第二話
「まだ聖女様は見つからんのか!神託から10年だぞ!」
怒りをあらわに怒鳴るのはロイセン司教、肥え太ったお腹でベルトが今にも千切れそうに悲鳴を上げている。
怒りの矛先は若い神官やシスターに向けられ委縮してしまっている。
「こんな所で怒鳴ってても良い事有りませんぜロイセンの旦那」
「その声はガルデンの所の若造か…何の用だ、今は取り込み中だ」
開いているドアをノックしながらヘラヘラしているのはコット司祭で、スラリとした体格に青みがかった黒い髪色で、シスターの何人かは頬を赤く染めている。
「いやいや、先ほど神託が有ったんで伝えに来たんよ」
「なんだと!?それを先に言わんか!どういった内容だ!」
ロイセン司教に胸ぐらを掴まれても平気な様子のままコット司祭は言う。
「聖女はスレガムの地にて歩いて人の上に居るだそうだ」
「五年前とは違い具体的だな…まあいい、用件は分かった情報は感謝するとガルデンに伝えよ」
「ヘイヘイ、了解ですよっと」
軽く手を振りながら部屋を出ていくコット司祭に苛立ちを覚えながら、ロイセン司教は側近の一人に指示を飛ばし行動に移る。
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「ロイセン司教に情報は渡したんだな?」
「ええ、さっそく行動に移していましたよ」
「そうか、では引き続き監視を続けながら行動するように、有事の際には現場の判断に任せよう、後の事は私が何とかしよう」
コット司祭は指示を受けると部屋を後にする。
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ローズはもう少しで11歳になる、近所では良い意味でも悪い意味でも評判だ。
「ローズは今日は何処に行きたい?」
「図書館に行きたい」
「最近ずっと本読んでるけど楽しい?」
「う~ん、楽しくは無いかな?」
「なにそれ」
ローズと一緒に歩いているのはアンネで今年で16歳になりかなり可愛らしく成長していた。
大通りを歩くと次第に目的の図書館が見えてきた、途中で悪ガキだった男の子たちと目が合ったがそそくさと避けていき無事にたどり着いた。
図書館に入ると入り口のお姉さんが話しかけてくる。
「今日も来たの?偉いね~」
「エアリーは今日もサボってるのか確認に来た」
「サボってないから話しかけたんじゃないの~」
ニコニコと穏やかに話すエアリーは団子状にした黄緑色の髪にたれ目な穏やかな人物だ。
二人の接点は4年前に近所の子ども達を締め上げているローズを見かけ、「暴力を振るうのは良くない」という事をゆっくり丁寧に根気よく説得したのが始まりだ。
締め上げていた理由は、アンネが特定の男の子から嫌がらせを受けていたのをローズが発見したのが発端だった。
そんな事が有った後、偶然再会したときに「知識と教養を身に着ければ女の子らしくなれる」事をまた根気よく説得され、根負けしたローズを図書館に連れて来るのに成功したのは3年前の事。
最初は嫌々だったローズも魔法書が読めると分かってからは精力的に読みに来るようになっていた。
今では生活魔法以外に攻撃用の魔法も一つ覚えることが出来ていたが、どうしても分からない事が有りここにまた足を運んでいた。
「一応義務だから会員証を見してね~」
「はいよ~」
「どうぞ」
ローズとアンネが取り出したのは図書館に入るためのカードで作るのに大銀貨3枚かかる少し高いカードだったが、元々アンネは10年前には両親がすでに買っていて、ローズの分は本当はアンネが使わなくなってからお下がりさせる予定だったが、ローズが少しでも女の子らしくなればという願いの元早めに購入されたがアンネがまだまだ使っている事も理由の一つだろう。
ここで読む分にはカードだけで良いが貸し出しになると補償金としてその本の半分の価値を納めなければいけないがローズ達には関係なかった。
「今日も魔法書を読むの?あれって子供には退屈な本だからお姉さんとしてはこういう本が良いと思うんだけど?」
そう言って取り出したのは表紙から分かるくらいのベタベタの恋愛小説だった。
「それはいいや」
「それ良いですよね!特にヨハネスとネイビーとの友情から恋に発展していく様がかなり推せますよね!」
げんなりするローズの横からアンネが嬉々として喋り始める。
そんな反応を見てエアリーが机の下からそっと取り出したのは、表紙が似ている別の本だった。
「こ、これは…」
ごくりと息を飲みながら本から目を離せないアンネに一言
「最近発売されたばかりの続編よ」
眼鏡をかけていたら確実に光っていたなとローズは思いながら、盛り上がる二人を他所に目的の本を探しに行く。
ここに3年も通っていると魔法書が何処に有るのかは良く分かっていて一直線に向かう。
魔法書のある場所に来たものの元々魔法書は多くなく、更に解説本は有っても発展形や応用編の本はかなり少なくその辺の本はほとんど読んでしまった。
ローズは自身の手を見ながら解析魔法を使う
解析結果
名前)ローズ(10歳)Lv16
職業)我が子
未設定職業)愛しい娘、妹、女帝、要塞、ガキ大将、淑女(予定)、爆砕拳娘
生命力)根性が有れば死なない
魔力)底が分からない
攻撃力)無いよ
守備力)気合いが有れば痛くない
魔法攻撃力)気合いが足りない
魔法防御力)心頭滅却すれば火もまた涼し
速さ)残像はまだ作れない
特技
根性LvMAX 気合いLvMAX 神聖魔法Lv不明 生活魔法Lv4 爆炎魔法Lv1
この結果を見ると頭を抱えたくなるのを止められないローズ。
解析魔法は本人の知っている情報を元に視界に表示されるもので、どんな草かを見ると知識によっては味なんかの感想が表示される。
今回の様に自身に使うと職業の所には周りからどう思われているかによって内容が変わり、解析魔法を使いながらなりたい職業を望むとそれになれ、人から解析されたときはその職業だけが見られる。
職業によっては能力値に補正がかかるものもあるがローズには必要ないので気に入っている職業にしていた。
特技は本人生まれ持った物と後から覚えた物が表示されるがこちらも良く分からない物が二つとLvが分からない物もある。
能力値は本来は数値によって能力が分かるはずなのだが、ローズには数値が無く感想が表示されていて意味が分からず、アンネ等に見てもらったが同じようで困惑していた。
悩みの種としては魔法を上手く使えない事と他の魔法が使えない事だった。
もちろん魔法には適性があり、得意不得意も有るが全く使えない事は聞いたことがなかった。
ローズの適性は爆炎魔法と神聖魔法だが、爆炎魔法は見つけた専門書でも初級魔法とその応用や使い道が掲載されているだけでそれ以降が載っておらず探している。
神聖魔法はLv3までの魔法は全て応用まで覚える事が出来たがそれ以降は神殿に出家しなければ分からないとどの本にも書いてあったため断念。
今日も探したが特に収穫は無いまま帰る時間になりご機嫌なアンネと共に図書館を出ていく。
「ローズは明日も行くの?私は行きたいんだけど見習いの仕事が有って行けないのだよね~」
「じゃあ明日はお留守番していようかな~」
アンネはローズが寂しがっていると思い後ろから抱きつき、ローズは恥ずかしがる素振りを見せながらも大人しくしていた。