第四話
朝になり朝食をとったローズ一家は各々出掛ける準備を始める。
アンネ達は仕事の用意と並行して身嗜みを整える、ローズも身嗜みを整えるが神聖魔法を使って手間を省こうとする。
「クリーン、セイント」
「またそうやって横着するんだからこの子は」
カルラが呆れた顔で文句を言うがローズはどこ吹く風でボーっとしている。
「ねえローズ、それ私にもやってくれない?」
「やめた方が良いぞアンネ、前にやって貰ったが手を突っ込まないと出来ないらしいし、やって貰っても手で苦しいし魔法は痛いしで良い事は無いぞ」
ロンドは思い出したのか嫌な顔をしてアンネを止める。
「そんなに痛いならなんでローズはあんなに平気なのかしら…」
父親の反応を見て恐怖を覚えたアンネはローズの事が心配になったようで、今も口の中が魔法で光っているローズを見る。
「多分ね方向性の違いだと思うよ、私はスポンジを絞る感覚だけど、人にやるときはお湯を注ぐ感じになるんだと思う」
「案外魔法防御力が高すぎて効いてないだけかもね」
分かりそうで分からない説明を受けて余計混乱するアンネだったが母の一言で正気を取り戻す。
「…それならなっとくね」
不服そうにするローズを横目に支度を終えた家族はそれぞれの仕事場に出かける。
「ちゃんと解析の水晶を使ってもらってくるんだよ~」
ローズに念を押しながら母たちが出かけた後、しばらくはダラダラと過ごしていたローズだったが、お昼前に行かなければ昼には戻ってくる母に怒られそうと思い出かける。
家から少し離れた広場に布で覆われたテントが有りそこに何人かの子どもと大人が二列に並んでいた。
そこに大人しく並び順番に並びローズの番が来るのを待っていると聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「自身の強さの秘訣でも見たいのか?昨日ぶりだな嬢ちゃん」
軽口を言いながら手を挙げて挨拶してきたのは昨日会った人を探していた騎士だった。
「人探しは終わったの?」
「これも人探しの一環なんだとさ、お偉いさんは人使いが荒いのさ」
やれやれと言った感じの騎士にローズは不服そうに文句を言う。
「そんな所に誘ったの?」
「給料は良いぞ?やりがいもまぁ…有る」
「その間は何?」
呆れたローズの視線が痛くなった騎士は話題をそらそうとする。
「それより嬢ちゃんは何が気になってここに来ているんだい?自分の職業を把握しているって事は解析魔法を使えるんだろう?」
「…全部よ」
目をそらしてポツリとこぼす一言に興味を惹かれた騎士はわけを聞く。
「全部ってどういう事だい?自身に解析魔法を使ったんなら大体の事は全部分かるはずだぞ?」
「それが分からないから此処に来てるんじゃん」
「そうだったそうだった、となると嬢ちゃんの経験上で比較対象が居ないのかもな、ここ以外にも確認方法は有るが…せっかく並んだんだから頑張ってきな」
ローズから怒りを感じた騎士は謝罪した後、詳細が分からなかった時の原因の一つを推測では有るものの教えてくれ励ましてくれる。
そんなやり取りをしているとローズの番がやってくる。
「んじゃ」
「おうよ!行ってきな、すぐ終わるから」
軽く挨拶をして天幕の中に入る。
天幕の中には仮面を被った神官と少し離れた所に屈強な新館が二人いた。
「いらっしゃい、さぁここの椅子にお座り」
仮面の神官は声や手の皺から年配の男性である事が窺える。
促されるまま椅子に座ると解析の水晶の説明が始まる。
「この水晶を媒介に解析魔法を今から使ってあなたの能力を見る事になります、それは良いですね?」
「まぁ良いですよ…」
ローズは了承しつつも残りの二人の神官の事が気になってしまい視線を送ってしまう。
「彼らは護衛なんですよ、この水晶って貴重なんで何か有ってはいけないのでね…、見えない位置にいるはずなので気にしなくても大丈夫ですよ」
「そうなんですね、ちなみに探し人は見つかりました?」
「それは外のテレイオスが言っていたんかい?」
「それが誰かは分かりませんが昨日騎士が探してるのを見たので」
仮面で表情は分からないが少し悩んでいる雰囲気を感じたが仮面の神官は小さく溜息を吐く。
「本当は言わない方が良いんでしょうが、その様子では何か察してしまっているのでしょうから少しだけお伝えしますね」
「良いんです?」
「仕方ないでしょう、警戒されたままやるのもお互いに疲れます、簡単に言うと聖女と呼ばれる人物を探しています」
ローズは聖女というのを前世での知識でほんの少し聞いた事が有るだけで、とりあえず女性聖職者でかなり凄いというイメージしか無かったが少し反応してしまう。
その反応に仮面の神官は気づき更なる反応を伺いながら話を続ける。
「聖女がこの国に居るのは分かっており、まずはこの首都から中心に捜索しているんですね」
「見つけたら捕まえるんです?」
「いえいえ、見つけてもまずは一度話をしてからお願いをしますよ、捕まえるだなんて乱暴な事したりしませんよ」
護衛の二人を見つめるローズに慌てて答える神官にローズはとりあえず話の続きを聞く。
「詳しい内容は言えませんが探しているのは聖女様です、あなたが聖女の職業を持っていないのなら今日は解析をして詳しい内容とこれから頑張るための指針を見つけるだけです、ここまで大丈夫ですか?」
「とりあえず分かった」
安心したのか疲れたのか仮面で分からないが溜息をついた後説明の続きを再開させる。
「え~とどこまで話しましたか…そうそう一応無いとは思いますがこの水晶も完璧ではなく、この水晶で解析した過去の人の情報を元に解析するので、稀に表示されない事も有るので努力は続けると良いですよ」
「能力値も?」
「そこは大丈夫でしょう、始めても?」
ひとしきりの説明は終わったようで最後の確認をしてきて、ローズはそれに首を縦に振り同意をする。
「いきますよ、解析魔法」
神官が水晶に手をかざし呪文を唱えると水晶が淡く光り中に文字が浮かび上がってくる。
解析結果
名前)ローズ(10歳)Lv16
職業)我が子
未設定職業)愛しい娘、妹、女帝、要塞、ガキ大将、淑女(予定)、爆砕拳娘、聖女?
生命力)258
魔力)底が分からない
攻撃力)1
守備力)185
魔法攻撃力)106
魔法防御力)236
速さ)344
特技
根性LvMAX 気合いLvMAX 神聖魔法Lv不明 生活魔法Lv4 爆炎魔法Lv1 (天上天下唯我独尊)
「…おじいさん、このカッコの中のこれは何?」
色々ツッコみたい気持ちを抑え当たり障りのない所を探し話を逸らそうとするローズ。
「…あぁ、それはねこれから自然と覚える事が出来る特技だね…これは見た事ないが…」
「そうなんだ…」
固まっていた神官もローズからの質問に反射的に返すものの落ち着きは無い。
「…ここが分からないんだけどこれは比較対象が居ないから?」
「そ、そうだね、その通りなんだけど解析の水晶をでこうなったのは初めて見たね」
手汗が出てくる二人の会話は続く。
「え~、この二つの特技は前から分かっていたんだけど、使い方が分からなかったんだけど何か知ってる?」
「根性は生命力が有る程度残っているとどんな事が有っても一度は死んでしまうような一撃を耐えれて、Lvが上がるにつれて必要な残り生命力の量が少なくなっていくのだが、MAXは見た事無いねLv8で8割減ってても大丈夫だったとは聞いているが…」
「便利だね、気合いは?」
「生命力が有っても大きな怪我を負ったり体力が減ってくるとどんな大男でも痛みや疲れで動きが鈍るけど、気持ちとしての気合いが有ればいつもと変わらない動きになるって特技だよ」
冷汗が止まらない両者は一番気になるであろう話題に一切触れないで話を進める。
「この辺の数値って高いの?」
「防御力と魔法防御力はこの数値分の威力を相殺するんだが0になるのは半分の数値以下の威力のみで、それ以上はかすり傷程度の1になるだろう、生命力が2以上の怪我を負うのは威力が攻撃力なら187以上から魔法なら238以上からだね」
「…それって結局どの位硬いの?」
ギギギと聞こえてきそうな動きで神官を見るローズに神官は少し思案する
「…防御力はその辺の騎士が切りかかって来ても反射的に痛いと思ってしまうだろうがかすり傷だろうね、魔法はBランクの魔獣が頑張って炎魔法を撃っても髪の毛の毛先が焦げる位だろうね、服等の衣類や装備品は身に着けていれば破損しないだろう」
「…速さは?」
「全力のお嬢さんが相手だと騎士団長クラスが鎧を脱いで追いかけてもまだ足りないね、色んな方法で加速して何とかって所だね…」
これ以上の質問は難しくなってきてローズは汗が滝の様に出始め、神官は動こうにもローズが警戒している以上余計な事はしないで居ようと判断しているのか出来るだけ温和な空気づくりに努めていた。
「おーい嬢ちゃん、長すぎっとぉ!なんだぁ!?」
外に居たテレイオスが出てくるのが遅いローズに催促をしに来たが突風が起き、吹いた後テントの中に残っていたのは倒れた椅子と項垂れる年老いた神官だった。