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大地を司る人外者との絆を断ち切ってみた  作者: 蒼緋 玲


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照らし合わせ






「では、国側の見解よりご説明させていただきます。今から約一ヶ月前、ディサイル国筆頭相談役のサリトリ―様が数年前に魔絆のお相手、アグランド伯爵家長女のシェリル様を見つけられたとのことで、こちらの王宮内の貴賓室の一つで婚約式を執り行うことになっておりました。そして婚約式が行われる直前に強大な魔術の織が顕現し、シェリル様を包み込みました。直後、シェリル様からは魔力が一切失われ左上腕から肩、首、そして顔の左半分に悍ましい不気味な蔦模様が発現されました。それはこの国のみならず周辺国でも禁忌とされている魔呪道具を使用した者が呪い返しを受けた時の現象だったのです。」



ツェクトは、後方に控えていた従者から書類を受け取り話し始めた。


国王は柔和な眼差しのまま肘掛けに肘をかけたまま同じ体勢でいて、キックリは膝をついたまま首をぐるぐると回している。サリトリ―の方は見ていないが、動いた様子はない。



「その場にはアグランド家全員が揃っておりましたので、この状況の説明を求めましたが、伯爵と夫人は呆然としていて何も答えられず、シェリル様は伯爵が悪い女に誑かされてその女は身籠り、その子供はシェリル様の魔力を奪っていたとのことで、魔呪道具を合法に使い取り返していたのだと説明されていました。この証言に相違はありますか?その後アグランド家の離れに確認に行きましたところ、屋根は突き破られ床には呪いが破壊された魔呪道具が落ちていたそうです。」

「お話をさせて戴く前に一つ質問が。彼女がその証言をした時にその場に居た伯爵は聞かれていましたか?」

「ええ、聞いておりました。」

「その際に伯爵は何か発言しましたか?」

「いいえ、何も。ただ顔を真っ青にされ何も知らないとは言っていましたが。」

「そうですか。」



ルウィエラは小さく溜め息を吐いた。伯爵は元々表ではそのように周知させていたのか。はたまたシェリルが禁忌の道具を使っていたことを自分が知っていると知られたくなくて黙秘していたのか。


そしてシェリルにとっては真実を話したのかもしれないが、ルウィエラにとっては真逆だ。




「彼女とっては真実だと思い話したのだと思います。ですが私にとっては相違しかありません。」



ルウィエラはツェクトから視線を外し正面に居るアルノ―に向かって答える。



「乳児の時は流石に記憶にありませんが、私は物心つく頃からアグランド家の離れに居ました。微かな記憶を辿るなら、どんなに泣いても誰も来てくれることはなく、来たとしても食事を運ぶ人か、若しくは折檻をされ、食事はそのままでは食べられない固いパン一個と味のないスープのようなものが一日一度運ばれれば良い方でした。運ぶメイド達はいつも私を悪女の子供と言って蔑み見下していました。離れにはベッドと何も置いていない机と水の出ない浴室だけで、服は余りにも汚れた時に交換されるだけで、他には一切ありませんでした。水も出ないので喉が乾いた時は、敷地内にある井戸の水を飲みに行っていました。それ以外の理由で外にでると必ず夫人に折檻されていました。」



淡々と無表情で話すルウィエラに対しアルノ―は目を丸くしていて、ツェクトは目を瞠って呆然としていた。



「七歳の時に初めて離れにアグランド家の娘が一人で訪れました。そこで今日は誕生日だといい、彼女より少し後に私は生まれたと聞かされ、初めて自分の年齢が分かりました。今の私が話せたり文字を読めたり理解したりできるのは、気紛れに彼女が下げ渡した本があったからです。そして九歳の時に彼女に外に連れ出され、侍女に見つかり彼女は誘ったから自分が罰を与えると火の魔法で私の左腕を焼き、慈悲を与えると水の魔法で水浸しにしました。その後、外に出たことが夫人に伝わり夜に訪れて火傷痕を負った箇所を鞭で打たれ、鞭に血がつくのが汚らわしいとその後はいつもの背中への鞭打ちに移行しました。御前失礼致します。」



ルウィエラはそう言ってローブを後ろに流し、左腕の袖を捲り上げた。



「!」

「…エル殿、これは。」



ルウィエラの左上腕には未だに焼け爛れて醜い痕が無惨にも残ってしまっていた。



「これは何時かの時の為に敢えてそのまま残しておきました。それともう一つ失礼致しますね。」



ルウィエラはアルノ―に背中を向け、ローブを捲り上げ、更にワンピースを捲り上げた。



「え、エルど…」

「ちょ………――っ!」



ツェクトが驚いた声を出し、何故か焦った声を出したアルノ―の声が直後ハッと息を飲んだ。



「そしてこちらが夫人に打たれ続けた鞭のあ…」



言い終わらないうちにバッとワンピースとローブが下げられた。


訝しげに後ろを見ると、いつのまにかそこには紫がかったシルバーブロンドの髪に濃紺の軍服仕立ての服で立っているサリトリ―が凍えるような表情でルウィエラを見下ろしている。



「…何をしている。」



サリトリ―が底冷えする低音で低く唸るように呟く。



「鞭打ちの証拠を見せていたのですが。」

「…だからといって人がいる前で肌を見せる奴がいるか!」

「何故怒鳴られているのか皆目見当がつきませんが、つい最近まで折檻の時はお付きの騎士も居る前でいつも下着一枚で行われておりましたよ。」

「…っ」



サリトリ―が愕然とした表情をしたのを見て、初めて会った怜悧で冷たい雰囲気でもこういう顔もするんだと呑気に考えていると、アルノ―から「なにそれ…あー、いや、もう十分だから、うん。」と辿々しく言い「…サリトリ―、まだ話の途中だから。」と話しかけ、サリトリ―はルウィエラを苦々しい表情で見た後に舌打ちをして元の場所へ戻って座りながら何故か頭を抱えている。


舌打ちされる意味が理解できないルウィエラは首を傾げるが、まあいいやと正面に向き直り、話を続けた。



「十歳の時に彼女から魔力測定を受けたと報告され、伯爵の慈悲でと私も鑑定を受けされられることになりました。その時初めて自分の父親だと言われている人と、白いローブの男性が魔宝玉を持って訪れました。そこで私は恐らく彼女より魔力が大きく反応したらしく、数日後に、その魔力は元々自分のものだったから返してねと言う体で、笑顔で魔呪道具を填められました。因みに伯爵はご存知だったようで娘が纏っている魔力が私の母の魔力に似ているのでそのままにしていたそうです。」



先程まで肘掛けに肘を掛けてゆったりしていたアルノ―は肘掛けに両手を置き体を起こし眉を顰めながら聞いている。ツェクトは目を瞠ったまま手を口に当てていた。


そしてアルノ―がふと気付いたように問いかける。



「エル、白いローブの者が来たのか?」

「はい。顔はフードで見えませんでしたが男性の声でした。白いローブには銀色の刺繍が。そして伯爵当主とは報酬の代わりに魔術誓約でそのことが話せないようにしてあったようです。」

「ツェクト」

「はい、調べてみます。」



何やら白いローブの人はやってはいけないことをしたらしい。けれども、ばれた時に敢えてその格好をして撹乱するという可能性もあるのかもしれないが。



「その後に以前机の隠し二重底に母の日記があったことを思い出し、ある程度文字が理解できるようになっていたので読みました。」

「日記?」

「はい。机の物を始め離れの中にあった母の物は全て伯爵が持って行ってしまったと聞いていたのですが、二重底に隠された日記には気付かなかったようです。」



その二重底はレウィナとルウィエラにしか外せないように魔術が施されていたのだが、説明する必要はないだろう。



「日記には母に伴侶がいたこと、キックリ師匠の薬屋で働いていて買い出しの途中で伯爵に拉致され、即座に魔呪道具を填められて離れに監禁されたと書いてありました。他にも逃亡できないように魔封じと認識阻害、自決不可の魔術を腕輪にかけられていて、家の周りにも色々と施されていたそうです。それでも何とか逃げ出そうと模索していた時に子が身籠っていることがわかったそうです。」



そこでルウィエラは少し俯いた。


ずっと考えていたことがある。


レウィナが身籠っていなければ何とかして逃げられたのではないかと。

そしたらルディなる伴侶と再び出会えたのではないかと。


ルウィエラは父親であるルディに日記を渡しに行くつもりではあるが、かといって彼とこれから先、共に生きていこうと考えてはいない。


魔絆の相手というのは種族によって多少の差異はあるが、総じて何よりも最優先で最愛であるらしい。種族によっては自分への愛情の取り分が減るからと子を始末してしまう例もあるという。


きっとレウィナはとてもルディから愛されていた筈だ。

だとしたら彼はそんな最愛を失う原因の一つにになったルウィエラを厭うのではないかと当然考える。



でも、あの日記の内容と頁の最後の映像を観た時、レウィナがまだ見ぬルウィエラを大事に愛情を持っていてくれたのだと理解した時。

己を責めることはレウィナに対しての冒涜と同義になると思った。


今後批難されることはあるだろう時に、自分が生まれなければ、と考えることは絶対にしないとルウィエラは誓ったのだ。


決意を新たに下に向いていた目線を改めて上げる。



「それと、同時期に夫人も身籠っていたようで、とある日に母は夫人に手を挙げられ、払い除けた時に指輪に仕込まれていた呪いを受けたそうです、魔吸収の。」



誰かが息を呑む気配がしたが、ルウィエラは続ける。



「出産には多くの魔力を必要とするそうです。夫人がその魔力を自分の物に温存させ、剰え母が魔力枯渇を狙っていたのかは定かではありませんが、それがとどめにはなったようです。」

「…なんてことを。」



ツェクトが口を押さえながら思わずという風に囁く。



「母は自分の最期を悟りました。しかし亡骸を伯爵の元に残したくなかった為、魔力消滅で自らを消したそうです。その後私は冒頭にお話した軌跡を辿るのですが、魔力製造機になり続けるつもりが毛頭なかった私は、好機を伺っていました。13歳の時に彼女は魔絆の相手の人外者の方と出逢い、常に私の魔力を纏わせ輝かしい未来に向かって悠々自適な生活を送っていたようです。私は六年間魔力を搾取され続けました。」



アルノ―はちらっと窓側を見やるがルウィエラは気にせず続けた。



「そして16歳になった時に婚約式に出掛け執り行われる頃合いを見計らって魔呪道具の文字の呪いを破壊して呪い返しを成してから、煩わしいものを取り払って、最後に薬屋に転移しました。これが私側の事の次第です。」



一通り話し終えたルウィエラは、喉が乾いて林檎水が飲みたいなと切実に思った。










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