新しい仲間
直也は顔を青くしながら自分の体を守る様に出し締めて、
「一体僕の体に何をしたんだ!」
可愛い顔をいやらしいおっさんのように歪ませてグヘヘと口のヨダレを腕で拭きながら、
「クククッ、それはもう色々させていただきましたよ。私一応色欲の魔王なので」
「嘘だろう、僕は、僕は知らないうちに既に汚されていたとのか?」
「汚されたって何よ、失礼ね!むしろそこは喜ぶところでしょうが!食いつてくる所でしょうが!」
「怖い。一体何をされた。聞きたくないけど、聞きたくないけど、やっぱりすごく気になる」
「例えばそうね、動けない主様を裸にして一緒にお風呂に入って綺麗に全身洗ってあげたり、主様と魂の儀式をしながら口ではちょっと言えないムフフをしたり、毎日千年三十六万五千日、主様を抱き枕にして添い寝をしたたりと、ああ、まさに至福の時だったわ」
何もない部屋の天井をウットリとしながら見つめて、微笑む姿に直也は鳥肌が止まらない。
「最後の百年は魂もつながっていたからお互いの気持ちを分かち合うことが出来たしね。そう、主様はもう夢と現実の狭間で私を許し受け入れているのよ。二人の魂は深く繋がり一心同体。言ってみれば配偶者、そう私は嫁よ!」
嫁の話は兎も角としても、直也はアスモデウスに以前ほどの怒りを感じることが出来なかった。
大戦中は彼女達悪魔に大勢の仲間の命が奪われた。しかし、自分も契約者としてとして大勢の悪魔や魔族の命を奪った。もしかしたら、倒した悪魔の中にも命令をされて仕方なく人類を襲っていた者もいたかもしれない。実際の所は分からないけれども、殺されたから殺して、殺したから殺されて、という負の連鎖に今さら捕らわれるつもりもない。
思うところが無いと言えば嘘になるが、彼女一人を責める気も無い。それに彼女は桜やイズナ、里を見逃してくれた。
魂の融合したせいなのか、冷静にそう割り切った考え方が出来る自分に驚く。
直ぐに彼女を受け入れてしまうことは難しいかもしれない。でもこのわだかまりも時間が解決してくれるだろう。邪気のない今の少女の姿のアスモデウスを見ているとそう直也は感じてしまう。
「なーに主様、私の顔をじっと見て?やっぱり私が気になるんでしょう。二人でもう一回お風呂入る?ご奉仕するわよ」
「いや、気持ちは嬉しいけどけど自分には少女趣味は無いので」
右手を顔の前に出していやいやいやと否定する。否定しながら直也は先ほどの股間の悲劇を繰り返さぬようにアスモデウスから距離を取って警戒する。
アスモデウスの目がキラリと光る。
「来る!」
いつの間にか後ろに回っていたはアスモデウスは狙いすましたトーキックを鋭い角度で発射した。
が、直也はそれを読んでいた!
左手で股間をガードし肩越しに顔だけを振り向くと、
「そう何度もやらせないよ」
ドヤ顔で語ろうとして彼女の姿がそこにはない事に気が付く。
「しまった!」
「ドッペルを使ったフェイントよ」
そんな声が聞こえた。
シュッという短く鋭い音に続き、直也の股間はガードの横から前蹴りで正確に打ち抜かれていた。
「!!、ふぉおおおああああー!」
真っ白い顔で悲鳴を上げ、直也は泡を吹いて倒れて意識を失った。見ようによっては苦しそうとも気持ち良さそうとも取れる表情ではあった。
「成敗!ってあれ、やり過ぎたから?・・・グフフ、直ヒールかけとこ」
哀れ直也はズボンを脱がされパンツを下ろされ、股間に直接ヒールを掛けられたのであった。
翌朝目を覚ました直也は自分の股間を一番にチェックした。
「良かった付いてる。股間がもげてしまって、違う生き方を探す旅にジョニーと二人で出た夢を見たような気がする」
額の汗を拭うと、まだ寝ぼけた頭を覚ますために顔を洗うため洗面所に向かった。
みんなはもう起きているようで元気な声が響いてくる
「・・・この食器をテーブルに運ぶのを手伝って頂戴」
「分かりました。サクヤ様」
「・・・リーシェと一緒にそろそろイズナ様を起こして来てくれないか?」
「分かりました。マリー様」
「ではリーシェさん一緒に行きましょう?」
顔を洗う手を止めて、直也は汗をかきながらもう一度良く耳を澄ませてみる。
「起きて下さい。イズナ様朝食の準備が出来ましたよ」
「アス、あと5分眠らせてくれ」
「駄目ですよ。早く起きないと直也さんに言いつけちゃいます」
「もう起きたぞリーシェ、起きたから大丈夫だ」
直也の時間が少し止まる。どうやら間違いではないようだ。奴は屋敷の中にいる。直也は濡れたままの姿で屋敷を疾走、現場に急行する。
「何でいるんだー!」
アスモデウスは朝食が準備されているテーブルに座ってサクヤ達と仲良くおしゃべりをしている。
「忘れてしまったのですか?昨日直也さんが行くところが無くて困っていたアスを助けて自分の従者に迎えたじゃないですか」
「困っているアスを直ぐに助けた直也さんはとても素敵でした」
「僕が彼女を助けた?」
「昨日はありがとうね主様。まあ、そう言うことになっているから、これからも宜しく」
可愛い顔でニヤリと笑う。どうやらアスモデウスは魔法を使ってみんなの記憶を少し変えたらしい。
それにしても、生命の樹を祀る大社の結界がまるでアスモデウスに反応していない。いや機能していない。それは精霊たちが彼女には害意は無いと判断したからなのだろうか。
ともあれ、アスモデウスは屋敷で暮らしていくつもりのようだ。不安が無いとは言えないが、今のアスモデウスであれば信じても良い気がする。
「さあ、直也早く席につけ、私のうまい手料理が冷めてしまう」
「いただきまーす」×5
笑いながらみんなと朝食を美味しそうに食べるアスモデウスの姿を見て、暫くの間はこのまま様子を見てみようと、直也は決めたのであった。