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大地を司る人外者との絆を断ち切ってみた  作者: 蒼緋 玲


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謁見






暫くあちこち曲がりながら歩き続ける。

王宮の中枢区画には簡単に辿り着けない仕様になっているのだろう。


右、左、真っ直ぐ、左…と帰る時に無事出口に到達できるように頭の中で反芻しながら歩いて、ようやく先に重厚な暗めの渋い黄金色の大きな扉が見えてきた。


その少し前から扉に近づくにつれ微かに、そして扉のすぐ側に来た時には明確に後方から視線を感じた。



悪意のある視線が。



首を傾けている間に先頭にいたツェクトは「キックリ殿と連れの者をお連れした。謁見の許可を。」と扉の左右にいた近衛兵に伝え、兵の一人がノックして中に入り、直ぐに戻ってきて「お入り下さい。」と答え、左右の扉を開け放つ。



ツェクトを先頭にキックリとルウィエラが入室し、ツェクトはこちらに一礼して国王の側につく。重みのある色合いの真っ赤な絨毯が謁見室の玉座まで続いており、左右の壁側には上部が円く幅の広い窓が並んでいる。




その窓の一角に一脚の椅子が置かれ、そこに一人の男性が座っている。


陽の光の加減で良くは見えないが、その場に居て何も言われないならば、それが許される立場なのだろう。そう判断したルウィエラはそちらに関心がなくなり前に進んだ。


キックリは中央あたりまで歩いて行き、その場で片足を跪いて頭を垂らした。ルウィエラは同じ位置より一歩下がってキックリに倣って跪き頭を下げる。




「よくぞ参られた、顔を上げよ……とかさー、キックリさんに対して恐れ多くて声も足も震えちゃうよね。ほら、全身がガクガクだよ。もうそろそろ顔上げてもらえると助かるかな。」



恐らく国王が喋っているのだろうが、なんだか威厳や貫禄というイメージが全くない喋り方だ。

柔和な声音で、声は大きくないのに朗々と広い謁見室に響く声が戯けるような言葉を紡いだ。



「なんだい、久々だからこうやって一市民のように謙って膝をついているっていうのにねぇ。」

「ほんっと止めてそれ。キックリさんにそんなことされたら今夜の夢見が間違いなく悪くなるじゃないか。」

「おや、なら夢を見ないように現実でこってり絞っておくかね。ぐっすり眠れるだろうよ。」

「いやそんなことされたら意識混濁になりかねないからね。その後の執務が滞ってしまったどうするの。ツェクトは助けてくれないんだよ?」



キックリの辛辣な言動に軽快に返していて楽しそうではあるが、もう顔を上げていいのだろうか。ルウィエラは頭を下げたまま首を傾げる。



「あ、ごめんごめん。キックリさんなんか、既に顔上げているからね。君も顔上げてくれていいよ。」



そう軽やかな口調で言われ、ルウィエラはゆっくりと顔を上げて国王の顔を拝見する。




玉座には一言で言うとこれぞ王、という風貌の美丈夫が座っていた。



座っていても背が高いと十分に分かる長い手足と、執務を熟していても合間に鍛えているだろう体躯。それが分かったのはツェクトが着ている恐らくジュストコールだろう上着が玉座の肘置きにかけられていて、本人は白いシャツに艶消しの白いクラヴァットを緩め、黒いトラウザーズというシンプルな装いで体の線が良く見えたからだ。


大地の女神ジヴィラより少し黄みが強い輝く金色の少し緩めなカーブがついた肩までの髪を無造作にかき上げて後ろに流している。


足を組んで肘掛けに肘をつき、頬を支えて頭を傾けながら座っている姿がとても様になる、正に王様という出で立ちだ。


ルウィエラは思わず彼の言う、体が震えているか確認してしまったが、今は止まっているようだ。



「あはは、震えはもう止まっているよ。これでも王様だから、格好つけなきゃいけない時というのがあるんだよねぇ。私はこのディサイル国、国王のアルノー・ヴィル・ディサイルだ。君の名前を教えてくれるかい?」



穏やかで軽い口調だが、その中に泰然と言葉に重みを載せる喋り方は砕けた格好をしていても王なのだろう雰囲気を持つ人物だった。



「初めまして、エルと申します。」

「うん、エルちゃんか。初めまして。早速で申し訳ないんだけど、一ヶ月前に起きた出来事について私達が調べたことの概要とエルちゃん側の事のあらましを照らし合わせたいんだ。協力してもらえるかな?」



にっこりと微笑みながら柔和な表情のままアルノーは尋ねた。


ルウィエラがキックリの方を見ると、キックリは肩を諫めながら好きにやりな的な仕草でうんうんと首を縦に振る。


キックリの許可を得たので、ルウィエラは真正面に向き直し、僅かに体重は増えたがまだまだ痩せっぽちな体からそんな腹からの声が出るのかと思うほどの朗々とした声音で答え始める。



「ちゃん、は止めていただきたいです。」

「………うん?」

「ぶはっ!先ずそこからなのかい…くくく」



横から思わずといった感じで噴き出したキックリがお腹を抱えているが、ルウィエラは視線をアルノーから動かさず話を続ける。



「ちゃん付けは基本親しい関係性の相手に対して用いられます。よって私には当てはまりませんので呼び名を変えるか呼び捨てでお願いします。」

「えー、なんか見た瞬間からエルちゃんってイメージが湧いたんだよね。初めの印象って大事じゃない?僕直感を大事にする方なんだよね。」

「変えてはいただけない?」

「そうだねぇ、だってエルちゃんって何かしっくりきていいかなって。変えたくないかなぁ。」

「解りました、諦めます。では交渉は決裂ということで、失礼致します。」

「………うん?」

「ぶふっ」



ルウィエラはそう言うと立ち上がり踵を返して扉に向かう。またもや噴き出しているキックリはルウィエラが話した後に国王様と話があると言っていたので終わるまで街でも観ていることにしようと足を進めた。



その時、窓の方から魔術の織を感じた。

反射的に魔術を展開しようと思ったが、魔力が動かせないことに気付く。そしてその織がルウィエラに滑らかに纏い、その場から一歩も動けなくなってしまった。



(ああ、確か遮蔽空間魔術を施しているだろうといっていたな………ん?)



ならば何故ここで捕縛魔術が展開されているのだろうとルウィエラは首を傾げる。



「サリトリ―!」



アルノ―が声を上げたと同時に捕縛魔術が解除される。解除に用いられた魔術跡はキックリのものだった。



「この程度でおいたしているんじゃないよ、国王も悪ふざけは程々にしな。」



やれやれという風に溜め息をつきながらキックリが窘める。


何故キックリは魔術が使えたのだろうとキックリの方を見ると、その視線を理解したのか「私は遮蔽条件から外されているからね。」と言った。



「いやぁ、本気でそう言いたかっただけなんだけれど…。まぁ話ししてもらえないとちょっと困っちゃうから、今日だけは我慢するよ。エル、これで良いかい?それとサリトリ―はとりあえずちょっと待ってて。」



アルノ―は窓側の人物に向かって声を掛ける。あの椅子に居たのはサリトリ―だったようだ。魔術を展開した本人は窓側から微動だにしていない。


流石人外者は無詠唱で一瞬で魔術を展開できるのだな、とルウィエラは今の魔術の織を頭の中で復習していた。



そしてキックリが言っていた魔絆砕きによる暴走はしていないようで一安心だ。



「あれ?応答無し?エルちゃ…エル?」

「エル、こんな状況で何を魔術の解き明かしに入っているんだい。ちゃっちゃと話して終わらせておくれ。早くしないとふんわりチーズケーキが売り切れちまうよ。」

「あ、それは最優先案件ですので困ります、承知しました、今回だけということで構いません。二度とお会いすることがなければいいことですからね。」

「うん?何?チーズケーキが謁見よりも重要ってこと?それに解明って何…それよりも二度とないってどういうこと?」

「先ず国側が見たものと、それによる調査と、聴取されたものをお聞きしても宜しいですか?それに対して相違があるものをお話できればと思います。」

「あれ、僕一応国王なんだけど、質問に何一つ返答が返ってこ…」

「時間が惜しいから早くしておくれ、あのケーキは午前と午後それぞれ100固ずつしか売り出されないんだからね。間に合わなかったらどうしてくれるんだい。」

「国王って何だろう…権力って何だろう…まあ相手がキックリさんだし、今日は退いておくのが賢明かなぁ。じゃあ、ツェクト。概要を話してあげてくれ。」

「承知致しました。はあ…何故ここにくるまでこんなに時間が掛かるのでしょうかね…空気を読んでいただきたいものです。」

「ツェクト、後半の発言は敢えて言う必要はあったのかな?君は相変わらず国王に対しての態度が………キックリさんの目が据わってきたからまた後でね。」



しれっと国王に苦言を呈すツェクトと軽快にツッコミを入れる国王はキックリのご機嫌が下降気味なのを懸念して、話題を戻した。






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