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伝説の実力!親衛隊結成

 冒険者ギルドの戦闘訓練場には、鎧を着せた人形に打ち込みを行ったり、積み重ねられた土嚢に攻撃魔法の試射することが出来る設備がある。

 普段はいつもは冒険者達に開放されているが、今日は訓練生以外の立ち入りが禁止されていた。

 ガーディアンズ団長のイズナはこの町で戦いを生業にする者達にとって、絶対的存在で比類ないカリスマとなっている。

 もし訓練の講師を務めていることが他の冒険者に知られれば、町中で大混乱が起きて大変なことになってしまうだろう。

 今回の講師の話は、ガーディアンズの幹部達にすら秘密にされていた。と言うか、完全に直也に自分の良い所を見せたいという、イズナの独断であったのである。


 訓練場に立つイズナはいつもの優しい感じは一切なく、本物の武人としての美しく厳しい表情と佇まいで訓練生の様子を窺っている。訓練生達は緊張から動けない者や、感動で泣いている者、中には手を合わせて拝んでいる者までいる。

 直也は普段見る事のないイズナの姿を好ましく感じてしまい、じっと静か見つめていると、直也の視線に気が付いたイズナの顔が少し赤くなった。


「ん!」


 イズナと直也を交互に何度も見比べるサクヤとリーシェは、二人りの間に流れるプラトニックラブ的雰囲気に、憮然とした表情を見せていた。



 「本日の訓練は私が担当させてもらう。やるからにはこの訓練が、今後の貴様達の糧になる様に厳しく指導させてもらう。戦闘技術などは2時間という限られた訓練の時間では、どうすることも出来ない。したがって訓練では有る程度の基礎は出来ているものとし、貴様らの実力の確認と、実戦と想定した模擬戦を行う」


 イズナは右手を高らかに天に突き上げ、訓練生達を叱咤激励をする。


「貴様達、力を私に見せてみろ。私にガッツを見せてみろ。私が貴様らの力を見極めてやる!私が貴様らを指導してやる。分かったら直ぐに準備に取り掛かれ、一分一秒と時間を無駄にするな!」


「サー、イエッサー!」と一番気合いの入った返事をしたのは、直立不動の姿勢でイズナの話を傾聴していたギルマスのジョニーである。ジョニーはイズナの前、最前線の更にその前に一人立ち、イキリまくっている。目付きまでさっきと違う。


「野郎共、聞いた通りだ。半端な真似をするんじゃねえぞ!ブッ殺すぞ!」


 ジョニーが訓練生に活を入れ、素早く武器の準備をさせる。もはや口調まで変わり、人格すらも変わっている。彼はギルマスではなかったか?一体ジョニーはどれだけイズナを慕っているというのか?良く見ると訓練生の中にも何人か同じテンションの者がいる。伝説は伊達じゃない、そう思わざる終えない光景だった。


 そんな緊迫した雰囲気の中、直也はイズナの勇ましくピンと伸びたケモ耳や尻尾を見ながらついつい呟いた。


「イズナたん、めんこいな(可愛いな)」


 直也の声が聞こえていたのだろう、イズナはピンとしたケモ耳を震わせ、真っ赤な顔の潤んだ瞳で直也を見つめている。自然と見つめ会う二人。


「ムッ!」


 サクヤとリーシェは、再度イズナと直也を交互に何度も見比べると、二人の間に流れるラブな雰囲気を感じて、悔しそうに唇を噛み、地団駄を踏んでいる。サクヤにいたっては身体強化まで使っているようで、地面にヒビが入っていた。




「ゴホン、ゴホン」


 少しして、自分を取り戻したイズナは、 照れ隠しの咳払いをして訓練を再開させた。


「貴様ら、準備は出来たか!まずは、私が見本を見せてやる。だから貴様らも私に本気を見せて見ろ!」


 イズナが力を少し解放させると、身体から吹き出すように霊気が溢れ出す。その溢れた霊気を纏う様に身体中に覆わせ安定させる。ほんの一瞬で、戦闘態勢に入ってイズナ。今のイズナの戦闘能力が分かっているのは、この場で直也とジョニーだけだった。ジョニーはその場に崩れ落ちて、アウアウと何か言いながら震えている。


 イズナは訓練用の木剣を手に取り、無造作に空に向かって振り抜くと、霊気で覆われた木剣の剣先は、軽く音速を超えて衝撃波を産み出した。

 最前列の更に前にいた、ジョニーが隊長となり訓練生数人で本人非公認のイズナ親衛隊を結成していた面々は、衝撃の余波を至近距離で受けたため訓練場の端まで飛ばされた。イズナの剣の片鱗というか、ただの余波を食らっただけなのだが、皆幸せそうに満足げに何かやり遂げた表情をしていた。



「そ、空を見てください!」


 誰かが叫び、皆が一斉に空を見る。


「く、雲が割れている!?」


 イズナの放った衝撃波は真っ直ぐに空を進み、雲を断ち切っていた。


 イズナは、ニヤリと笑い木剣を肩に担ぐと


「次は貴様達の番だ、やってみろ」


と、静かに告げた。




・・・




・・・




・・・




「出来るかー!」




 この時ばかりは、訓練生や飛ばされた親衛隊の全員までが起き上がり、心を合わせてツっこんだという。



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