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やっとまた会えた

「結構、派手にいっているわね」


 落雷のあった場所はで、煙が立ち上り枝葉は辺りに散乱している。サクヤは術を解いて

マリーと一緒に生命の樹に降りた。 


「サクヤ様、あちらを」


 マリーに言われた方を見ると落雷が落ちた現場と思われる場所に人が仰向けに倒れているのが見える。


「マリー、行くわよ」


 二人は周囲の安全を確認して様子を窺いつつ、倒れている人に近づいていく。まずはマリーが先行して倒れている人の確認を行う。


「成人の男性で意識はありませんが、呼吸はしっかりしています。脈拍も正常。あちらこちら怪我をしているようですが、命に係わる怪我などは無いようです」


 倒れていたのは意識のない青年、20歳くらいでとないかと思われる。黒髪で整った優しそうな顔立ちは、時折苦しそうに歪んでは苦悶の声を上げている。マリーは他にも何か異常がないか注意深く観察し、


「特に所持品はありません。ですが・・・」


マリーが示す指の先には、サクヤ指輪と同じデザインの指輪が青年の左手の薬指で輝いている。


「これは、サクヤ様と同じの指輪ですよね。一体どういう事なのでしょうか。・・・サクヤ様?」


サクヤに反応がない。


「サクヤ様いかがされましたか?」


振り返りサクヤを見ると、ただただ青年の顔を見つめ泣いていた。


「分からない。分からないの。でも、やっと会えたって、会ったことはないはずなのに、私はずっと彼を待っていたんだって、急にそんな気がして」


 サクヤは少年の前まで歩いて膝をつくと、意識のない青年の頬を純白に輝く宝石がついた指輪手指で撫でる。そして無意識なのか、そっと静かに呟いた。


「やっと・・・また・・・会えた」 


 サクヤはそう呟くとフッと意識を失い青年の胸に倒れこむ。マリーは慌てて倒れこんだサクヤの体を抱き起して声をかける。


「サクヤ様、サクヤ様!・・・これは一体どうしたというのだ!」


意識を失ったサクヤの表情は嬉しそうとも悲しそうなともとれる、そんな表情を浮かべていた。





私は今、夢を見ている。


そう、これはきっと夢。


夢で私は恋をしている。






私の隣には大好きな彼がいる。


彼の名前は高杉直也。


私と彼は家庭の事情で同じ施設に預けられ、小さい頃から一緒に居た。


 家族に会いたくて、寂しくて、辛くて施設の隅っこでいつも私は泣いていた。

泣いている私の隣には、いつも自然に当たり前のように彼が居てくれた。


 彼はとても優しくて、格好良くて、いつも私を助けてくれる。

 私は彼が大好き。でも彼はそれ以上に私のことが大、大、大好き。

 

彼といる毎日は嬉しくて楽しくて、全部が特別でキラキラと輝いている。


 ずっと続く彼との温かく幸せな日々。たくさん二人で想い出を作って、恋愛して、愛して、結婚して、お嫁さんになって、それから彼の愛らしい赤ちゃんを3人は産んで、彼と子供に囲まれて、家族のみんなで笑って楽しく幸せに生きていく。

 

人生を一緒に歩んで、年を重ねて、最後の別れの時が訪れる最後の最後の瞬間まで、愛し合う。


彼との、そんな普通の幸せな未来を、ずっと信じて夢見ていた。






あの日、世界に神様が舞い降りて・・・・・・






無慈悲で理不尽な、“虐殺”が始まるまでは。










「サクヤ様、サクヤ様、しっかり、サクヤ様」


マリーの呼びかけにサクヤは目を覚ます。


「私、夢を見ていた」


マリーに抱かれたまま、サクヤは頭を2、3度左右に振り意識をはっきりさせると、もう


大丈夫と一人で立ち上がった。


「私は、どのくらい気を失っていたの?」


「ほんの2、3分程ですが、本当に大丈夫なのですか?」


「ええ、問題ないわ。心配は無用よ。それよりも彼のことだけども、このまま大社に連れて行こうと思うの」


「連れ帰った後は、その後はどうしますか?」


倒れている青年を見るサクヤの表情には優しさだけではない感情も見てとれる。


「女神様に言われた通りに、しばらくは一緒に暮らしてみようと思う・・・」


マリーとしては「若い男女が一つの屋根の下でなんて!」とか「何処の馬の骨とも分からない男をサクヤ様と一緒になんて」などと、多少言いたいこともあるが、青年に向けるサクヤの柔らかくて温かいほほ笑みを見ていると何も言えなくなってしまい、グッと堪えて従うことにする。


「分かりました。それでは、私が屋敷まで運びます」


(万が一の時には私が処理をします)


「いえ、私の召喚獣に運んでもらう」


サクヤは、青年の顔を服の袖で軽く拭い、倒れた青年の頬に触れる。


「体中傷痕だらけ」


一体青年がどこでどんな風に生きて、どの様な理由でここに来たのかは分からない。だがあまり幸せな境遇で生きてきた訳ではないだろうということは想像できる。傷の中には明らかに刃物で切られた傷跡も多数見受けられるし、悪夢を見ているのか酷くうなされている。


(出来る限り私が力なりたい・・・側にいたい)


今のサクヤは進んで青年を癒支えてあげたい、力になりたい、そんな気持ちが溢れてくる。


「君は一体、誰なのかな?」


青年を強く抱きしめたサクヤの眼には美しい涙が輝いていた。





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