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魔法少女カオティック・ブラック! 再び

「あいつがターゲットの地竜ですね」


「ああ、そうだろうね」


「あいつ馬鹿なのかしら? あんな目立つ所で堂々と寝ていますよ」


「この辺にはもうあいつの敵になる様な魔獣はいないのだろうな」


 アスとレーヴァは気配を消して接近、少し開けた雑草が繁る広場の真ん中で堂々と眠っている地竜を観察していた。



「もっとごつくて厳つくて黒光りしている感じの奴を想像していましたけど、思っていたよりも大分弱そうですね」


「さすがは旦那様の下に集いし魔法少女。あの地竜を弱者と断ずるとは」


「でも、実際にあいつは下の中位の強さですよね」


「お前が何を基準に下の中と言っているのかは知らないが、一般的な部類で言えば奴はAランクの中位くらいの強さはあると思うぞ」


「え、そうのですか」


「うむ。あたしも随分昔にも冒険者ギルドで働いたことがあるから間違いは無いと思うぞ」


「そうなのですか」


「うむ、そうなのですよ」


「じゃあ私、サクッと殺ってきますね」


「ああ、くれぐれも油断をしない様にな」


 アスはまるで近所にお散歩に出かけるかのように地竜に近づいて行った。






 何の躊躇もなく眠っている地竜の目の前に立つとアスは大きな声で呼びかける。


「起きて下さい、トカゲさん。起きて下さい、トカゲさん。 ・・・・・・、さっさと起きろよ、クソトカゲ!」


 ドゴン、丸まって寝むっている地竜の腹をトーキックで蹴り上げた。


「ギャオン」と突然の激しい痛みに地竜は驚いて目を丸くしたまま周囲を見渡している。


 地竜はゆっくりと体を起こして立ち上がると怒りを露にして自分に危害を加えた相手を探し始める。

 ダレダ、ドコニイルと言わんばかりに長い首を伸ばして敵を探すが何処にも見当たらない。


「おーい。ここですよ、ここ。何処を見ているのです?」


 地竜は声に釣られて自分の足元を見る。すると両手を大きく振りながら「ここにいるよ」とまるで存在をアピールしているアスが目に入った。


 地竜は「グオォー」と威嚇の叫び声を上げて、大きな両目でアスの様子をジロッと観察している。


「今からこの私が魔法少女に変身して、滅多滅多のギッタンギッタンにして今夜のおかず代にしてあげるわ!」


 アスは右手の人差し指を地竜の顔にむけてそう言い放つと、少しだけ魔力を解放した。


 すると、アスの恐ろしいまでの変化に気が付いた地竜は、アスの事を危険な敵だと認識して眼の色を変え、咆哮を上げながら飛び掛かって来た。


 地竜は息つく暇もない位に両手足の鋭い爪や大き太く鞭のようにしなる尻尾を使って、狂ったようにアスを責め始める。



「ちょっと、ねえ、待って!」


 アスの静止に聞く耳を持たず地竜の攻撃は続く。ブレスを吐き、魔法で石の弾丸を飛ばし、鋭い爪や牙の噛みつきで執拗なまでに攻撃を続ける。


 早くこいつを殺さないと、


 そんな地竜の焦りが見える様だった。



「ちょっと待ってよ。私の、見せ場が、まだ変身していないってば」


 地竜の攻撃を避けながら変身という見せ場を狙うアスは次第に苛立ちを覚え段々と怒りが湧いて来る。


「待てって、言っているでしょうが!」


 キレたアスは怒りに任せて、大岩をも砕く尻尾の一撃を小さい体の左腕一本で受け止めた。

 渾身の一撃を受け止められてしまった地竜は驚いて動きを止めてしまう。



「この、トカゲ野郎。ちょ、待てよって、さっきから言っているだろうが!」


 受け止めた尻尾をそのままに、アスこと魔王アスモデウスは一瞬で地中の頭の位置まで飛び上がると硬直していた地竜の頬をビンタする。


 地竜は一体どれほどの力でビンタされたのであろうか? 頬をバキッと、決してビンタされても絶対に聞こえることのない音を響かせながら、頭を振り子の様に勢い良く吹き飛ばされた地竜は、派手に地面に頭をぶつけて土埃を巻き上げ、さらには体ごと横倒しに倒れ込んでしまう。


「さっきから変身するから待てって言っているだろうが、ああ!このクソトカゲが!」


 アスは起き上がるために体を起こそうとしている地竜の頭に、もう一度グッと握った拳骨を放つ。と、ゴキン、バギンと何かが折れる音と共に目から光を失い地竜は倒れてしまった。



「ふう、漸く《ようや》大人しくなったわね。じゃあ、少し待ってなさい」


 倒れた地竜の姿に満足すると、大きな岩の上に飛び乗り変身のポーズをとった。


「ラジカル、マジカル、クラシカル。アイ・ラブ・マスター、アイ・フォー・ユー」


 前回と違う変身のセリフからするとまだアスは整ってはいないようだ。体が光に包まれ漆黒のショートウエディングドレス姿となったアスは顔の前で腕をエックスの形にクロスさせてダブルピースを決める。


「世界の闇を照らす地獄の元大罪の王、愛と色欲の使徒魔法少女カオティック・ブラック!」


 魔法少女カオティック・ブラックが決め顔に決めゼリフを嚙まずに決めると、ド・ドーンと後ろの方で大爆発が起きた。

 自分の正体を半分明かしてしまうというカミングアウトなセリフを放ったことにも気がつかずに、とても気持ち良さそうで満足した感じの表情となっている。


「待たせたわね! クソトカゲ! さあ、パーティーの時間よ。その魂今すぐ地獄の闇の底へ案内して上げるわ!」


 ビシッと倒れた地竜に指をさして高らかに声を上げるがピクリともうごかない。




「カオティックブラック、この地竜は既に絶命しているようだぞ」


 レーヴァが地竜の瞼を手で広げながら状態を確認しながら地竜の臨終を告げる。

 先ほどのビンタと拳骨で既に倒してしまっていた様だ。


「・・・・・・よわ」



 魔法少女カオティック・ブラックは無事に高難度の地竜討伐依頼を達成して多額の現金収入と今夜のステーキを手に入れる事が出来た訳なのであるが、心残りが多すぎて全然嬉しくは無かったと言う。









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