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指輪の絆

 サクヤは女神が帰還した数分後ようやく脳の再起動をすることに成功した。


「フォルテゥーナ様、可愛かったな」


 両頬を両手のひらでおさえて熱い吐息とともに、開口一番に出た言葉だった。


 今度はハッと、これは口伝で伝わる伝説、夢オチではと頬をつねってみるがちゃんと痛い。


「夢じゃない。・・・貰った指輪は」


握った手の中にしっかりと指輪がある。


「この指輪が導いてくれる・・・か」


 じっくりと指輪を観察するが、さっきの様な締め付けられるほどの切なさは感じない。


 一体さっきの感覚はなんだったのだろうと思いながら、フォルテゥーナの神託の内容を思い出してみる。


 1つ、男性との出会いがあること


 2つ、男性は無職なのでを生活して面倒をみ る?こと


 この他にも何か色々言っていたが、因果や運命と言われてもピンとこない。


「取り敢えずは、その出会いがあるまでは、難しく考えるのは止めますか」


 考えることを放棄して、貰った指輪を机にしまうサクヤの耳に、コンコンと部屋の戸をノックする音と女性のハスキーな声が聞こえて来る。


「失礼いたします。マリーです」


「はい、はい、どうぞ」




 ガチャっと戸を開け部屋に入って来たのは、20代の中ほどの黒髪を腰の辺りまで伸ばした美しい大人のメイド、マリー・シーテン。背はサクヤより少し大きい位だろうか、目つきが鋭いく少しつり目の美人で黒縁の眼鏡をかけている。体の線は細くて抱きしめると折れてしまいそうに見えるが、実際に抱きしめると強くしなやかな筋肉で、かなり鍛えられていることが分かる。


 マリーは先代の当主の時から5年ほど働いていて、サクヤにとっては何でも話せて頼れるお姉さん的な存在だ。


「食後のお茶を持ってまいりまいた」


「え?」


 驚いて時計を確認するとお昼ご飯を食べた時からあまり時間が進んでいない。


(体感では30分くらい。実際は1、2分くらい?)


「ごめんなさい。ちょっと変なことを聞くかもだけど、さっきまで何も異常はなかった?」


「はい、特には何も」


「何か聞いたり、感じたりはしなかった」


(あれだけの神気、マリーあれば何かは感じたはず)


「いえ、何も。何かあったのですか」


(この部屋だけなのか私だけなのか、どちらにせよ他の人は影響なしか)


 サクヤは周りをキョロキョロしながら手招きして呼び寄せ、秘密をこっそりと伝えるようにマリーの耳元で囁いた。


「内緒よ。実は、さっきまで女神様にあっていたの」


マリーが笑顔で硬直し、額に汗を浮かべる。


「申し訳ありません。よく聞き取れませんでした」


「だから、とっても可愛い女神様がこの部屋に降臨されて神託を貰ったのよ」


「・・・マジ」

思わずタメ口を聞いてしまったマリーに


「マジで、マジで」と

サクヤは真顔で答える。



(ああ、お嬢様・・・最近は忙しくて疲れていたのだろうな、可哀そうに)


 マリーは目頭に浮かぶ涙をそっとハンカチで拭きながら思う。


「午後も明日も休みましょう。おいしい物も沢山作ります。沢山食べて元気になって疲れた心と悪い頭を癒しましょう」


(私がついていながら、心の悲鳴に気が付いてあげられなかった)


 目頭に涙を溜めながら優しい表情でサクヤをぎゅっと抱きしめる。


「大丈夫です。もう大丈夫ですよ」


「失礼な!心疲れてないし、頭悪くないし大丈夫だし!女神様だって嘘じゃない。本当だよ。私、女神様と話をしたんだよ」


 マリーにきつく抱きしめられ苦しそうに話すサクヤは、信じてよとのメッセージを真剣な眼差しに乗せて送る。


「もう止めて下さい。分かりました。・・・もう分かりましたから」


 少し取り乱してはいるがマリーが自分を労わり心配をする姿をみて、サクヤは少し冷静になる。すると泣きながら自分を抱きしめるマリーの姿が良く見えるようになる。


「マリー貴方、私の話を全然信じてないでしょう」


「お嬢様、マリーはいつでもお嬢様を信じています。お嬢様の味方ですよ」


「いやいや、証拠もあるし、指輪もらったし。疑うなら今見せるし!」


 机にしまった指輪を取り出しマリーに見せようとした時だった。握った指輪が突然輝き出し光を放つ。驚いてただ様子を伺う二人の前で、指輪が宙に浮かびさらに強い光を放つ。


 次の瞬間、快晴の青空から雷鳴が響き、轟音と共に生命の樹に雷が落ちた。サクヤもマリーのも突然のことに唖然として、煙を上げる落雷地点と思われる生命の樹の中程の場所を部屋の窓に張り付き見上げた。


「何?一体なんなの?」


「嘘。精霊の結界を破ったの?11の多重結界を一瞬で?」


 生命の樹は樹に宿る精霊とナンバーズやガーディアンズの上位の魔道士達が協力して、とても強固な結界を11層に重ねて張っている。その強度は魔導士達が対神魔用に研究をしている大規模殲滅攻勢魔法でも破ることは出来ない。


「だだの雷ではあの結界は破れません。それに精霊の声も魔力発生もありませんでした。」


「ええ、指輪が光った直後にあの雷」


サクヤはフォルテゥーナの言葉を思い出す。


(指輪は貴方の運命を導いてくれるの)


「ずいぶんと早い運命の導きですね」


 少し笑って独り言を言うサクヤを心配そうに見るマリーにむかい


「あれは、女神様案件よ。マリー、貴方は信じていないみたいだけれど、さっきの指輪は女神フォルテゥーナ様からいただいた物なの。それに」


 いつの間にかサクヤの左手の薬指にはまり、埋め込まれた宝石が白い輝を放つ指輪をマリーに見せる。


「見てほら、運命が動き出すわよ」


 左手の薬指にはまり神秘の光を放つ指輪を見たマリーは、確かにいろんな厄介な運命も一緒に動き出したことを感じて能面のように顔を白くした。



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