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女神フォルテゥーナ

 希薄だったフォルテゥーナの存在感は、それまでが嘘だったかのように増大し、神々しい白と金の神気を放ち出す。いつの間にか、白を基調とし縁を金であしらった美しい衣を纏う細身の美少女は、威厳と慈愛を併せ持つ絶対無比の強者で、まるで突然目の前に輝く太陽が現れたかのようだ。

 サクヤは常人であれば脳が焼け心臓が止まってしまうほどの強烈な神気を受け、体が硬直して指を一本動かすこともできない。


「私は運命を司る女神」


(運命の女神様、フォルテゥーナ様?)


優しい口調でフォルテゥーナはサクヤに話すと、先ほどまでの体の硬直が解ける。


「彼が前を向いて、歩いて進むことができるように支えて欲しいのです。彼は事実を知った時とても苦しむでしょう。愛した人達がもういないのだから」


「でも、彼がこの時代に帰還するのはただの偶然ではありません。ここには貴女が、この千年後の世界には転生した貴女がいました」


「前世で貴女は彼に愛されていました。貴女も彼を愛していました。今の貴女はこんなことを聞かされても迷惑かもしれません。厳密に言えば、彼を愛したのは、今の貴女ではないのですから」


「それでも貴女にお願いします。今この世界で彼を癒すことが出来るのは、多分貴女だけだと思うから」


件の彼の婚約者だったと言われても正直困る。会ったこともないのに、支えてくれて言われても返事のしようもないが、真剣に話す女神様の姿を見ていると、流石に無下にもできない。


「私には正直よく分かりません。が、出来る限り頑張ってみようとは思います」


サクヤはどちらかというと運命とか前世とかに縛られるような生き方は嫌いだ。けれども今回は女神さまからのお願いだ。断わることなど出来ないの。なので少しだけ玉虫色の返事をする。


「ありがとう。それでも十分、とってもうれしいの。それと彼は無一文だから一緒に住んでしばらくは生活もみてあげて欲しいの」


女神フォルテゥーナはニッコリと笑顔で微笑んだ。女神フォルテゥーナから溢れていた神気がスッと消えていく。

 神気の圧力が完全に消える。体が自由に動かせるようになったサクヤは大きく息を吐く。乱れた呼吸を整えようとするサクヤに、女神フォルテゥーナはそっと手を差し出す。サクヤがその小さな可愛らしい手を握り返すとギュッと握手をする。


「どうか、宜しくお願いなの」


「はい。こちらこそ、女神様」


握った手にもう一方の手を重ねて、丁寧な握手をしてくる可愛い姿の女神を見ると、サクヤの先ほどまでの緊張が少しだけほぐれてくる。

 握手したフォルテゥーナの手をスリスリと撫でていると、可愛いのも好きの悪いサクヤが目を覚ます。


(柔らかい。女神様へのおさわりできるだなて・・・私の生涯に一片の悔いなし、だわ)


可愛い本物の女神様に触ることができる機会などもう一生無いだろうとその手の感触を楽しむサクヤに、


「私は割と真剣な話をしていたのに、ちょっと邪なの」


 フォルテゥーナが可愛く叱ると、ハッと自分を取り戻したサクヤは手を慌てて離す。


「申し訳ございません。あまりのうれしさについ」


「許すの。それで貴方にこの指輪を預けるの。これは貴方と彼を繋ぐ物なの」


はいっと、渡された銀色に光る指輪を両の掌にのせて良く見てみると、2対の翼に挟まれるように白く輝く石があり、裏には見たことがない文字が彫られている。


「とても綺麗な指輪ですね。」


 指輪を見ていると急に胸が締め付けら自然と涙がこぼれた。とても大切で温かくて懐かしいが、同時にとても辛く悲しい。そんな感じがした。


「ん。大切にするの。その指輪はもともとあなた達一族の宝なの。訳あって昔私が預かった物なの」


そう言うとフォルテゥーナはサクヤの体を抱きしめた。


「ああっ女神様、どうされたのですか?ご褒美ですか!」


 女神に抱きしめられた感動と緊張でブルブルと生れたての小鹿の様に震えるサクヤの頬を撫でてほほ笑む。


「サクラ、貴女に会えてとてもうれしかった。また会いましょう」


女神フォルテューナはサクヤの身体を離すと耳元でそっと


「そうだ、彼に伝言をお願いするの。アメノのフォルが、コーヒーをまた一緒に飲みましょうって言っていたって」


そう言うとフォルテゥーナは来た時と同じく突然姿を消した。



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