第五話
ローズが去った後のテントは立ち入り禁止になり、別のテントを立ててそこで別の神官によって水晶による解析業務を続けられた。
立ち入り禁止のテントの中ではテレイオスと老人が会話をしていた。
「まさかあの嬢ちゃんが聖女様の疑いが高いなんてな、ある意味運が良かったかもなスターチ様」
「立ち入り禁止にしたとはいえここは安全では無いのだ、もう少し言葉を選ぶのだ小僧…」
護衛の一人が威圧感たっぷりに警告を言うがスターチと呼ばれた老人は手を挙げて静止させる。
「よい、テレイオスには公の場以外での発言については許可を出している、それよりも聖女様を警戒させてしまったのは私の落ち度だ、どうにか話し合いの場を設けさせて貰わなければ進めない」
「それもだが今回の事はロイセンにはバレたと思った方が良いな、外の騎士何人かが入れ替わっている、今頃それらしき人物が居なくなったと報告しているだろうよ」
「ロイセンは誰にもバレずに事を運びたいと考えた居る筈だ、公に糾弾はしてこないだろうが聖女様に何をするのかが皆目見当もつかん」
悩むスターチにテレイオスはここは任せてくれと言わんばかりに胸をたたき宣言する。
「俺に任せておいてくれ、俺の隊でこの周囲一帯を見回りを行って聖女様に被害が及ばないようにするさ」
「わかった、そちらは任せよう、ロイセンの周囲はコット司祭に探って貰うようにして動きが有ったらすぐに知らせよう」
善は急げといわんばかりにテレイオスはテントを出るとすぐに部下に指示を飛ばし行動に移す。
--------
「うーん、とりあえず逃げてきちゃったけどどうしたら良いんかな~」
ローズは悩んでいた、自身の高い能力値と新しく出てきた聖女?の職業に。
「能力値が高いのはなんとなく察していたけどここまでとは思っていなかった…てかお父さん口の中メチャクチャ痛かったんじゃん、ちょっと痛かったで済んでなかったんじゃ…」
「「ただいま~」ローズちゃんと行って来た?」
顔色が真っ青になりながら震えていると母とアンネがお昼に戻ってきた。
「い、行って来たよ…」
「あんたどうしたのそんなに顔真っ青にして!!」
「ローズ!?体調悪いの?体も震えてるよお、母さんどうしよう!」
ローズの顔色を見た二人は驚き母は薬箱を取りにアンネは熱がないかの確認をする。
ローズは体調が悪い訳ではないと説明しようとするが二人の勢いで言い出す事が出来なくなっていた。
「アンネ、とりあえずお父さんに今日は早めに帰ってくるように言ってきなさい、ついでにこれでご飯の材料も買ってきてエリシャさんに行けなくなったって事も言って頂戴、何が要るかはここに書いてあるから」
「わかったよお母さん、ローズ何か欲しいものはある?」
「な、無いよ…おとう…」
お父さんには何も言わなくてもいいよと言おうとしたが、言い切る前にメモと財布を持って走って行ってしまった。
ローズは申し訳ない気持ちで一杯になりながら時間が経つのを待つしか出来なかった。
--------
「なに!ローズが病気になった!?」
「うん、だからお母さんが早めに帰ってきてッて、ローズもお父さんって言ってたよきっと早く会いたいんだよ」
「しかし今日は大事な仕事が有ってだな…」
警備兵の詰め所に娘が来たと連絡が有りロンドが来てみるとローズが病気になったとの連絡だった。
ローズはアンネが連れて来てから一度も病気になった事がなく、家族が流行り病にかかった時も一人ピンピンしていたほどだった。
確かに心配では有るものの今日は騎士と合同で警備強化の話し合いが急遽予定されていた。
どうしたものかと考えていると話を聞いていたロンドの上官であるバンディ警備隊長がやってきた。
「行って来ると良い!、君と同じ副官のラブル君もいるから問題はないさ!」
「良いんですか?ありがとうございます、引継ぎを行ったら今日は上がらせて貰いますね」
お礼を言い早めに帰れる事をアンネに伝えようとする前に頭をスパンと音が鳴るように叩かれる。
「そんな物は俺に任せて今帰るんだ」
「し、しかし…」
「上官命令だ」
言っていることは無茶苦茶なのにバンディの顔は真剣そのものでそれ以上は言えなかった。
アンネと二人で何度もお礼を言いながら帰っていくのを見届けていると背後から黒いオーラが漂ってくる。
「隊長、せめて引継ぎくらいはして貰いたかったんですがね?」
「す、すまん」
「別に早く帰らせるのは良いんですよ?何やら異様な予感はしたので、ただ…」
バンディは恐る恐る後ろを振り返るとラブル副官が眼鏡を鈍く光らせながら立っていた。
「隊長はロンド副官の作業内容を知りませんよね?そうなると必然的に把握している僕の負担が増えるんですがそこはどうお考えで?」
「今度おごるからさ…」
「で?」
それでは足りないと圧をかけてくるラブル副官に目を泳がせながら必死に考えて出てきたのは
「残業手当を俺が追加で出して更に、今度女性との食事を用意しよう!」
「まぁ、隊長がああする気持ちは分かりますからね、大目に見ておきましょう」
バンディが明るい表情で顔を向ける。
「食事、期待してますよ隊長」
しかし許されるかどうかは約束次第だった!
--------
二人が家に帰り中を見るとそこには何やら反省中のローズと悩んでいるカルラが向かい合っている。
「ど、どうしたの二人とも?ローズは寝てなくて大丈夫なの?」
「ローズは大丈夫なんか?カルラはそんなに悩んでどうしたんだ」
二人とも状況を掴めず様子を窺う。
「いやね、この子は悪くは無いんだけどね~悪くは無いけどどうしたら良いやらで…」
「まずは何が起こっているのか説明してくれないか?」
困った父親にローズが今日起こった事、以前父の口の中がやばい事になっていたのではないかと心配になってしまった事を伝える。
「なるほどな~、とりあえず言えるのは確かに口は痛かったが、それは父さんが頼んだ事だから何か有っても父さんが悪いだけだから気にするな!なっ?」
「うん、お母さんもそう言ってた」
笑顔でローズの頭を撫でるロンド、少し力強くわしゃわしゃしていたがローズは嬉しそうにはにかんでいた。
「ローズが聖女で神官の人達から逃げてきた…」
空気が凍り付き嫌な空気が再度部屋を満たしていく。
「でも確定ではないんだよね?解析して見ても疑問形だったし」
「職業の中には特定の条件を満たさないと出てこない物が有るんだ、ローズが持っているモノだけでもガキ大将と女帝がそれだな、そういうものが有るからもしかしたらこれもそうなのかもしれない」
「ローズが言うには神官の人の様子がおかしかったみたいだから可能性は大きいわね」
アンネが希望的観測を言うが両親によって否定されてしまう。
「しばらくは家から出ないようにして様子を見るしか出来んな…その神官の言う事が正しいなら強制はしないらしいから隠れた者を無理に連れて行こうとはしないだろうからな」
「そうね、急に仕事は休めないから明日行った時に明後日から少しの間休めないかエリシャさんにお願いしてみるわ」
ロンドがカルラに感謝をすると
「じゃあ私も」
「アンネはダメだ、これからが大変な時期なのに見習い仕事を休むのは社会人として失格だ、母さんに任せておきなさい」
「そうよ?この間新しい作業を教えて貰ったって言ってたじゃないの、心配しないで頑張ってきなさい」
アンネも心配から家に残ろうとするが反対されて少し落ち込んでしまうが、将来の為と両親の目から心配している気持ちを感じ取る事によって大人しくいう事を聞く事にした。
途中から自身の事なのに会話に入っていけなかったローズは一人静かこれ以上心配をかけないように頭痛を耐えていた。