プロローグ?
日本は平和と言われるが実際の所そんなに平和でもない。
他の国よりは銃が無い分まだマシなだけで、治安が悪い所は存在する。
そんな地域に住むのは一人の少女、桑原姫華、両親は書類上離婚しているが片親では無く偽装離婚によって母子手当て等を不正受給していた。
ちょくちょく家に泊まりに帰ってくる酔った父親は少女の目付きが気に食わなければ暴力を振るい母親はそれを止めない。
父親が居ない時も母親は何もしない、ネグレクトと言うものだった。
そんな生活は学校生活にも影響が有った、子どもながら姫華の家庭が行っている事はいけない事と理解していた同級生達は姫華をいじめの対象にした。
だからか姫華はグレていった、いじめてきた奴らは残さずシバいた、見ない振りや干渉しようともしなかった教師陣は社会的な制裁を加えた、いじめを認めなかった保護者の弱みも握った。
そんな彼女には譲れない信念が有った、自分より弱い者や困っている相手には誰であろうとも手を差しのべる事だ。
自身に置かれた環境を他の人間には味わって欲しくないのか、それともそれを行ったり目撃することで自身が嫌いな両親同じになるのが嫌なのかは本人のみが知るところである。
この信念に惹かれて付いていく同志は多く、時にはライバルグループであっても手を取り合う事も。
艶の有る黒い長髪に整った顔で苛烈な反撃をする事と名前から黒薔薇姫と呼ばれるようになっていった。
義務教育が終わったら住み込み等で家を出ようとしていたが、高校へは両親の世間体と祖母からの孫娘の高校生活の間だけでもという気持ちから支援を受ける事によって祖母の家から通う予定だった。
高校入学を待たずに唯一姫華に優しかった祖母は持病を悪化させてこの世を去ってしまった、祖母の遺産を巡って母親の兄弟と揉めたようだったが遺言書が見つかり事無きを得たが、祖母の家は売られることになり高校は実家から通うハメになった。ある日の昼過ぎ、何時ものように学校へと向かっている時にそれは起きた。
1つの悲鳴1つの走り去る影、それは姫華の目の前で起きた事件だった。
引ったくりの犯行現場を目撃した姫華は自分の信念に従ってなのか、根の性格ゆえなのかすぐさま犯人を追いかける。
夏の暑い日差しの中黒ずくめの犯人は逃げる、しかし姫華の体力に勝てないと思ったのか、立ち止まり懐から刃物を取り出すと姫華に向かって突き出す。
姫華はそれを咄嗟に横に避けようとするも少しかすり、痛いと感じた後意識を失った。
死亡した原因は偶然引ったくりを目撃した、偶然犯人が刃物で反撃してきた、偶然横に避けた事によって車道にはみ出してしまい、偶然そこを通ったトラックに引かれてしまった、いくつもの偶然で姫華という女の子の生涯は幕を閉じた。
必然と思ってしまうほどの事に、偶然とは思いたくなかったのは姫華自身だった。
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あの世の世界は白かった、姫華はただ呆然と立ち尽くしていた、しばらくすると1つの光がフワフワとやって来ると姫華に話しかけてくる。
「残念だったねまた来世に期待しなよ」
直感なのか姫華はこの存在が神と呼ばれるナニカであると理解した。
そんな存在に煽りともとれる言葉を言われて、姫華は怒りなのか悲しみなのかよく分からない気持ちのまま光に対して蹴りを放つが当たらない、パンチもビンタも頭突きも何も当たらなかった。
そこに確かに居るが触れられない、干渉できなかった。
しかし光は姫華に触れられるようで時折観察するように動きを止めたり持ち上げたりしてくる。
言葉になら無い叫びを上げながら暴れ疲れた姫華に対して光は言う
「もう気は済んだ?こっちの用事は終わったからもうお終いね。
じゃあまた来世ね、次は覚えて無いだろうけど」
そう言うと光は何かを始める。
姫華は今までの人生とこの光に対する怒りを魂に刻み込む勢いで叫びながら再度暴れ始める。
光はうっとおしそうにしながら姫華を光の粒子に変えた。
「まったく面倒な人間も居たも…ん…だ…
どうして面倒と思ったんだろう…干渉された?
そんなまさかね」
光だけが残り静寂が訪れ、しばらく考え事をしたのち光も消えて行った。