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大地を司る人外者との絆を断ち切ってみた  作者: 蒼緋 玲


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簡単に終わらせるわけがない







「だって死んだらそこで終わってしまうではないですか。」

「………うん?」



死罪となったとして、執行されるその日まで、恐怖で怯える日々と己の過去を悔やみ苦しむのかもしれない。もしかしたら諦観して悟りに入るかもしれないし、はたまた最期のその時まで自分は悪くないと相手に憎悪を募らせているのかもしれない。



どちらにしろ簡単に終わってしまうなんて。



そんな早く楽になるなんて。




「そんな早いうちに死罪になってしまって、あっという間に輪廻されて次の生を謳歌されてしまうなんて困ります。伯爵家全員とそれに従事する者達は、今生の残りを老衰で終わらせる以外に彼等に終わりはありません。寿命で目を永劫に閉ざすその時まで、覚えていてもらわなければ。ただ常に邪心を持たずに清く正しく生きていけばある程度普通に暮らしていける救済措置はあるのですよ。」



ある意味死罪より恐ろしい内容に飄々と答えているルウィエラにアルノーは「邪心を一切持たない人間なんているのだろうか…」と虚ろな表情をしている。いつの間にか隣には準備を終えたのかツェクトが居て、その内容に唖然としている。


確かに伯爵家血縁の者以外には酷な事なのかもしれない。ただ、伯爵家が誓約等で縛っていたのか、または本人達が望んで自らやっていたのか、見て見ぬふりしていたのかはルウィエラには分からないのだ。



分かっていることは16年間、誰一人としてルウィエラに手を差し伸べる者は居なかったという、その事実だけだ。


その話をした時にキックリがその辺は諸悪の根源以外には適当に措置しといてやると言われているので任せることにする。



「伯爵とその娘に至っては、そもそも私達母娘に対して悪気が皆無の可能性が高いので、魔力器消失を施しました。常に枯渇状態というより、そもそもの器がない状態でも人間は生きていけるそうで、最低限の魔力が入っている日常生活の道具なら使えるそうですよ。これが私なりの報復です。」

「死にたいのに死ねないとか、精神も壊れてくれないとか…そうか…死ぬまで生き地獄か…。」

「とはいえ、全うに生きればある程度普通の生活ができますので。」

「人間というものは多少なりともそういう正負の部分がある生き物なんだけどね…。」



アルノ―はついに両手で目を覆ってしまっている。



「因みに解除はできなくはないと思いますが、私の魔力器に直結しているので、私を完全枯渇させて殺さない限りできません。ただ私が先に死んだ場合はそのまま継続されるように、殺された場合は死んだ瞬間に、始めにかけた全員と解除を施した相手に対して元にかけたものと上乗せ分を重ねてかける仕組みにしておきました。これ結構魔術の組み合わせと練り方が難しくて手古摺りました。」

「ツェクト、直ぐに魔術塔に連絡しろ。」

「はい。」


ツェクトはまたもや一礼して去る。どうやら王宮の誰かが解除に挑んでいたようだ。とはいえルウィエラの魔力が著しく減った形跡はないので、まだ序盤の方だったのかもしれない。



「何も持たない小娘なりに何とか自由になりたいと頭を捻って、まあまあやり返すことができました。そして有り体に言わせていただくと、慣例ということと、キックリ師匠の顔を立たせる理由だけで膝を折っているだけですので、もう誰かに搾取されたり利用されるのは真っ平なのです。それでもと仰るのであれば、私は自分の持てる方法を駆使してこの国から去ります。キックリ師匠に了承は得ているので。」

「小娘…大人でも到底できる程度ではない報復内容なのだけど……そうか、キックリさんの弟子ならばその辺りも最早別格なのかなぁ…。」

「何言ってるんだい。私ほど品行旺盛に生きている者は居ないだろうが。」

「そうだよね、それ以前のもう生き様が根底から違う生き物だと言うことで己を納得させるしかないと。私もまだまだ若輩者だなぁ。」

「師匠、品行旺盛と高々に称えられる者は、配達のパン屋さんにいつも頼んでいるデニッシュパンの大きさが小さいと鼻息荒く値切ることはしません。」

「何言ってるんだい、あれは発酵を少し早めてしまっただろう向こうの不手際だよ。安くするのは当然さ。それにさっきからあんたが師匠と呼ぶのが、気色悪くて鳥肌が立って仕方ない。」

「同感です。私も言う度に鳥肌が立つだけでなく毛穴全開なんです。しかも数本毛が抜けたような気がします。でも謁見室なので耐え忍ぶしかないところが辛いですね。」

「一言二言多い!」



いつの間にか軽快な雑談の応酬に変わって、重苦しい雰囲気が緩和されていた。


アルノ―はルウィエラに視線を向けて尋ねた。



「例えば、序盤から僕がエルの気持ちを慮って色々配慮するよって言っていたならどうだったのかな?」

「私としては交渉しなくて済むので楽で良かったとは思いますが、一国の国王様が一人の人間に肩入れをして情に流されて、果たしてこの国は大丈夫なのかと不安になって去ったと思いますね。」

「どちらにしろ顛末は一緒だった!」



アルノ―は態とらしく肩を大げさに落とす。

ルウィエラはこのように柔和な外見に見えながらも、それを利用して老獪な部分を上手く調整しているのは、国を動かす者としての在り方としては寧ろ良いのではと思った。キックリがこの国に腰を据えているのが証拠のような気もする。



「はあ。とりあえずはキックリさんが後見人になるような感じになるのかな?」

「応急処置としてはね。この子は魔力的に十分兼ね揃えているし冷静に物事を判断できるから、あとは少しずつ積み上げてきている生活基盤と外界との関わりをある程度経験すれば大丈夫だと思っているからね。その後を決めるのはエル自身だ。」



キックリは何となしに言っているのだろうが、認めてくれている言葉にルウィエラは心をもぞもぞさせた。



「わかった、特例でそれを許可しよう。それにしてもエルのその斬新な魔術の使い方は、是非うちの魔術師達に教えてあげたら狂喜乱舞しそうな程の内容なんだよねぇ。それにしても死罪確定事項をどう古狸共に納得させるかなんだよねぇ。誰か口添えしてくれないかなぁ…。」

「師匠、狡いですよ。一口ください。あんなに沢山喋ったのは初めてなので喉が乾いているんです。」

「何が狡いものか。ちゃんと自分の水筒に入れてきたんだよ、あんたが忘れていただけじゃないか。」

「どの口が言うのでしょう。最後の一滴まで水筒に入れて空にしてしまったのは師匠ですよ。私が好きな林檎水と知っていて、敢えて空にするというこの仕打ち。これでも緊張もしていたので一く…数口貰わなければ割に合わないです。」

「そっちこそどの口が言うんだい。緊張なんて微塵もないほど饒舌に堂々と喋っていただろうが。林檎水の作り方は前に教えただろう?なんで自分用に作っておかないんだ。しかもちゃっかり口数も増やしているじゃないか。」

「林檎水は師匠のものが何より一番美味しいのです。自分のでは満足できません。あの酸味と爽やかな甘味の黄金比は師匠じゃないとだせないんですよ。」

「…そういうところだよ。」

「王、既に次の話題に移っておりますが。」

「一応僕、国王なんだけどなぁ…。」



国王の懇願を完全に背景の物音としてしまっている召喚された二人のやり取りは、キックリの林檎水を褒め称えたルウィエラに軍配が上がった。


キックリは「一口だけだよ」と水筒を渡してくれたので、ルウィエラはぐびぐびと、とても長い一口を堪能してキックリから手刀を頭部に授かった。


その二人を傍観しているこの国の王と宰相はなんともいえない表情をしていた。


喉を潤して満足したルウィエラは国王に向き直った。



「それでは最後に伯爵家の者達を呼んでいただいても宜しいですか?」

「…ああ、個別でなくて全員で構わないのかい?」

「はい。火傷と折檻のことは、確認の為に後で夫人の護衛と娘の侍女に聞いておいてください。始めに血縁鑑定をしていただいてから、少しだけ話させていただければ十分です。」

「ん?今迄の恨み辛みを、ここぞとばかりに言わなくていいのかい?」

「言いたいことはそこまで無いです。そして長く話せば話すほどふんわりチーズケーキの獲得率も下がります。」

「……そうなんだね。」



ツェクトが扉の側にいる近衛兵に目配せして兵の一人がその場を去った。



「ところでさ、サリトリ―…相談役に対しては特に言いたいことはない?」



アルノ―が窓側を指さしながら尋ねる。ルウィエラもその方向を向くと、サリトリ―は頭を抱えた状態を解除して椅子に座りながら外を観ていてこちらを向く気配はなかった。



「人ならざる方々がどれだけの魔力と叡智を持っているかは分かりかねますが、あの魔呪道具はそれすらも見極められないように精巧にできていたのかもしれません。それにもし魔絆というものを、あまり関心が無かったとするなら、気付く可能性というのも低かったのではと思えば、それも仕方なかったことなのかと。ですが、私は魔絆であるということが判明してから、より一層魔力を吸い取られ続け、何一つ恩恵など無く、あるのは損失のみでした。私がそのようなものを煩わしいと思ってしまうこともまた仕方ないとことだと思っていますし、自分の意志で断ち切りましたので、今後それによって面倒がなければ得にはありません。」

「…そうか、そうだよね。」



アルノ―はサリトリ―の方を見て微動だにしない彼に溜め息を吐いた。









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