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桜枝の追求、さらに

 資朝は桜の枝を脇に置いた。


「残るは二つになりました。左が美濃権守実衡殿、右が卜部兼好殿です」


 御匣殿が割って入る。


「あれ? 少しお待ちを。こちらは二つとも手頃な長さの枝でございます。見分けが付かないのでは?」


 資朝の押収した桜は里内裏に運ぶ間で入れ替わってしまっていないか。そういう質問だ。


「たしかにどちらも長さは同じくらいです。ですが、蕾の数をご覧ください」


 資朝は御匣殿に見えるよう桜を移動させた。


「蕾ですか? ええと、こちらの桜は蕾は一つも無く。で、こちらの桜は二つ……、いえ三つですか?」


「はい。なので蕾の無い方が美濃権守実衡殿の桜。有る方が卜部兼好殿の桜と覚えておきました」


 資朝は得意げに話した。


「なるほど。で、紫宸殿の桜と同じ桜はどちらなんですか?」


「……」


 口ごもる資朝に御匣殿はじっとりとした目つきをした。


「見なかったんですね。はぁ~あ」


 これみよがしにため息をつく。


「こらミクちゃん」


「ご、ごめんなさい」


 月影の君にたしなめられ、頬を赤くして御匣殿は目を伏せた。こういうところは年相応だ。

 資朝は「気にしなくて良いです」と答えたが、御匣殿は少し涙目になった。また、仏頂面だったのだ。


「わたしにも桜を見せてくれる?」


「わかりました。……構いませんか?」


 御匣殿が確認するので、「どうぞ」と返した。御匣殿は小動物が餌をサッと持っていくような警戒心で桜の枝を取ると、壁に背を付いて御簾の向こうへ半身をやり、月影の君へ桜を手渡す。


「……やっぱりね。この桜はまったく違う桜よ」


 資朝は御簾をまじまじと見つめた。


「そんな。蕾の数こそ違いますが、白い花がぽつぽつ咲いているのは同じではありませんか」


「ええ、そこは同じね。でも、そうね、ミクちゃんは何か気づかない? ほら、花のとことか」


 月影の君は傍らにいた御匣殿に桜の枝を手渡したようだ。


「あっ、言われてみればたしかに。よく見るとぜんぜん違う花です! それにこの花……」


 御匣殿は小さく飛び跳ね、さらに続きを述べようとしたら、月影の君が台詞を奪う。


「そうね、うちの庭の桜だわ」


「ええ!?」


 資朝はびっくりして床に手を付いた。床から尻が浮いて半端な中腰になったまま、中庭の桜と御簾を見比べる。

 大炊御門万里小路殿は紫宸殿から歩いて四半刻はかかるし、公卿ともなれば牛車で従者を連れ立って移動するのだから、もっと時間は掛かるはずだ。それだけの時間、紫宸殿から姿を消せば怪しまれるし、何より途中で出入りするのは悪目立ちする。資朝が見逃すはずはない。

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