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英雄は働きたい

 エルフのリーシェとアスこと魔王アスモデウス が仲間に入り数日後の事。

 

 直也は自分がまだ働いていないことに気が付いた。ここ数日の間はなんだかんだと一緒に暮らす女性陣に時間を取られてばかりで、すっかり働くことを忘れてしまっていた。

 

 このままではヒモになってしまう。実際イズナやマリーは、自分の隣にいて養われることが直也の一番の仕事と公言していて、何かと直也を甘やかそうとしてくるのだが、最近はそんな様子を毎日見ている、屋敷で働く巫女やメイドさん達の目がとても冷え込んできている。

 今の直也は暖房の効いた暖かい屋敷の中でさえ、上着を一枚多く着なければならなくなるほどの冷たくて寒い彼女達の視線にさらされていた。このままでは心の風邪をひいてしまう。イズナは本業の方での仕事があるそうで今朝早くから出かけている。直也も今日は昼過ぎ頃にでも冒険者ギルドに行って冒険者登録を行い、できれば記念すべき依頼第一号を受けて仕事をしたいと思っていた。

 



「直也さん今日は私の書斎で二人でこの書類を作っていきましょう」


 居間にいたサクヤに直也はそう話しかけられた。


「直也、そんな何の書類かも分からない手伝いなどすることはない、それよりも今日の夕食は何が食べたい?食べたい物を私が作ってやろう。と、いう訳で直也は私と買い物デートに出かけます。お嬢様は一人でお仕事を頑張って下さい」


 何処からかメイド長のマリーが現れ、こちらも直也を挟んで話かけてくる。


「マリー、貴方は一体何を言っているのかしら?貴方はこのシラサキに仕えるメイド長のはずだけれども、何で毎回主人である私の幸せな時間を奪おうと、潰そうとするのかしら?」


「お嬢様、前にもお話しましたが、直也はこのシラサキの超ビップです。私以外の者にはお世話はさせられませんし、させる気もありません。私は直也専属のメイド、いいえ、直也専用と言っても間違いはないはないでしょう。直也のことは私が生涯をかけて面倒をみますので、お嬢様は遠慮なく安心して、町の仕事に生涯を捧げられて宜しいかと」


「何が、宜しいかとよ。冗談じゃないわよ。何で私が仕事と結婚しなきゃならないのよ。私は将来優しい旦那様と一緒に白い犬を飼って幸せに暮らすという夢があるんですから」


「そうでしたか。では夢の邪魔にならないように私と直也は失礼しますね」


「待ちなさいよ、直也さんは私の夢の実現には欠かせない人材なんだから。はい、直也さん私の夢の実現に向けて、こちらの書類を二人で作りあげたら、最後に契約のサインをお願いします」


「二人とも、悪いんだけれども今日の僕の予定は決めていて、冒険者登録をして依頼を受けてこようと思っているんだ」


 直也が話している途中でリーシェとアスが居間へとやって来た。


「何々主様、何処かに出掛けるの?」


「ああ、冒険者登録をしようと思ってね」


「えっ、直也さん働くんですか?」


「えって、なんか変かな?」


「ごめんなさい直也さん。最近ずっと働かないで生活されていたので。巫女やメイドのみなさんも、働かないでヒモになる気だと言う話をしていたものですから」


 リーシェの言葉が心に刺さり、直也の心がゴホゴホと咳き込み始める。早く仕事をしないと本格的に風邪をひいてなみだを出してしまいそうだ。


「ち、違いますー。僕はヒモじゃありませんからー。ちゃんと仕事をしますからー」


 直也はショックで若干の幼児帰りを起こしてしまう。少しだけ涙を浮かべて震える手足に鞭を打ち、冒険者ギルドに走り出して行ってしまった。


「私も主様と一緒に登録しようっと」


「待ってください、アス私も行きます」


「お嬢様私の直也の後を追います。直也のことは任せてください」


「いやよ、私も行くに決まっているでしょう」


 4人は仲良く全員で直也を追いかけて、冒険者ギルドに向かことになった。



 冒険者ギルドのお昼の休憩が終わった静かな昼下がり、


 「冒険者登録をしに来ました」


と、ギルドについてすぐさま受付け嬢に直也は声をかけた。


「はい、わかりました。こちらの書類に名前を書いて少々お待ち下さい」


 言われた通りに受付書類に名前を書いて提出し、大人しく待合席に腰を下ろす。ぼーっと受付を見ていると、受付全体が急に騒がしくなり「ヤツだ、ギルマスを呼べ」などと声が聞こえて来る。熱気を放ちだした冒険者ギルドの受付兼事務所、働いている職員はみんな手を止め直也を監視している。いつの間しかギルドの出入り口は屈強な体を持つ職員に封鎖されていた。


 ガシャガシャと金属音がギルドの奥から聞こえたかと思うと、ギルドマスターの執務室の扉がギィーと開いた。


「あーら、なおや。いらっしゃい。お久しぶり、良く来てくれたわね」


 ジョニーの歓迎の言葉が聞こえた。声を聞いた直也が挨拶をしようと椅子から立ち上がる。


「こんにちわ、ジョ、ニーさん?」



 そこで見たのは、不敵な笑みを浮かべ帯剣した完全装備の元A級冒険者、ギルドマスター・ジョニーの姿だった。









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