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羅城門の鬼

 それから数日。資朝は山積みの仕事を片付けただけでなく、雑務を仕組み化して日々の業務を効率的に進めた。あっという間に宮中での実績を作った資朝は時おり里内裏の外へ出歩いていた。一月も経った頃、そのことで資朝は東宮に呼ばれる。


「資朝、お主の働きは聞いているぞ」


 上畳に立膝で座した東宮は今日も顔が輝き、前に見た時よりも楽しげだった。


「ありがとうございます」


 頭を垂れる。


「良い、良い。面を上げい。で、お主、昼過ぎ頃からここを出て、何やら外でしているそうではないか」


 顔を上げた資朝は眉一つ動かさず平然と説明する。


「はい。在位の君から伺った通り、暇を作って女君を探しに出ております」


 それを聞いた東宮は鼻からフッと息が吹き出て、くつくつと笑い出した。扇を取り出し、顔を隠す。もうそうなればカカカッと笑い声が扇の裏で鳴った。


「律儀すぎる……! お主、在位の君の言葉を本気にして」


「私ももう二十四(にじゅうし)。妻が居ないのは噂が立ちます。在位の君はそれを案じて」


 パチン! と東宮が扇を閉じた。資朝は話の続きを呑み込む。


「そんなわけあるか! すでに噂で持ち切りよ。知らんか、羅城門の鬼だとか言われているのを」


「まったく」


 戻橋(もどりばし)の鬼なら聞いたことがあるが、羅城門に鬼が巣食う話は初耳だった。いや、それにしても鬼? 資朝は顔色こそ変えなかったが、座り方を正したり狩衣の裾を気にしたり、落ち着きがなくなった。


「はは、さすがのお主も面食らったか。まあそうだよな。よし、決めた」


「な、何でしょうか」


 またもクビにされるのか。資朝は首を短くして身構えた。


「資朝、紫宸殿(ししんでん)の花見に随行しろ」


 紫宸殿の花見は春の一番の催し物で、治天の君(上皇)と謁見する機会を得る。大抵は陰陽師が決めた公卿が謁見を許されるのだが、資朝のような若い中流貴族にそのような機会は皆無。東宮の従者として昇殿できるならば、これに勝る幸運はない。


「ですが、東宮さま。なぜ私なのですか?」


「不満か? それとも、やはり在位の君の側で仕えたかったか?」


 資朝は押し黙った。珍しく、眉間にしわが寄る。


「私は帝に言われたまま東宮さまにお仕えしている身。胸を張れません」


 必ず戻ると約束した帝に対する情けなさと、そんな自分を重用してくれた東宮への有り難さの間で、矜持も忠誠心もゴチャゴチャになっていた。


「だろうな。帝に言われっぱなしで良い訳がない。まずは俺の従者として貫き通してみろ。それから女君は好きなだけ探せば良い」


 東宮が扇の先で眉間を突く。

 しわがほぐれた資朝は紫宸殿の花見へ随行することとなった。

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