった。

泣きそうな悔しそうな顔がとても愛しい。

怒る顔も可愛い。

どんな言葉も行動もオーリスにとっては新鮮だった。



彼女を誰にも会わせたくないから離れにして大正解だった。


タチアナが妾として認めないと我が儘を言っていたが、認めて表に出したらきっと皆がレウィナに惹かれるに違いないと、考えるだけで腸が煮えくり返るので、ずっと離れで死ぬまで一緒に居ようと思った。



仕事にも精が出た。男爵との商売も軌道に乗り、財産は更に莫大に増えた。それが周りに知られないように執事や侍女長を取り込んで巧妙に隠し、領地や家のことは相変わらず執事達に任せた。勿論高待遇で。



一度タチアナが無断で離れに訪れたらしく、暴言を吐いたそうなので諭しておいた。男爵には上手く操作して、小煩いタチアナを諫めておいてもらわねば。やっと掴めた幸せな時間を邪魔しないで欲しい。



程なくしてレウィナが懐妊した。オーリスはとても喜んだ。これで更に絆ができて離れていかないことが確定したねというと、信じられないとでもいうような目で見られたが、嬉しかったに違いない。二人の絆がより強固になるのだから目出度いことだ。


感情を露わにしている彼女の表情はどれも魅力的だ。

今まで微笑んだり甘えられてばかりの女性しか居なかったので飽き飽きしていたのだ。

でもそのうち偶にでいいからそんな表情も見たいと思っている。


懐妊してから暫く体調が思わしくなかったので、毎日傍にいて寝てあげた。男としての欲は当然あったけど、オーリス達の大事な宝物がレウィナのお腹にいるのだ。絆になるのだから大事にしてあげなければ。



そういえば、タチアナも懐妊したと言っていたので、これからはアグランド家の後継としてしっかり育てていってくれればと思う。そして私達は三人で仲良く暮らしていこう。




お腹が大きくなってきてから、レウィナの表情が少し変わってきた。これは母親になるという決意の表れなのだろうか。守ろうという勇ましさを強く感じるのだが、きっとこれから三人で暮らしていく為に頑張ろうとしてくれているのだろう。

態度は相変わらず攻撃的だが、それでもオーリスは飽くことが微塵も無い。募っていくだけだった。



ある日レウィナから腕輪を外せと言われた。有事の際に自分で魔術が使えず、魔吸収や魔術制限が原因で死んだらどうしてくれるのだと。


そんなことになったらオーリスは狂ってしまうので、臨月近くなったらということで仕方なく約束はしたが、他の術を施した違う腕輪を付けることを条件にした。

また気分で駆け引きして出て行かれたら路頭に迷ってしまうからだ。



ある日、またもやタチアナが離れに突撃したらしく、なんと暴行までしようとしたらしい。実際はレウィナが払い除けたらしいが、男爵の育て方に疑問を持ってしまう。

その後、反省した顔でもうしないと謝ってきたが、とりあえず後継を無事産んでくれないと、オーリス達三人が幸せに暮らせないので、取り敢えず許してあげた。


それでも今後このようなことが度々起こるなら、落ち着いた頃に消えてもらってもいいのかもしれない。



その後からレウィナの体調がどうも思わしくないようだ。少し窶れたような気もする。

本人はお腹が大きくなって疲れているだけだと言っているが、心配だから暫くは夜も一緒に居て安心させてあげよう。





タチアナが女児を産んだ。男児でなかったのは残念だが婿を迎えればいい。これで伯爵家は安泰だ。これであとはレウィナさえ無事に産んでくれれば良い。



数日後、レウィナの陣痛が始まった。勿論オーリスはずっと傍に居ようとしたのだが、彼女が医師と産婆以外に苦しむ姿は誰にも見せたくないと追い出された。


産婆からも出産をしない男性が近くに居ると癇に障ることがあるのだと言われたので、屋敷で泣く泣くその時を待っていた。




それから何時間経っただろうか。外は真っ暗になった時、医師が昏い表情で戻ってきた。


そしてレウィナが産後状態が悪く耐えられずに、先程亡くなったことを聞かされ、その直後に何故かその身ごと消滅したというのだ。




オーリスはその話を報告され、脳が拒否しているのか、なかなか意味が飲み込めなかった。

何度も言い聞かされてようやく理解すると、生まれて初めての腹の底から声を出して絶叫した。全速力で走って離れの扉を荒く開け放つと、レウィナは居らず、産後の跡だけが残っていた。そしてそこには産婆と共に小さな命が居た。


オーリスは赤子を一瞥したが、すぐに部屋中を捜した。居ないと何度言われても信じられず、くまなく捜しても何処にも居ない。何時間も経って、ようやくこの現実を受け入れるしかなかった。


産声を上げるレウィナの命を奪った赤子に殺意が芽生えたが、同時にレウィナと繋がる唯一の血の受け継いだ者なのだと、なんとか赤子に手をかけることを踏み留められた。



何故消滅してしまったのだろう。

もう愛でることもできない。

もう抱きしめることも叶わない。

理解はできても受け入れられない。

オーリスは最期にレウィナが居たであろうベッドに突っ伏して号泣した。




それから何日経ったかも覚えていない。オーリスは離れにあったレウィナが使っていた物全てを自分の部屋に移した。赤子にはあれから会っていないし会いたくもない。


レウィナを奪った張本人。

でもレウィナの血を継ぐ唯一の人間。


タチアナも居るので万が一があってはならない。オーリスは屋敷の者に命を奪うことは絶対させるなと厳命して、暫く部屋に籠もってレウィナの持ち物と共に過ごしていた。何もする気が起きなかった。出産直前に外した腕輪はずっと手放せないでいる。




また色のない人生が戻ってきた。



何度もタチアナが尋ねてきたが、その度に煩わしく思った。子供に一目でも会ってくれというが、今は何もかもがどうでもいい。


それでも何度も訪れるタチアナに辟易して、オーリスは男爵との商売に併せて、直接携わっていなかった領地の仕事にも手を付け始め、無我夢中で働いた。

忙殺していれば、その間だけは僅かに悲しみは薄れ、帰宅後は誰にも会わずレウィナの遺品と共に寝る生活を繰り返していた。


そして一日の終わりには必ず、隠し扉の棚の一つに仕舞ってある、あの腕輪に触れた。今では腕輪に付加された術の効果も消え、魔吸収のみの腕輪。

それが唯一レウィナがずっと付けていたものだったからだ。


いつの間にか連絡が途切れていた友人の名前が何故か思い出せなくなっていたが、今のオーリスにはどうでも良く、暫くして男爵から商売を引き継いで辞めたようだと聞かされた。





そして時は経ち、シェリルが十歳になった時、神殿に魔術測定を受けに赴く前に、偶々あの子供のことを思い出した。執事から定期的に生存報告は受けていたが、気に留めたのは随分と久しぶりだった。


その子供が不遇の環境にあることは、わざわざ報告はされないがオーリスは薄々は分かってはいた。殺したくても殺せないタチアナから躾と称して折檻を受けているらしく、何しても泣かない気味の悪い子供だと屋敷の廊下でメイド達が話しているのを聞いたことがあったからだ。



子供への感情は何も湧かなかったが、レウィナの血を引き継ぐ子供の魔力はどのようなものだろうという興味から、オーリスは男爵の子飼の教職者と連絡を取り、口外禁止の魔術誓約を結び、レウィナの子供も魔術測定を受けさせるように内密に伯爵家に来てもらうことにした。



そこで十年ぶりに見た子供は、そっくりな訳ではないし顔色も悪く痩せてはいるが、要所にレウィナを想像させる顔の造形が所々残っていたのだ。


それがとても鮮明に残った。


更に驚いたのがその子供の魔力の多さだった。


あの魔力に触れたらレウィナを少しでも感じられるのだろうかと思ったが、あの子供は唯一のレウィナを奪った人間だ。でも彼女の血を引いている。相反する思いにどんなに考えても上手く纏まらずに手を引っ張るシェリルに連れられて離れから去った。





そして数日後の朝、食堂に現れたシェリルから垂れ流れている膨大な魔力に信じられない気持ちになった。



(これは……レウィナの!?いや、違う。でもとてもレウィナの魔力に似ている……?)



何故だ何故だと考え、ハッと思い当たることに気付き、朝食を即座に済ませて執務室に向かった。



隠し扉はとある箇所を押さないと開かない仕組みになっている。


まさかと思い、扉と開け棚の一つを開けるとレウィナに填めていた腕輪が無くなっていた。


これはシェリルが棚を勝手に開けて取り出し、あの子供に付けたということか。



オーリスはすぐにシェリルを呼び出し、事の次第を問いただすと、彼女はあっけらかんとした邪気のない笑顔で話し始めた。



「お父様にご用があって訪れた時に、良くそこの隠してある扉を開けているところを扉からこっそり見かけたことが何度かあったのです。そしてとても美しい黒い腕輪をずっと見ていたので、気になって書庫でどんなものか調べてみました。」



オーリスは勝手に執務室に入り棚を開けたことを咎めたが、シェリルから「ごめんなさい、でもお父様は私やお母様に全然構ってくれなくていつも寂しくて」と言われてしまえば紛うことなき真実なので、それ以上何も言えなかった。



そのオーリスの表情を見てシェリルはにっこり笑って歌うように話し続けた。



「つい最近まで、そのこと自体すっかり忘れていたのですが、あの子があんなに素晴らしい魔力を持っている訳がないでしょう?ということは、お父様とお母様から正しく生まれた私が本来貰うべき魔力だったと気付いたのですよ!その時に腕輪のことを思い出したのです。この腕輪は悪いものとのことですが、私が貰うはずだったものを返してもらえるのならば、それは正しい行いで、腕輪もきっと嬉しいと思います!」



この時、この娘は何を可笑しなことを言っているのかと訝しく思ったのだが、それよりもオーリスには、シェリルから感じたレウィナの魔力に似ている子供の魔力に魅せられたことの方が優先事項だった。



「この腕輪のことは他に誰か知っているのかい?」

「いいえ、まだ誰にも言ってはおりません。」

「そうか。このことは誰にも言ってはいけないよ。勿論お母様にもだ。本来それは使ってはいけない物で、私は単にその腕輪の装飾が素晴らしくて所持していただけなんだ。今後も絶対に誰にもいってはいけないよ。」

「そうなのですね!わかりました。これからは魔力が沢山ある分、色々な勉強を更に頑張っていこうと思います!」

「頑張りなさい。そしてそれを使い過ぎてしまうと、相手が枯渇状態になって死んでしまうこともあるから気をつけなさい。」

「はい!」



それからはレウィナと似ている魔力の傍に居たくて、無意識にシェリルと一緒に居る時間が多くなり、その流れでいつのまにかタチアナも居るようになった。

その頃のタチアナは家族でいることがとても嬉しいようでそこまで煩わしくなかったので、そのままにしていた。


何度かあの子供に会いに行ってみようかと思ったが、それがきっかけでタチアナがまた喚くのも煩わしいし、それが原因で折檻して、魔力がシェリルに送られなくなったら困るので我慢した。



だが、シェリルが婚姻した後にでもあの子供がレウィナにもっと似てきたなら――――

タチアナには消えてもらって、あの離れに通うのも悪くない。


何よりレウィナと似ている魔力に心地良さと羨望を覚え、色の無かった世界に僅かに色が宿り、近くで感じていたかったので、オーリスは自分の為に全て見て見ぬふりを続けた。




奇しくもレウィナとルウィエラは親子二代で同じ呪われし腕輪を填められてしまったのだった。








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