第六話
結局あの日一日は頭痛が止まなく、気合いが無ければ表情に出てバレていたであろうと思うと有って良かったと思うローズ。
一応神聖魔法で初級回復魔法を使ったが効果は無かったので病気ではないと自己判断をした。
次の日の朝には頭痛も収まっていて父親とアンネが仕事に行き、ローズとカルラは食堂に一緒に赴きしばらく休みたいと伝えると
「あらあらローズの体調がまだ治ってないんかい?それなら仕方ないから家は良いけど多分初めての体調不良だから心細いんだろう?一緒に居てあげて早く治してやあげな?」
と心配までしてくれているので体調は悪くないローズからしたら申し訳ない気持ちだった。
家無へ事に帰りカルラは普段仕事で忙しく出来ていなかった細かい所の掃除を、良い機会と思いする事にしていた。
ローズも母に言われて手伝う事に、始めは棚の上の埃などを雑巾で拭いていただけだったがそれほど大きな家では無いのを二人でやっていれば早く終わるのも当然だった。
仕方ないので家具をどかしてその下まで掃除する事に、そういった所を掃除すると溜めていた水も早く汚くなるので水を汲みに行く量が増えてカルラの腰に負担がいっていた。
「神聖魔法使っとく?」
「ありがとうローズ、でもこういう疲れはね初級じゃ取れない物って聞くからね」
気を利かせようと提案するがカルラは苦笑いで断る。
せめて水汲み位は代わりたかったがローズが家を出るのが危険な為こうして居るのでそれも出来ない。
「ま、掃除もほとんど終わった事だしご飯でも作ろうか、ローズそこの水瓶から鍋に移して沸かせといてくれない?」
「はーい!」
少しでも母の負担を軽くしようと台所に行こうとすると外から声が聞こえてくる。
「今ローズって聞こえたぞ、この辺に聖女が居る筈だ!探せ!」
「「「今すぐに!」」」
ドタドタと足音が聞こえる、母も今の声が聞こえたらしく急いで行動に移る。
「ローズ、今すぐにそこの掃除で空になった水瓶に入りなさい、そして絶対に音を立ててはいけないわよ」
小さな声でそう指示を出されたローズは静かに頷き瓶に入ると、母が汚れた洗濯物を持ってきてローズを隠すように上から入れる。
そうこうしている内に家の前で足音が消える
「家の物は居るか?」
「はい、居ますが何ですか?」
カルラはいつも来客が来た時と同じようにその場から動かず返事をする。
「少し訪ねたい事が有るのだがよろしいかね?」
「家事で忙しいので手短に終わらせていただけるなら」
あくまでも家の鍵は掛けたまま声だけで返事をするカルラ、それが気に食わないのか分からないがイライラした口調で話し始める男
「これでは話しずらいので扉を開けてお話ししたいのだが?」
「先ほどもお伝えした通り家事で忙しく、それに掃除で汚れておりとても人前に出れませんので」
ローズの記憶では汚れてはいるがそこまででは無かった気がした、だが何やらごそごそしているので母は何かをしているのだろうと予想する。
「それでも良いのでお話しさせてもらえないか?」
そうとう苛立ちを覚えているのか声に圧が掛かっている。
母もこれ以上は無理と判断したのかドアを開ける音がする。
「やっと開けてってなんだその恰好は!」
「今日は休みなので釜土の掃除でもしようかと思いやっていたのです」
「それにしてもそんなに黒くなるのかね」
「普段やっていなかったので不慣れなので、もし良ければやってくれませんか?」
どれだけ黒くなっているかも気になるがしれっと手伝わせようとするその精神にローズは恐怖を覚える。
「いや、こちらも忙しいのですまん」
「そうですか、それで訪ねたいこととは?」
「ああ、ここにローズという子供はおるか?」
ローズの心臓はバクバク音を立てる、大きすぎて静かになって欲しいと願っていると
「知りませんね?どこかで聞いたことは有るのですが」
「そうか、邪魔したな」
ローズはほっと溜息を吐きかけそうになるのを堪え立ち去るのを待つ。
するとドアのきしむ音が聞こえ始めた時走る足音が聞こえてくる
「この周囲にその家以外誰も居ないぞ!人が居るならそこの家に居る筈だ!」
「なに!?」
その瞬間バタンと大きな音を立ててドアに鍵をかける音がした。
ローズは急いで母の元に駆け寄る。
「どうしようお母さん」
「裏の窓から出て逃げなさいお母さんの事は心配ないから」
「でも!」
怒声とドンドンと蹴る音がけたたましく鳴り響く室内で静かに話す二人。
「本当はあなたが大人になったら話そうと思っていたんだけど」
「本当のお母さんじゃないんでしょ?拾ってきたんでしょ?」
話を遮るようにローズは言われるであろう事を先に言う
「そう、知っていたのね?いつから?」
驚きはしたものの至って落ち着いた口調で話すカルラに今にも泣きそうな声で話すローズ。
「拾ってもらった時から、本当のお母さんもうろ覚えになっちゃけど覚えてる、アンネが助けてくれたのも」
「そうなの、髪色から推測したのかと思ったわ、でもね聞いて欲しいのあなたの事を他人だなんて思った事は無いのよ?」
「知ってるよ、私の職業お母さん達も見たでしょ、あれ本当のお母さんからのじゃなくてお母さん達から貰った大切な物だから」
「そうね」
ローズの頭を撫でながら返事をするカルラ、汚れるなんてまったく気にしないでカルラの胸にだきつくローズの優しい一時はそう長くは続かない。
斧でドアを開けようとしているのか壊され始めた。
「さあ、早く行きなさい裏に回られたら逃げれなくなる」
「逃げた後はどうしたら」
「大丈夫、捜しに行くからまた家族で暮らしましょう?これは引っ越しよ」
そう笑顔で話すカルラの顔に不安の色は見えなかった、ローズはその勇気をもらい受け窓から飛び出し逃走を図る。
逃走した後すぐにドアはこじ開けられローズが逃げた後だと分かると先ほどの男はカルラを引っ叩く。
「おのれ逃がしおったなこのくそ女が!」
「そうよあの子は自由よ、誰にもあの子を縛れないわ」
「この女まだ叩かれたいらしいな!」
強気にほほ笑むカルラを忌々しく見ていた男だったが何かを思いついた顔になり不気味な笑みを浮かべる。
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「なに!もう動いたのか!」
「すいませんこんなに早く動くだなんて」
急いで報告に来たコットから話を聞いたガルデン司教は急ぎテレイオスに伝令を飛ばす
「危害を加えて聖女様からの不信を得なければ良いが」
「子飼いの部下にやらせているようなので手荒な真似も辞さないかと思われます、もしもの事が有ったらと思うと気が気ではないですね」
焦るコットにガルデン司教は覚悟を決めた顔をする
「いざとなった時の為に私も向かおう」
「お供します」
急ぎ足で教会を出ていく二人のただならぬ雰囲気に事情を知らない神官たちは驚きを隠せないでいた。
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「すまないが警備兵の諸君には大仕事を任せる事になった」
「む?どういう事だ?それは今急いで入って来た伝令のせいか?」
テレイオスは真剣な面持ちで仕事の変更を告げるが警備隊長であるバンディは話を聞かなければ応じない姿勢を見せる。
「緊急事態なので箝口令を敷くが、実は今回の合同での警備強化はある人物の警護が目的だった」
「ある人物とは?」
ラブル副官の当然の疑問に答えていくテレイオス
「10年前に神託で聖女が現れたと言われていた、そしてつい先日聖女と思われる少女が見つかったのだが、話をする前に逃走されたため気持ちが落ち着くまで極秘に警護しようとしたのが作戦の目的だった」
「目的だったて事と大仕事とは?」
ロンドは嫌な予感がし冷汗が出てきたが確認をする。
「だったなのは計画を変更しなければいけないほど急変したからだ、今入った情報では一部神官によって聖女様の身柄を拘束しようとする動きが確認されたので、先にこちらで保護及び危害を加えようとする者達の捕縛だ」
「ローズ!!」
「おいロンド!話は終わってないぞ!」
ロンドは話を最後まで聞く前に会議室から飛び出していった。
「…あの様子からするとそうなんでしょうね、話は簡単です彼の娘のローズさんの身に危険が迫っているので、任務としては危険人物の排除と一部の神官や高官の捕縛、そして一番優先しなければいけないのは聖女であるローズ様の安全確保です」
「いいや違うな、仲間の娘であるローズの安全確保だ!」
「今回は隊長の意見に同意ですね、すぐに行動しましょう」
バンディとラブルはそこにテレイオスが居る事を忘れているのか外に出て指示を飛ばし始める。
ラブルに至っては騎士すらこき使い始め騎士達も疑問を持ってはいるものの指示に従ってしまっていた、バンディは簡単な指示を出した後はすぐ動けるものを連れてロンドの後を追いかけ始めていた。
「これ以上悪い事は起きないでくれよ…」
そうつぶやくとテレイオスは騎士にそのまま指示に従うよう命令した後どこかへ走っていく。