第十六話
その日は朝から訓練場に来訪者が何人か来ていた。
一組目は教皇のスターチとテレイオスの二人だった。
二人の用事は訓練内容の変更とその難易度が一気に上がるのでその確認だった。
「というわけでこういう内容になるのだけど大丈夫ですかな?」
「やるしか無いんでしょう、ならやるよ。
ただ、その分一つ貸しにしてよ。」
「ローズに早く借りを返さないと後が怖そうだからな!」
ハハハと笑いながらテレイオスが軽口を叩き、それにムッとしたのかローズは脛を蹴り上げる。
蹴られた足を痛がりながら去って行く二人を見送っていると次はメムシアも来て状況を説明してくる。
ローズはその事で不機嫌になりながらも受け入れて立ち去って行く。
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「ヒヤヒヤさせないでくれ。」
「何の事で?」
「ローズさんに軽口を聞いて機嫌を損ねれば離れて行ってしまうかもしれないのだぞ」
「あの子はあの位じゃ怒らないさ、あの子が怒るのには理由もあるし何より常に怒っている訳じゃない。
一回目はあの子の事なんて考えてもいない行動を奴らに対して、二回目もあの子の意見を聞かないまま動いた神々の行動に怒っている。
会議の時なんてあの子からしてみれば周りは全て敵な訳だから機嫌が良い筈無いさ」
「そう言う貴方は違うというのです?」
「時と場合があるって事さ、周りが全てヘコヘコ頭下げてても本人からしてみればつまらないだろう?
なら軽口の一つや二つ言い合える人間が居なきゃガス抜きも出来ない分よりイライラするだろうからな。」
「人生経験だけなら貴方より積んできたつもりだったのですがね。」
「教会の関係者としか喋ってなかったら経験は少なくなるものさ、たまにはどっかの教会に勤務したらいいんじゃないか?
少なくとも村の爺さん婆さんや子ども達との会話で良い経験が出来ると思うぜ。」
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ローズに出された修行内容は基礎レベルを上げる事だった。
多少上げる位なら特に問題は無いのだが50まで上げるという事が問題だった。
この世界の大半の人達のレベルは30前後が多く、一般兵クラスでも40前後になる。
50以下が大半な理由として有るのは50の壁と呼ばれる限界が有り、その限界を破らなければどれだけ経験を積んだとしてもそれ以上上がらないのだった。
50以上になった者に共通点は無いが多くの者は生死をかけた戦いに身を投じている事が多かった為、超えようと目指す者達の多くは失敗して死亡するケースが多く危険視されている。
「で、私のレベルはまだ30にも行って無いんだけどどうするの?」
ローズはデイジーに教会内の自室で椅子に腰かけながら確認をする。
「そこは大丈夫かと思います、そもそも私達の予想では10前後と思っていましたので。
教会としては言い辛いですがあの騒動の大立ち回りによる経験でそこまで上がったのでしょう。」
デイジーは書類に目を通し会話をしながらローズに確認のサインを貰う。
「なので予定が早まってしまった今の状況でもそれほど焦る事無く続けれます。
勿論今サインして貰った書類の中には身の危険が有った時の同意書が有りましたが、それは規約の為に書いてもらったもので実際にはそんな心配はないでしょう。」
デイジーはローズがサインした『亡者の館探索許可申請書』に視線を落とし話す。
「それでそこに書いてある亡者の館っていう所はどんな場所なの?」
「主に闇属性の魔物や死霊系のダンジョンです、初心者用ではありませんがローズさんのレベルを考えるとここで上げるのが適切と思えます。」
「あいつ等みたいな奴と戦ってここまで上がるのならその辺でも上がるんじゃないの?」
ローズが元々行く予定だった『聖職者の試練場』の書類を指さす。
デイジーはそれに対して首を横に振り否定する。
「それは出来ないのです、理由はそこの魔物が弱すぎるのでローズさんの溢れる程の魔力が近づいただけで恐らく倒せます。
しかしそこまで実力が離れてしまうとレベルが上がらないと言われています、上がるとしてもかなりペースは遅いでしょう。
しかも今回の主目的はローズさんの体調を治す事なのでレベルはその過程でしか無い上に壁も突破しなくてはなりません、更に治した後にきちんとした修行が再開するので魔王の脅威を考えると時間の無駄遣いはお勧めできません。」
「それならそこは大丈夫な理由って何?」
デイジーは少し考えると書類の一部を取り出して説明し始める。
「これに目を通して貰えれば分かりますがここでは過去に何人かの聖職者が50越えを達成しており、更に神聖魔法を当てる事によって倒せる魔物が多数居ますのでローズさんの修行にもレベル上げにも良いのです。
勿論安全に配慮して護衛は万全にしますよ。」
「制御できて無い魔法でも良いの?
というかセイントって聖職者は使わないとか言ってたのにそこでは使うの?」
「制御出来ていなくてもあそこまで打てるならむしろレベル上げはやりやすいでしょう。
セイントでは無くてヒールで倒せるのです、仕組みは分かっていませんがヒールによって魂が癒される事によって天へと成仏できるからと言われています。」
納得したのかローズは他の書類にも確認をしていき、家族の同意が必要な書類をもって帰って行った。
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とある酒場でテレイオスは人を探してやってきていた。
店を見回すと目当ての人物が居たのかテレイオスは床を軋ませながら歩み寄って行く。
「よお、久しぶりだな。
また飲んでいるのか?」
「また来たのか、自分はガキの御守なんてやらねえって言ってるだろう。」
不機嫌そうに青年は答える、青年の髪は青く透き通るように綺麗な筈だが今は薄汚れていた、腰には剣が差してありみすぼらしい服装とは異なり綺麗に手入れがされている。
「まあそう言わずにさ、俺としては今回の護衛対象には出来るだけ万全を期したいんだ。
その為には俺より強いお前の力が必要なんだ。」
「あんたより強いって言ったってガキの頃の稽古でしかもあんたはハンデが有っただろ、それに自分はおっさんの剣を全て習う事が出来なかった落ちこぼれさ。
他を当たんなよ。」
テレイオスはその言葉に何も言えなくなるが勧誘を諦める気配はなかった。
そんな会話を聞いたのか近くに居た大柄な男が会話に混ざってくる。
「おうおう兄ちゃんよ、そんな落ちこぼれのガキより俺様を雇った方が良いぜ!」
「すまないが俺が勧誘しているのはこいつだけなんだ。」
テレイオスが適当にあしらうと男はそれが気に食わなかったのか声を張り上げてくる。
「そんなガキのどこが良いんだ!
剣王の弟子だなんて一時期もてはやされていたがその剣王も魔族に倒されたって言うじゃねえか!
魔族に敗れるような剣技より俺様の剣技の方が優れているに決まっている」
「言葉が過ぎるぞ!
やめないか!」
テレイオスが男の言葉を注意するが青年は諦めた表情でそれを無視するように手で制する。
「ほら見ろ!
落ちこぼれも言い返せやしない、しかもその死んじまった剣王とやらの技の中には剣士には必須の飛剣が無いらしいじゃないか!
そんなの実践じゃ役に立たねえよ!」
男がそう言うと一瞬キラリと光り、着ていた鎧がガラガラと音を立ててバラバラになっていく。
「飛剣は剣技じゃないただの魔法だ、本当の飛ぶ斬撃はそんなチャチな物じゃない!」
青年は鞘が付いたままの剣を男に向ける、その顔は怒りに染まっている。
男は酔いが醒めたのか青い顔しながら慌てて逃げていく。
「なあ、あの人の為にも実績を作っておかないか?
そうすればああいった輩も居なくなるはずさ、どうだろう?」
青年は舌打ちをして「今回だけだ」というと酒場を後にする。
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