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その聖女、不良です  作者: Aleku
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第一話

 

 スレガム教国にあるスラム街の一角で姫華の意識は目覚めた。

 するとそこには自分より大きな女が姫華に手を伸ばしてきていた。

 姫華が何をされるか分からず抵抗しようとすると自身の体が小さくなっている事に気がつきますます混乱した。

 それからは意識はたまに有るがほとんどを夢の中に居るような気分で過ごし、平和に過ごしていた、しかし父親らしき影はいつもなかった。


 そんな平和は突然終わる。


 いつもの様に買い物に出かけて行った母親は帰って来なかった。


 姫華は母親が帰って来ない事に気が付くと必死に叫んだ、死ぬには早すぎる、まだ死にたくないと。

 どのくらいなのか姫華には分からなかったが一人の金髪の女の子が家の垂れ幕を開けて入ってきて姫華を抱き抱えると世話を始めてくれた。


 母親と住んでいた家は荒い土壁と大きめの布で日差しを遮っていただけの物だったが、女の子はそこを離れて歩いて行く、姫華はそこで転生後初めての空を見る。

 時刻は夜で三個の月が浮かぶその景色は前世のクラスメイトのオタクが話していた異世界というのを彷彿させる。

 女の子は少し強い力で抱きかかえ、途中でふらつきながらも歩き続け、しばらく歩いた後今までの家とは少し大きそうな家に入る。

 家には両親らしき人が待っていたようで女の子を見るなり心配していたのが誰にでも分かるぐらい抱きしめに来る、女の子は姫華が潰れないように腕で空間を確保しながら両親に何か話しかける。

 言葉は上手く聞き取れなかったが女の子の両親も姫華に気が付き母親らしき人物が姫華を代わりに抱いて話し合いに入ったがその辺りからは妃花の意識は眠りについていたため分からかった。


 --------


 茶髪の長い髪を後ろで一纏めにした二十代半ばの母親カルラはアンネに心配そうに聞く。


「こんなに暗くなるまで帰って来ないと思ったら赤ん坊を連れて来るなんて一体何があったの?」


「本当はもっと早くに帰ろうと思っていたんだけど怖いおじさんに追いかけられていたの、たぶん人攫いだったと思うの」


 アンネは申し訳なさそうに言うと金髪の短く切りそろえた三十代位の父親ロンドは出入り口のほうを見回す。


「もう撒いてきたから大丈夫だと思う」


「それはいいがそれとこの赤ん坊はどう関係するんだ?早く親御さんの元へと返さなくては」


「たぶんもう居ないと思うの」


 両親はその言葉に驚きつつも話の続きを促す


「アンネが逃げているずっとこの子泣いていたから道に迷わずに逃げれたんだけど、次第に声が小さくなっていたから家族があやしたと思っていたの」


「違ったのかい?」


「うん、たぶんこの子はずっと泣いていたの、だってアンネが撒いた後帰る途中で聞いたのは疲れて声が小さくなっているのにずっと、ずっと泣いているから家を覗いたらそこには誰もいなくて必死に泣いているこの子だけで、このままじゃこの子が死んじゃうと思って…」


 途中から少し涙を流しながらアンネはどういう状況だったかを両親に伝える。

 両親は少し困りながらも


「とりあえず今日はもう遅いからこれでも食べて寝なさい」


 少し冷めたスープとパンを食べさせると寝かしつける。


 両親は姫華を昔アンネが使っていた寝間着に着替えさせると次に出来るだけ清潔な布と明日用のミルクを温める。

 一度温まったミルクを小分けにし布にしみこませ姫華の口元に当ててみると姫華は半分眠ったままでは有るものの布をしゃぶりだした。

 布に染み付いたミルクが無くなる前にスプーンで布に少しかけて姫華に飲ませる事に成功する。


 少しした後飲み終わった姫華にげっぷをさせた後、家から明かりは消えた。


 --------



 翌日、朝からロンドはおらずアンネとカルラは姫華を連れてきた場所にやってきていた。


「人の気配はないけれどこの家なのねアンネ?」


「そうだよお母さんここのはずだよ、ここで泣いていたの」


 姫華の居た家はスラム街でも比較的平穏な地域に建っておりここまで安全に来れた。

 中を覗いてみると多少の生活感は残っているものの釜土は完全に冷えており、他の誰かが帰って来た様子はなかった。


「とりあえず今日は昨日の事も有るから一緒にお母さんの働いている食堂に行くわよ」


「はーい、この子も一緒だよね?」


「今日はそうするしかないでしょう?ご家族が居たら良かったんだけどね~」


「どこ行っちゃったんだろうね」



 母親は仕方ないといった表情で姫華の頭を撫でながらアンネの手を引いていき、アンネは嬉しそうについていく。



「急に本当にすいませんエリシャさん」


「良いのよ子どもの事は仕方ないわよ、二階に長女居るから安心して預けてきなよ、それよりその子の家族が心配だね」


 まるで気にしていないかのように振る舞うふくよかな女性は夫婦で食堂を経営している女将さんのエリシャだ。

 旦那のゴルドも厨房から手を振りながら引き締まった体でフライパンで開店前の仕込みを進めている。




 カルラの食堂での仕事が終わり、夕ご飯の買い出しや姫華の当分の生活に必要なものをあの家に取りに行き、足りない物はまた明日買いに行こうと家に向かう。

 帰る途中ロンドと合流し今日あったことをアンネは楽しそうに話す。


「今日はお母さんのお仕事をちょっと見たんだよ!人がいっぱいなのにスイスイ料理を運ぶんだよ!」


「うんうん、お母さんはすごいだろう?」


 カルラは照れ隠しにロンドの脇腹を小突くが響いていなかった。


「あとねローズの名前も分かったんだよ!何て名前だと思う?」


 アンネはカルラに抱かれたローズを指しながらキラキラした表情でロンドに話し、ロンドは分からない演技をしながら答えを聞く。


「ローズっていうんだよ!かわいいよね!きっとこの薔薇の様に赤い瞳から付けたんだと思うの!」


「きっとそうに違いないな~、早く家族が迎えに来ると良いんだがね」


 少し寂しそうにアンネの頭を撫でながらカルラに目配せをしてそこからも他愛もない話をしながら帰る四人。



 --------


 子ども達が寝静まった夜。


「孤児院はダメだったよ、これ以上は養えないというより既に養っていけていないそうだ」


「ええ!どうやって生活しているの!?」


「大きい子供は何も知らない訳じゃ無いからな自分から孤児院から消えて行くそうだ、スラムに子供が増えているのはきっとそういう事なんだろう。」


「教会はどうかしら…」


 考える妻に首を振るロンド


「教会は最近何かあったようでバタバタしているようで何が有るか分からん、それに最近の教会は金がないと見るや態度が悪くなるって聞くからな」


 暗くなる室内に寝息だけが聞こえる


「こうなったのも何かの縁だ、何とか育ててあげようじゃないか」


「そうはいっても大きくなってからが大変なのよ、髪色が違いすぎて本当の親子じゃないって知った時本人が辛くなるだけよ?」


 心配そうにローズを見るカルラに


「その分愛情を与えてあげれば良いだけだろう?」


 肩を抱き寄せ額にキスをし部屋の明かりを消して眠りについた。


 --------



 それから時は10年たった。







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