第八話
「お前ら全員OUT」
そうローズが宣言するとまだ昼過ぎで明るかった空は黒雲に包まれて、鳥は空の彼方に逃げ出し町中に居たネズミ等の動物も一斉に町から出ていく。
空気は重くなり先ほどまで聞こえていた戦闘音も繁華街から聞こえた喧騒も今は聞こえない、聞こえるのは僅かな息遣いと己の鼓動の音だけであとは何も聞こえなかった。
その場に居た全員がローズを見ると白い麻布の服に身を包んでいた筈が、今は黒い服に赤い刺繍の入ったマントを羽織っている姿へと変わり、何も知らなければ別人がここに居ると思ってしまうほど雰囲気が変わっていた。
その手には黒く長い棒のようなものが握られておりそれを見た女神は喜びながら話し出す。
「あぁっ!聖女よ、それはまさしく聖具ではないか、ちゃんと力を増幅していたのならそういっあああああ‼」
言い切る前に女神はローズに棒で殴られ甲高い金属音と共に吹き飛んでいく。
吹き飛んだ女神は信じられない事が起きたのか起き上がると殴られた臀部をさすりながら立ち上がる。
「なぜ我は地上へと叩き落されたのだ!?我は地上の民とは次元の異なる存在で干渉されないはず!」
「うるせえ!、まだ足りないようだな!?」
そう言われた女神は全方向に光の壁を展開し空中へと飛び上がる、しかしその努力空しく女神はまた臀部を殴られ地上へと落ちてくる。
「おかしい一度ならず二度までも‼それに聖女にはこんな攻撃能力無かった筈、その聖具が原因か!」
女神は聖具と呼んだ棒を解析する
名前)黒薔薇姫の愛用バット
攻撃力)1
効果)防御力無視 防御不可 反撃不可 痛覚増加
説明)
黒薔薇姫の怒りを買った愚か者はこのバットでシバかれる
このバットで殴られる時にはいかなる行動も意味をなさない
お前はOUT
「なっ!」
また女神は殴られ吹き飛んでいく、痛みは酷く普通の人間なら死んでいるのではと思ってしまうほどだったが傷は全然負っていなかった。
女神は痛覚増加の効果を見た記憶が無かったので一体どれほど増加しているのか確認をする。
痛覚増加
黒薔薇姫の怒りによって20倍から100倍まで変化する
お前は100倍、百叩きな
女神は急いで天界に逃げようとするがゲートが上手く開かなくなっていた、背後に気配を感じ恐る恐る振り返ると直視できないほど恐怖を感じさせるローズがそこに居た。
「OUT」
そう言われ様な気がした…
ゴクリと息を飲み込み覚悟を決めた女神だったがその覚悟は足りなかった、まるで工事現場の様な音を伴いながら先ほどの路地まで吹き飛んでくる女神、色んな所から変な液が出ており見るも無残な姿へと変貌を遂げていた。
その異様な音と変わり果てた女神を見て恐怖しロイセンの部下の半分ほどは我先へと逃げ出すが、女神ですら逃げれなかった相手にどこへ逃げれると言えるのだろうか、甲高い音があちらこちらで鳴り響き恐怖は伝染していく、ロイセンはカルラに突きつけたナイフが自身の生命線だと信じる事しか出来ず動けなかった。
音が鳴り止む頃には死屍累々の光景が広がり頭から壁や地面にめり込んでいる者もいる、残っている相手はロイセンとベルダだけだった。
本来味方であるはずのテレイオスやバンディ達もあまりの惨状に動けないでいた。
「ふっふふふ」
気でも触れたのか突然笑いだすベルダに怪訝な表情を隠せない一同、ベルダはそんな事お構いなしに仰向けになって寝転び、話し出す。
「私は分かったぞ聖女よ!貴様は臀部ばかりを狙っているようだからな、こうすれば殴れまい!」
勝ち誇ったように高らかに宣言するベルダにまるで希望でも見たかの様に表情を明るくするロイセン。
ローズがゆっくりとベルダに近づき大きく振りかぶる
「馬鹿め!地面が有る限り殴られはせん!」
ローズが行ったのは下からすくい上げるような縦のスイングだった、棒はまるでそこに地面が有るなんて知らないかのように通り抜けベルダの臀部へと当たり打ち上げられる。
痛みのあまり気を失いそうになったベルダだったが持ちこたえ落下する自身のバランスを整えようとする、その目に映るはもう一度振りかぶるローズの姿が見える。
ベルダは臀部を手で覆い隠し落下に備える、地上に着地する瞬間ベルダに見えた光景は真っ暗な暗闇と絶望するロイセンの顔だった。
テレイオスはその瞬間を見ていた、落下するベルダの顔面を一度殴りつけ半回転してあらわになった臀部を棒を振った遠心力そのままの勢いで殴り吹き飛ばしたその時を。
気絶したベルダはその他大勢に埋もれ絶望の状況に立っているのはロイセン唯一人になる。
「小娘!それ以上歯向かうではない!母親がどうなっても良いのか!」
それが聞こえたのかどうかは分からないがローズの動きは止まった。
「ふははは!そうだそれで良い!こんな事した貴様はもはや聖女ではない!異端者だ!」
「なにを言う!お前たちの言う女神が聖女と呼んでいたではないか!気でも触れたか!」
テレイオスが至極もっともなことを言うがロイセンには響かない、それどころかローズが女神に危害を加えた事を責め立てる。
「なにを言うか、その女神様も言っておったではないか!聖女にこれほどの攻撃は不可だと!」
「その後彼女の持つ黒い棒を見て様子が変わったのも事実だろう、あなたも見ていただろう?」
「貴様では話にもならん!さあ異端者よその武器を捨てて私の下の付くがいい!そしてその力を私の為に振るうのだ!」
高笑いをしながらローズに命令をするロイセン、テレイオスも他の人間は人質が居るせいで迂闊に動く事も出来ない。
だがテレイオスはまた見てしまった。
ローズがロイセンの前と後ろ両方に居る所を。
ロイセンの視点ではローズは目の前で居た筈なのに声が後ろで聞こえ、目の前のローズはふわりと消える。
「お前は何度もOUT。
もう許さない、ユルサナイ」
恐怖で振り向く事も出来ずにいたが人質にしている女の首にナイフを突きつけていれば下手な事は出来ないはずだと自分に信じ込ませる。
そんな事はお構いなしに背後から縦に切りつける様に殴りつけるローズ、そのバットはロイセンの体をすり抜けナイフを持っていた腕だけを叩きナイフを弾く。
ロイセンは声にならない悲鳴を上げながら崩れ落ちながらその場を離れて腕を抑えてもがき苦しむ、その痛みを何とか耐えた後ローズを睨みつけて罵声を浴びせる。
「貴様ああああ!この私に向かってなんたる事を!許さんぞ!今回の事が終わり次第貴様等一家に地獄を味合わせてくれる!」
「絶!対!ユルサナイ!」
他の人間にはローズの表情は暗くて見えなくなっていたが、ロイセンには見えていたようで先ほどまでの怒りや罵声も無くなりただただ恐怖を感じた表情へと戻っていた。
ゆっくりとロイセンが居る場所に歩みを進める、恐怖のあまり体中から体液をまき散らしながら這いずって逃げようとするロイセン、あまりの惨状にロンド達はローズを止めに入ろうとするが体が動かず見ている事しか出来なかった。
ロイセンがテレイオスの足元へと付き助けを乞おうと手を伸ばした瞬間ロイセンはその場から消えてゴルフの様に殴り飛ばされ壁に叩きつけられていた。
殴られたのは腹のようで呼吸も上手く出来ずヒューヒューとか細い呼吸を繰り返している、またゆっくりと近づき殴り飛ばされていくロイセン、まだ黒かった髪は白くなり太っていたはずの腹は痩せ余った皮が大きく垂れているのが服の隙間から見える。
あまりの変わりようにテレイオスはロイセンに解析をかける。
解析結果
名前)ロイセン・ナイチード(38歳)Lv28
職業)スレガム教司教
生命力)228 (322)
魔力)137
攻撃力)87
守備力)132
魔法攻撃力)102
魔法防御力)83
速さ)78
特技 偽装Lv8 洗脳Lv5 精神汚染Lv3 神聖魔法Lv5
状態 恐慌 精神負荷(大) 脂肪燃焼速度異常 痛覚肥大
何やら良く分からない物がいくつかあるが以前見た時と情報が変わっており、Lvと能力値は大幅に下がって神聖魔法のLvも7は有った物が下がっている。
恐らく偽装の効果で変えられていたモノが追いつめられる事で露見したと思われた。
だがテレイオスが注目したのは生命力が6しか減っていない事だった、すぐにローズの公開された情報を思い返し仮説を立て始める。
「あの棒の攻撃力が133で彼女と合わせて134ならば減り方は有っている、だが痛がり方がおかしい事になる、防御力貫通で考えても痛がり方と一致しなくなる」
ぶつぶつと仮説を立てるが分からず他の倒れている者の解析をしても棒で殴られた回数の二倍減っているだけだった。
「他の奴も2づつ減っているとなると貫通が濃厚か、あの棒の攻撃力は1になるが…これ以上は危険を伴うが仕方あるまい」
今も悲鳴と共に何発殴られたか分からないロイセンと、恐らくローズの事を見たであろう痙攣している女神とやらを横目にローズの棒に解析をかける。
見たね?