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振り出しに戻る

「フェルも十分反省をしたようですし、次は直也様にお聞きしたいことがございます」


 教育的な昭和型の指導を厳しく受けたフェンリルのフェルはその巨躯を小さく丸めてしくしくと泣いていた。


「ご免なさい。僕は良い子になります。シクシク。だからもうぶたないで下さい。ごめんなさい。僕は良い子になります。シクシク。だからもうぶたないで・・・」


 フェルの悲しみに涙するあまりの様子に言葉を失ってしまうと同時に、自分もあんな風に追い込まれるのかと思うと、背筋が震えて止まらなくなる。

 大戦中には生き死を懸けて幾多の強力な悪魔とも戦った。怪我の痛みなどを気にすることなく必死に戦った直也ではあるが、今日のイズナはなんでだろうか、超怖い。愛情からくるのであろうが、婚約者の女性達と一緒になって教育と言うか、尋問にも似た拷問とも取れなくもない、今から始まるであろう吊し上げの場には、素直に命の危機を感じてしまう。


 直也は既に自ら地面に正座をして、この死地から何とか謝罪とお詫びを駆使して生還する方法は無いものかと、神気を使って3倍位に加速させた思考で熟考する。しかし、焦りからなのか、はたまた恐怖のためなのか上手く考えをまとめることが出来ずに、さらなる深みにはまっていく。


(落ち着け、大丈夫だ。恐れることはないはずだ。大体にして僕は怒られるようなことはしていない、・・・はずだ)



「直也様。直也様は私の事はお嫌いですか?」


 さっきまでのハートマン軍曹ばりに厳しく荒々しい教育的指導を見せていたイズナが急にしおらしくなり、か弱い女子の様弱々しくしく己の身を抱きながら不安そうに涙を浮かべて聞いてきた。


「えっ、嫌いな訳ないじゃな・・・・いえ決してそのような事はありません」


「だって直也様は私をのけ者にして、くんずほぐれつとお楽しみだったご様子だもん。私がいないのに、イキイキと楽しんでいたみたいじゃないですか。私が1人辛く悲しいデスクワークに励んでいる時に、直也様はみんなに抱きつかれて励んでいたらしいじゃないですか! ズルイです。私だけのけ者にして!」


「申し訳ありませんでした。しかしイズナさん、それは誤解です。僕は決して、くんずもほぐれつも励んでなんかはいませんでしたし、のけ者にする気もございませんでした。ですので、その言い方には語弊があると思います。しかしながら誤解を招いてしまった事自体は僕の不徳の致す所。以後はこのような事が無いように、己の身を律して参りたいと思います」


 直也は背筋に芯の通った凛とした侍の佇まい感じさせる見事な土下座をしながら、謝罪と己の弁明をする。


「へえ主様。私とのあの楽しかった時間は嘘だったと言うのですか?」


 アスが横から悲しそうな顔で今にも泣きそうな声を出しながら、でも眼だけは笑っているという器用な真似をしながら話に割り込む。どうやら面白がって煽っているようだ。


「だから言い方、そう言う言い方がまずいんだって!そもそも・・・」


 今の追い詰められた直也には、アスの発言を戯言とスルーをする余裕などは無く、いちいち反応してしまう。まさに飛んで火にいる何とやらだ。


「でも直也さんはノリノリでしたよね。サクヤさん、マリーさん」


「うん。直也さん喜んでいるように見えました」


「確かに、おっぱいいっぱいとか言っていたな」


「ああ、旦那様は擦りつけていたな」


 リーシェの追撃を皮切りに、不利な証言が積みあがっていく。状況は直也にどんどんと不利になっていった。


「嘘だ! 僕は何も擦ってはいないし、オッパイイッパイなんて言っていな・・・」


 興奮した直也は声を荒らげながら腰を浮かせて弁明しようとするが、


「直也様、座り方が崩れていますね。崩れない様に重石が必要ですか?」


 少しキレ気味のイズナの声を聴いて大人しく従う。


「申し訳ありません。あと重石は必要ないと思いたいです」


 背筋を伸ばして地面に正座する。


「これでは埒がありません。そもそもは一体どうしてこんなことになったのですか?」


「そもそもと言えば?」


 直也は意識を失い抱きつかれる原因となった借金のことを思い出した。


「そうだ、11億円! どうなった! 一体どうなったの? 11億円!」


「11億円ってなんのことですか?」


「イズナ様、実はかくかくしかじか・・・で、レーヴァさんが金貨10万枚の借金をしたのです」


 出来る女のマリーが端的に分かりやすくイズナに説明していく。


「いやさ、ここのぶどうは本当に美味しくて全部食べちゃったみたいなのよ、ハハハッ」


 話を聞きながらヘラヘラと美味しかったと申すレーヴァに、誰のせいでこんなことになったと若干ヒートアップしてしまう仏の直也。


「レーヴァどうするんだよ! 庶民派アルバイトだった僕には11億円なんてお金どうやって稼げばよいのかわからないよ!」


「旦那様落ち着いて下さい。大丈夫です」


「何が大丈夫なのよ、何処が大丈夫なのよ。教えてよ。僕にちゃんと教えてよ!」


「代金はあたいがちゃんと支払いましたから」


「一括は無理だから、分割払いは出来るの? ボーナス払いも出来るの・・・、え? 支払った?」



「おう、あたいが身を削ってね」


「レーヴァ、お前身を削って支払った、ってまさか?」




 以後直也の妄想です。



レーヴァ「いや、やめて下さい。私には心に決めた人がいるの。どうか、どうかそれだけは堪忍して下さい。


スケルトン「げへへへへ、おめえさんはまだ分かっていないようだな。おめえさんが言う事を聞かないのなら、こいつを誰も知らない異国に売り払ってやるぞ。こいつはもう貧乏な田舎の雪国で死ぬまで丁稚奉公さ。それでもいいんだな」


レーヴァ「酷いわ。酷いわ。酷過ぎる。ああ、旦那様、」


スケルトン「借金をこさえたおめえさん達が悪いんだよ。さあ、分かったのならさっさとこっちに来いよ。俺っちの大きな恥骨で腰が抜けるまで可愛がってやるよ!」


レーヴァ「いや、やめて! 助けて旦那様、助けて直也様!」



スケルトン「オラオラオラオラオラオラオラララ、ラー」


レーヴァ「イヤイヤイヤイヤイヤイクイクイク、クー」


直也「アワワワワワワワワ、駄目だー!」



 妄想が終了し、直也は顔を青くしてアワワとレーヴァに詰め寄り、涙を流した。




「なんて酷い目に。僕が、僕の責任だ。僕が気絶しなければ、しっかりしていれば、こんな目に遭わずにすんだかもしれないのに」


「旦那様?」


 レーヴァは直也が何を言っているのか、何が起こっているのかが、いまいちわからなず戸惑うばかり。


「僕がついているから。これからずっと僕が責任を取って君を支えていくから」


 レーヴァは狩人の本能で波に乗ることに決めたようだ。


「旦那様、何を言っているのかは正直分からないけど、好き!」


「もう大丈夫だから」


「あたいはもう離れない。あたいの全部を捧げるよ。だからちゃんと責任取ってよね」


 直也は抱きついて来たレーヴァを泣きながら強く抱きしめた。


「ああ、」



「ああ、じゃないわ!」× 3


 直也は変なラブロマンスを見せられて嫉妬で興奮したイズナに「テイ」と抱き合うレーヴァから離され、古武術の達人サクヤに「エイ」とかたい地面に投げられゴロゴロと、元忍者のマリーに「ハイ」と蹴られて正座させられると、何処から出したのか分からない重石を膝に乗せられた。


 直也は「アレ?」と、振り出しに戻ったどこらか、なお悪い状況になったことに愕然とする。

 少し離れた処で泣いたふりをしながら自分を見て笑っているフェンリルのフェル、いまいち流れに乗ることが出来ずにアワアワしているリーシェ、涙を流して笑っているアスの姿があった。


「ばーか、ばーか」フェルの口がそう言っている気がする。


 直也はとても悔しそうにしながら、仁王様のようにいきり立っている3人の婚約者にむけて「本当に申し訳ありませんでした」と何度も何度も謝罪を繰り返した。













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