第三話
両親は朝早くから仕事に、アンネは少し遅く見習いの仕事に出かけ家にはローズが残った。
お昼過ぎにはカルラがご飯を作りに、日が傾いてくる前にアンネとカルラが早めに帰ってくる。
その間は何をしていても良いわけだがローズは魔法の練習に励むことにしていた。
家を出て近所の井戸に出かけると、ローズが探していた水を汲む際に出来た濁った水たまりが有った。
少し離れた所から手を構えて本で読んだ通りに魔力を手に集中する。
「セイント!」
呪文を唱えるが手が光っているだけで他に変化はなかった。
「クリアウォッシュ!」
キラキラ光るだけの変化しかなかった。
「意味わかんないんだけど!」
そうこれがローズの悩みの一つだった。
魔法を飛ばせない事だった、気づいたのは生活魔法のライトを使った時だ。
普段ロンドが夜に帰ってくる時ライトを使って帰ってくるのだが、それは腰の辺りでふわふわと浮きながら光っていた。
ローズが夜に練習のために使ったところ体全体が光りまぶしいと怒られた。
今でこそ光る場所を手のひらだけに限定できるが、ここまででもそれなりに大変だった日々を思い出す。
初めて外で爆炎魔法を唱えたら服ごと全て爆発して母親にはビックリされ、手だけで魔法が使えるまで使用禁止になり、怪我がないかを体中くまなく調べられたり。
本来なら手のひらに集めた魔力を切り離しながら呪文を唱えるそうだが、ローズはそれが今一つ分からず苦戦していた。
覚えている魔法をとにかく使いまくる事で魔力に慣れることでどうにかなるかと思ったが、それは詠唱破棄で使えるようになるだけだと気づいたのは二年前。
今では少し意識しただけで魔法を使えるようになっている。
神聖魔法も肉体を回復させる魔法はかすり傷を治す程度の物しか載っておらず、試そうと思ったがそもそも自身の周りで怪我人を見た事すらなかった。
喧嘩して取っ組み合い何でもありの状況になり色々有ったにもかかわらず、誰も怪我をしていなかったのも不自然だが、姫華の世界と違うからそういうものかと思う事にした。
そんな事も有り今日こそはと意気込んでみたものの不発に終えて、どうしたものかと思うと遠くからガチャガチャと金属音がしてきた。
何かと思い物陰から見てみるとその光景に驚愕する、鎧に身を包んだ神殿の騎士が来ていたのだ。
ローズが驚いたのも無理はなく今居る所はスラムでは無いがかなり近い場所で、身綺麗にした騎士が来るような場所ではなかった。
騎士は何かを探しているようであたりを見回している、するとローズと目が合ってしまい話しかけられる。
「やあ、そこの嬢ちゃんちょっと聞きたい事が有るんだがいいかい?」
「近づかないならいいよ」
ローズは何が起きるか分からず警戒したままだが拒否しても何をされるか分からなかったので、せめて距離だけでもと条件を伝える。
「怖がらせちゃったみたいだね、人を探しているんだけど、この辺で神聖魔法がめちゃくちゃ凄い人って見てないかい?」
「そんなの分からない、見た目はどんな人なの?」
「う~ん、お兄さんも会った事が無いからな~神聖魔法以外の属性魔法を覚えていないって事までは聞いてるんだけどね~」
「その人は勉強嫌いなんだね」
「ハハハッ!そうかもしれないね!」
楽しそうに笑う騎士はなんだか気さくな人物かと思えてくる。
「もういい?」
「最後に君が付ける職業を聞いて良いかい?分かる範囲でいいからさ」
「我が子と妹とガキ大将これ以上は乙女的に言いたくない」
「君がこの辺の子供の面倒を見ているのかい?凄いね!言いたくない部分はそこから来てるのはなんとなく分かったからこれ以上は聞かないでおくよ」
心底驚いた様子で関している騎士だったが紳士のようでそれ以上は聞いてこなかった。
「命拾いしたねお兄さん」
と少し嫌な顔をしながら答えるローズ
「ハハハッ!女の子でも強ければ僕たちの騎士団は受け入れているから働けるようになって就職先に困ったらおいで、ここにお詫びとお礼も兼ねて置いておくから好きな物でも買うと良い」
笑いながらここには用は無くなったと言うかのように去っていく騎士、ローズは騎士が置いて行った大銀貨3枚で何を買おうか悩んでいた。
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「やあ、ロイセン司教のご機嫌はどうだい?」
「コットか、10年見つからなかった人物をたった一日だけで見つけれると思って怒る神経はなかなかね、あのお花畑加減はなかなか面白いものが有るよ」
「でもなかなか発想自体は良い線いってると思うんだよね、特にレイリィ達の担当地区なんて居ても可笑しくなかったんじゃないか?」
レイリィと呼ばれた若い騎士は鎧を脱ぐと凛々しい女性が出てくる。
「確かにな、テレイオス隊長は面白い人材をスカウトしたぐらいだからな」
「へ~、どんな人材か気になるね」
コットは興味ありげに聞きながらレイリィの鎧を脱ぐのを手伝う、レイリィは慣れた様子で気にする素振りもないまま会話を続ける。
「なんでもガキ大将を少女が持っていたそうだ」
「あれって確か未成年限定でしかも一人で20人以上を武力込みでまとめ上げないと無理じゃなかったっけ?」
「そうだとも、しかもあの地域の子どもは大人でも手を焼く子も多かったんだがな」
フフフと笑うレイリィは何やら嬉しそうに話す。
「君以来の逸材じゃないかい?まっ、騎士になるのを待つとして目下の聖女様探しをどうにかしないとおっさんが五月蠅いからね」
「そうだな、ロイセンの思惑はどうあれ聖女様は見つけて来る日に備えなくては」
法衣に着替えたレイリィとコットは装いを正して怒鳴り声のするほうへと向かう。
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その日の夕方仕事を早くに終えたロンドも帰ってきており、家でゆっくり過ごしていると外が何やら騒がしくなっていた。
「明日の日中にて無料で解析の水晶にて能力の詳しい診断を行うので振るって参加していただきたい」
教会の神官が騎士を引き連れ大きな声で呼びかけている。
「へえ~水晶でね~」
「お父さん水晶で解析すると何かわかるの?」
アンネが不思議そうに尋ねにこやかにロンドは答える。
「ああ、水晶は人の様に寿命が無いから今まで行った解析の知識が全て残ってるから人が行うよりも詳しく見れるんだ、しかも協会が持つ解析の水晶なんてかなり昔からあるから適性なんかも見れるんじゃないかな?」
「すごいね!じゃあローズの能力値も見れるんじゃないかしら!」
「え~、別に見れなくても困らないからいいかな~」
ローズは面倒に感じるようで行きたくなさそうだが背後で母のカルラがオーラを纏いながら
「将来の仕事や結婚のことを考えると自分自身の情報は知っておいて損は無いわ、それに明日もあなたはお留守番だから暇なら行ってらっしゃい」
どの道暇なんでしょ?と遠回しに言う母に有無を言わせない迫力がそこにはあった。
ローズは首を縦に振ると明日行こうと思っていた買い物はまた今度にしようと決める。
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「思い切った事をします、良く許可が出ましたね」
「それに貧民地区すべて同時になんて協会本部の業務に支障が出るのでは?」
「それに無償なんてしたら普段寄付をしてくださってた方々からの抗議も出てくるのでは?」
教会ではこの決定に対して不安の声が多数出ていた。
「ふん、今回の事でいくつかの大きな貸しを消費してしまったが、仕方あるまい」
「司教様、こんなに経費をかけて聖女様を探して本当に意味があるのでしょうか…」
ロイセンの側近の一人が不安のあまり尋ねるがそれを横目にしながら吐き捨てるように
「だから貴様はいつまでも助祭のままなのだよ」
「ですが今回の事だけで金貨100枚以上の賄賂やそれと同等な貸しを消費しています!聖女様一人見つけるだけでそんな金額を産み出せるとは到底思えません!」
「だからだよ、そこが甘いなだよ貴様は」
驚愕する側近にロイセンは畳みかける。
「良いか?聖女を見つけるだけでは駄目なのだよ、そこから我々の言う事を聞く人形になってもらわなければ意味が無いのだよ」
どういう事か分かっていない側近に更に畳みかける。
「聖女はこの世にただ一人の存在だ、そして教会における影響力も高い、そうなってきた時にもしも法皇様が不慮の事故で天に召されたらどうなると思うね?」
「それは12人の司教様達の中から…まさか法皇様を害されるおつもりですか!?」
「話を聞いていなかったのか?もしもだ、そうなった時に聖女の一言でも有ればかなり有利になれる、法皇の座に就けば金貨の100枚や200枚すぐに懐に舞い込んでくるわ」
ハッハッハと笑いながら手に持ったワインを飲み干すロイセン、聞き耳を立てている人間が居るとも知らずに喋り続ける。