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大地を司る人外者との絆を断ち切ってみた  作者: 蒼緋 玲


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激情





外は陽が昇り部屋の中は静黙としている。

まるで周りだけ、音という全てのものを遮断しているかのように。



ルウィエラは微かに震えている手を動かして日記を閉じた。






これは何






ルウィエラはゆっくりと手を握りしめた。


頭の中ではレウィナの日記の内容が反芻されぐるぐると回り、撹拌されているようで、とてもではないが上手く纏められない。






これは







どういうことだ






ルウィエラの母、レウィナがアグランド伯爵家に居たのは


見初められて妾として望んできたものではなく


愛している伴侶の元へも戻れずに


ここにずっと監禁されていたということか




何処にも行けずに

自尊心を傷つけられ

人権を軽んじられ

辱めを受け続け




ルウィエラを守ることで心を鼓舞し続けて


それでも気高く最期まで諦めずに、前を見て戦い続けたのか




でも魔力が足りずに消滅を選ぶしかなかった


ということか




あの人達のせいで







あんな奴等のせいで!!!






刹那、ルウィエラの体内にぶわっと夥しい量の魔力が底から湧き出し噴出する感覚に全身が粟立ち戦慄した。




「うぅ……ぁぁぁぁあああ……!!!!!」




生まれて初めての抑えようのない怒りが限界を突破し、激昂という感情に支配され、カッと目の前が赤く染まった直後、意識の中に膨大な魔力の渦が巻き起こり、それら全てに侵食され呑み込まれそうになる。



ルウィエラは初めての受け止め難い感情が制御できずに、頭を抱えた。


手が、足が、体全体が震え、魔力が噴き出るような感覚が体内で荒れ狂っている。








《母様は最後まで負けずに気張って踏ん張って戦ってくるわよ!》






パッと頭の中にレウィナの快活な文字が思い浮かんだ。



それは膨大な魔力に呑み込まれそうになり、瞳が怒りに燃え濁りかけていたルウィエラの意識を覚醒させていく。



(私の…か…母…様は…きっとこんな時でも気丈にが…んばる筈…………私は…私は母様の娘だ!!)



ルウィエラは即座に蹲って、荒ぶる魔力に全神経を傾け必死に抗う。



(鎮まれ…鎮まれ…!奴等に気付かれる前に!!)



荒れ狂う魔力の暴走にルウィエラは歯を食い縛って全力疾走している魔力の流れに逆らい、必死に操作した魔力を相殺させて、少しずつ落ち着かせていった。




その時。



意識しながら一定リズムの呼吸を心がけながら繰り返して魔力を動かし、ようやく吹き荒れていた魔力の渦が緩やかになり始めた頃、ふと魔力器の下部のぼやけた部分が明瞭にみえた気がした。



その瞬間を見逃さなかったルウィエラは己の器の下部の位置に集中した。今までなかなか視え辛かったそこには魔力が絡まり塊になっているようだった。


更にそこに神経を集中させ絡まった魔力の塊を丁寧に解していく操作を続けていくと、霧が晴れていくように下部の部分が姿を現した。


それは奇しくも今まで無感情であったルウィエラが初めて『怒り』が爆発して『感情』の動きによって顕現したものであるということは後になって理解することとなる。



(…え、何この形…。)



幅が大きめの魔力器の下部の部分がキュッと括れていて先が繋がっており、同じような幅の器が視えてきた。



(絵の本で見た…砂時計?…のように視える。)



下部の底の方はまだぼやけるが、上部の器と殆ど同じ形をしているようだ。



(自分で知覚できない部分には、器が存在していても魔力を貯めることはできない仕様になっていたのだろうか。これからは下の部分にもある程度魔力が送れる……けど)



ようやく呼吸も落ちつき肩で息をしていた状態が緩和され、頭の中にも詰まっていた酸素が行き渡ったような、冷静になれる感覚が戻ってきた。



(いくら魔力器が拡がったとはいえ、もし彼等にやり返したくてもシェリルに根こそぎ魔力を持っていかれたら、量が多い分だけ余計苦しいかもしれない。括れの部分に魔力の束が結び固まっていればまだ――)



考えていた思考にふと閃きが宿る。



(括れに塊…自分で敢えてそれを作ったとして、その部分に栓をした状態にできるのなら魔力吸収を発動されても下部に貯蓄することが可能になる…?)



それができるならばこの先の自分の未来を変えられるかもしれない。


そして母様が残してくれた日記がある…。




今迄ルウィエラは、その生い立ち故に感情が希薄であり、喜怒哀楽すら皆無で、自分の置かれた環境をそういうものなのだとずっと思っていた。



しかし、レウィナの日記を読んで余りにも惨い仕打ちに対して、激しい激情に囚われ『怒り』の感情を知った。



そして思う。



何故この先もルウィエラはこの生活を続け、そして魔力を奪われ続けなければならないのかと。


同時にそうされる権利など彼等にはないのだと解ると、ストンと心に浸み込んだ。



そして何よりも。



ルウィエラはレウィナの憎き相手、オーリスの血を引いていない。


彼とは全くの赤の他人であり、レウィナの誰よりも愛する人との子供なのだ。



ということは



シェリルからの邪気のない数々の非道な行いも、憎い女の子供だからとタチアナからの折檻を受ける筋合いもないのだ。



ならば私は





この環境を

この不遇の数々を

この生き方を





全て覆していいのだ





そう決断を下すと、殆ど動かなかった心の奥底がぎしりと動き出し、息を吹き返すかのようにゆっくりと始動し始める感覚を覚えた。




ルウィエラは目を閉じ、ゆっくり深呼吸を繰り返し、魔力の動きを操作する。



(先ずは魔力器の下部に魔力を流してから、くびれ部分に魔力の小さな塊を作って、栓をするように意識的に操作する。)



思考に意識を集中させながら魔力を動かし意識の中で具現化させていく。


魔力は現時点ではあまり溜まっていない。少しだけ下の器部分に細めに調整して、今まで封じられていた括れの部分に送り流していく。


始めは、なかなか扱うのに苦労したその魔力の動きは、ルウィエラの貪欲な好奇心と弛まぬ努力によって精妙に扱えるようになっていた。


するすると色とりどりの魔力を下部に数本ずつ絡まない様に送り込む。流れていった魔力は下部内でふわふわと旋回している。



(量はこれくらいにしておこう。シェリルがいつ何時、魔吸収してくるかわからないし、下手に魔力が少ない状態が続いて何かに感づかれても困る。)



ルウィエラは再び集中して、今度は数本の魔力の束を絡ませ小さな塊を作り、括れに押し込めてぎゅっと栓をするように意識させ、そこに留めて様子をみることにする。


ふぅと息を吐いて、窓を見ると陽が傾き始めていた。魔力を今迄にない程、精密に扱ったので少し疲れを感じたので、ルウィエラは残っていたパンを噛み千切って口の中の唾液でふやかしながら食べ、横になる。



(私の魔力には母様の魔力が交じっている…)



以前は魔力だけがルウィエラと共に在るのだと認識することで、今まで動かなかった心がほわりと微かに温かくなる感覚が芽生えた。


そして今はそれに併せて、ルウィエラをとても愛してくれていたレウィナの魔力も共に存在しているのだと理解すると、ほわりほわりと温かく満たされるような感覚に、コチコチの心はまだついていけずに少し混乱する。



その感情はまだ解明できないが、嫌な気持ちではなかったので、いつかこの気持ちの在処がわかるのではないかと判断して目を閉じた。




その日の晩のことだ。


昼間の魔力操作の疲労で眠っていたルウィエラは、突如、腕輪部分が発火するかのような熱さと痛みに驚いて飛び起きた。そしてその直後に体全体が血の引くような感覚と無数の針で刺されるような痛みに、体を丸め蹲った。


目をグッと閉じ痛みを流そうと試みる。頭の奥がズクンズクンと痛み顔を顰める。


すると思ったより痛みは早く退き、ルウィエラは目を開き少し乱れた息を整える。



(相手も調整を試しているってところか。)



暫くは加減を測る為に繰り返されることだろうと予測し、ルウィエラは目を再度閉じ魔力を探る。



上部の魔力は三分の一も貯まっていなかったが、その量の半分ほど吸収されたらしい。下部を集中してみるとくびれ部分の塊はそのままで、その下の器の中の魔力もさらさらと旋回している。


これで、今後吸収され続けても下部に溜めておけることが確認できた。ただ上部に殆ど残ってない時は絡まった塊が持っていかれる可能性もあるかもしれない。その辺りは魔力の残量に気を付けなければならないだろう。



少し喉が渇いているが、魔力を吸収されてふらふらになっている体に鞭打っていく程でもないので、今夜はこのまま寝てしまおうとルウィエラはベッドに潜る。


先程まで寝ていたので眠れないかもと思ったが、魔吸収された直後だった為、程なくして眠りについた。






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