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世界の声

「直也さん、ついて来ています」 

「うん。そだね」


 サクヤは振り返る。


「サクヤさん、あんまり見ないでね」


「直也、ついて来ているぞ」

「うん。なんでだろう」


 マリーは肩越しに確認する。


「マリーさんもあんまり意識しないで」


 右腕にイズナが組みつき、手を恋人繋ぎで拘束されながら港町に向けて街道を歩いている直也の後を10メートルほど離れて、白銀色に輝く鎧を身に纏ったガーディアンズ副団長のフレイヤが無言でとぼとぼと後をついて来ていた。

 時折、恐れるようにちらちらとこちらの様子を窺い、話しかけて欲しそうに、かまって欲しい雰囲気を醸し出していた。



「直也さん、次は私と腕を組んで欲しいです」

「うん。でもイズナさんの正気が戻るまで、少し待ってねリーシェ」

「直也しゃま」

「・・・」 


 アレから1時間程経っているのだが、イズナはまだこちらに戻って来てはいなかった。拘束具ばりにがっちりと直也の腕に抱きついて離れず、サクヤ達の嫉妬と羨望の眼差しを一身に受けている。


 イズナを無理に覚醒させた場合に何が起こるか分からないため、覚醒の時を待つ。みんなで考えた苦渋の決断であった。



「旦那様あの女追い返してやろうか?」

「いや特に何か問題がある訳でもないし、イズナさんが戻るまでは放置しておこう」


 これ以上の面倒に巻き込まれたくない直也はフレイヤの放置をすることに決めた。


「あえて微かに聞こえるように放置プレイ宣言をして、私を喜ばせるつもりか」 


 フレイヤは一人うつむきながら身悶えして、ハアハアと息を切らす。


「主様、もう思いっきり面倒なことになっていると思うの」


 直也の心を読んだのかアスは、ハアハアと息を切らすフレイヤを指さしさがらそう言った。


「こら見るな、指を差すな。こっちに来たらどうするの」

「感じるぞ、私を蔑む気配を、ハアハア」


 直也は冷静にアスの手を降ろさせて、何もなかったことにしようと、努力する。


「フレイヤ様、あんなに息を切らせてどうしたのでしょうか?」

「はい、一体何があったのでしょうか。少し様子が変ですね」

「あのお姉さんは不治の病にかかって興奮しているんだよ」

「不治の病?」

「興奮?」


 サクヤとマリーはアスの答えに戸惑いを覚えた。


「そう彼女は業の深い病気なの。さっき殴られて無視されて患ったみたい。私はその道の専門家をしている時があったから、直ぐにわかりました」

「業の深い病気って、専門家って何?」

「殴られて、無視されて患うってお前は何を言っているんだ、アス?」


 サクヤ達はフレイヤが持つユリ属性M系誘い受け種のような人には会ったことがない。そのような人が居ると知識だけでは少し知ってはいたが、まさか実物が自分のすぐ傍にいるなど思いもつかなかった。これまでにあったことが無い未知との遭遇だった。


 サクヤ達は十代前半の容姿のアスが、元色欲の大罪、魔王アスモデウスであることを、アスは元その道の第一悪魔、専門家どころか開祖であり探究者、業界のメシア、とても偉い悪魔だったいうことをまだ知らない。


「まあまあ、みんなその辺のところはもう弄らないで。それよりもリーシェ」


 

 イズナに腕を取られたままの直也はそろそろリーシェ訓練を始めようと声をかけた。


「はい、私の番ですか?」


 リーシェは自分の番が来たと目を輝かせ期待が込められた瞳で直也の顔をみた。


「いや、そうじゃなくてさ、そろそろ訓練をさ」

「?・・・・・・ああ、そっちですか」


 リーシェはとても残念そうだ。


「リーシェ、ゆっくりと霊気を高めて、意識を集中して感覚を研ぎ澄ますの」 


 アスはリーシェの隣で励まし見守っている。サクヤとマリーは様子を興味深く見つめ、レーヴァは持ってきた青山食堂の焼き鳥を美味しそうに頬張っている。イズナはまだ夢の世界から帰還していない。


「リーシェ、考えるな、感じるんだ」


 イズナに抱きつかれたままの直也は、ヌンチャクで卓球をする高名な武術家の言葉をマルパクリでアドバイスをする。



「考えるな、感じるんだ・・・か」


 しかしその言葉に答えたのはいつの間にか直也の背後に来ていたフレイヤだった。


「うわ、いつの間に後ろへ!」


 直也は驚いて声をあげた。


(そうだ。難しいことはもう考えるな。感じるんだ) 


 下を向いてぶつぶつ何かと言っているフレイヤから危険な香りを感じて背筋を凍らせた直也は、素早くイズナを強く抱いて飛び上がり距離を取る。


「直也しゃま、大胆」

「・・・」


 フレイヤはイズナを抱いて自分から素早く遠ざかる、腫物を見るような冷たい直也に、嫉妬と淋しさと興奮を感じた。


(私には気になっている男性がいる。でもイズナたまのことも私は心から愛している) 


 フレイヤの中で「考えるな、感じるんだ」と、直也の声がリフレインする。


(私は、二人に虐めてもらいたい。どちらかなんて選べない。だったら、二人とも愛したら良いじゃないか)


 瞬間、フレイヤの頭の中に巣くっていた迷いの靄が晴れ渡り、祝福の光と声が溢れ出す。自分の内側の深い所で、何かが、ガッチリと嚙み合うのをフレイヤは感じた。



「ユリ属性のM系誘い受け種からバイセクシャル属性ハードM系希少変態種に進化しました」


 元アース神族の輝く美貌と大空を舞う純白の汚れのない翼を持ったヴァルキリー、フレイヤ・ヴァナティース。

 彼女はそう自分を祝福する、「世界の声」が聞こえた気がして、興奮し、身を震わせ、直也達の前で、こっそりと逝ってしまったのだった。

















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