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マリーが見せたいモノ

 背後から殺気が伝わって来る。この殺気は結構本気の殺気だ。二人が後ろを見ると刀を持った鬼が走って近づいて来ていた。サクヤは公務を休んで丸投げしていることを、イズナは連絡員を無視して迷惑をかけていることを、それぞれ思い浮かべる。

 あの形相マリーはかなり怒っている。何がきっかけとなったのかは、知らないが余程辛い思いをしたのだろう。あれは確実に自分達に説教をする気でいるのだと、サクヤは身を硬くした。


 顔を真っ赤にしたマリーが、だんだんとサクヤとイズナに近づいて来る。余りの剣幕に思わず二人は目を閉じて俯いてしまう。しかし、マリーは二人の間をすり抜けて離れの部屋に、勢いよく飛び込んでいってしまった。二人は振り返るとタイミングよく部屋の戸が閉まる。「うそ・・・?」余りの事態に二人は茫然とした。



 直ぐにマリーの怒声か聞こえてくる。


「高杉直哉!貴様そこに直れ」


 部屋の隅で座り込んでいる直也に向かい叫んでいる。


「貴様いつまでうじうじと泣いているつもりだ、軟弱者め」


 直也は少し顔を上げてマリーの姿を見るとまた直ぐに俯いてしまう。


「ほう、貴様私を無視するのか?」


 獲物を狙う獣の様な目で直也を睨むと、持っていた刀を首筋にあてる。しかし何の反応もしない。マリーはそのまましばらく直也の反応を見る。と、


 「ふん、つまらん奴め」


そう言うと首に当てていた刀を離す。そのまま刀を一振り払うと何処にしまったのか、刀が消える。マリーは座る直也の胸倉をつかみ強引に立たせると、拳を握って思いっきり顔を殴った。いきなり殴られた直也は部屋の壁に叩きつけられて茫然とした様子のまま、マリーを見上げている。


 「何を「黙れ、貴様私に少し付き合え」


 直也の言葉を最後まで言わせず、再び胸倉を掴み立たせると、そのまま屋敷の外へでて町へ連れ出した。


 マリーが入ってすぐに部屋を覗き始めた二人。硬直から回復するのにちょっと時間がかり、部屋に入るタイミングを逃してしまったのだ。部屋から聞こえる怒声。殴られる直也を見たイズナは今にも窓を突き破っていきそうな勢いだ。イズナを必死になって止める、サクヤは思った。

 (マリーはマリーなりに直也さんの力になろうとしている)

 付き合いが長いのでマリーのことは理解している。考えていることが分かった様な気がした。直也を殴った時は驚いたが、少しマリーに任せてみようと思った。でもそのためにはまず興奮しているイズナを落ち着けなければならない。どう、どう・待て、待てと、背中をさすり


「私は犬か!」


と更に怒りを買ってしまうサクヤであった。




 街は活気に溢れて沢山の人が往来している。ガーディアンズの兵士が町を巡回し、冒険者達が仲間と今日の目標を話し合い、商人や店の店主は威勢よく客引きの言葉を出している。町のそこかしこで笑い声が聞こえて、町が賑わっている。

 直也はマリーに引きずられるように学校の前を通って一つのお店、八百屋の前に辿り着いた。マリーは直也から手を離すと、おんぶ紐で赤ちゃんを背負ったまま働いている、女性の店員さんに声をかけた。年はまだ十代の後半くらいだろう。


「エリーヌ、今日はいい物が入っているか?」

「あら、マリー様いらっしゃいませ。今日はいいキャベツやピーマン、トマトなんかが入っていますよ」

「そうか、ではそれをいただこう、ここに書いている量を後で屋敷に届けて貰えるかな」

「はい、わかりました。いつもありがとうございます」

「ああ、それにしてもアーサーも大きくなったな」

「ええ、お陰様ですくすくと育ってくれて、この子の成長は私の生きがいになっています」

「そうか、何かあった時には何時でも遠慮なく声をかけてくれ」

「はい、ありがとうございます、ところでそちらの男性はマリー様の旦那様ですか?」

「ぶっ、だ、誰が、こ、こんな軟弱者と、変な勘繰りは止めてくれたまえ、失礼する」


 普段とは違う口調で赤くなって話すマリーにエリーヌはクスクス笑いながら手を振っている。「全く」とぼそぼそ呟きながら、マリーはまた直也の手をにぎり、「いくぞ」と短い言葉をかけて歩きだした。


 今度は保育園の前を通って町の大通りに向かう。保育園からは外で遊ぶ元気な子供達の声が聞こえて来る。少しすると少年が店員を務めている肉屋に着いた。マリーは直也の手を放し、少年と話す。


「頑張っているかハリー」

「マリーさん、いらっしゃいませ」

「今日、親方は?」

「奥で解体しているよ、呼んで来る?」

「いや、いい。それより今日のおすすめは、何か良い物はあるか?」

「森で狩ったいい鹿が入っているよ」

「ではそれのもも肉を10キロほど貰おうか」

「毎度アリー。今日は持って行く?それとも届ける?」

「今日はこのまま持って帰る、ほら直也、早く持て」

「その兄ちゃんは、マリーさんの恋人なのか?」

「こ、子供のくせに大人をからかうんじゃない、ほら、行くぞ直也」


 また少し顔を赤くしたマリーはお金を払うとお店を後にした。


「次で最後だ。ついてこい」


 マリーが言う。黙っていなずいた直也の足取りは先ほどまでと違い、歩く足に力が少し戻って来ているようだった。大通りをぬけた住宅街を二人は歩く、町の道路にゴミなどは落ちていなくて、綺麗な花壇が整備されていた。目的地は住宅街をから少し離れたところにある孤児院だった。


 マリーが門をノックしてしばらく待つと、若いシスターが現れたシスターはマリーの姿を見ると深々と頭を下げた。


「マリー様、ようこそおいで下さいました。子供達も喜びます」

「悪いな、シスター。見ての通り今日は連れがいる。用が済んだらすぐに帰るので気遣いは無用だ。今日は土産を持ってきた。後で、みんなで食べてくれ」


 直也が持っている鹿肉を指さして何処にもっていけばいいかを聞いている。


「ありがとうございます。いつも、いつも、申し訳ありません。宜しければ子供達に手渡しして下さいませんか。いただいたことを子供達にちゃんと知って欲しいのです」

「分かった。後あまり気にしないでくれ、私に出来るのはこれくらいしかないからな」


 シスターは孤児院の庭で遊んでいる子供達に声をかける。


「みんな、マリーさんがお肉をもってきてくださったわ。みんなでお礼を言いましょう」


 シスターの声に子供達が集まってくる。


「マリーお姉さん、お兄さん、有難うございます」


 人数は12人。小さい子で2歳くらい、大きい子でも12.3歳というところだろうか。みんな笑顔でお礼を言ってくる。直也が肉を子供達に渡すと大喜びで孤児院の中に肉を持って消えていく。シスターが「みんな待ちなさい、はしたないですよ」と子供達を諭しても、肉に魅惑の魔法を掛けられた子供達が止まることはなかった。

「失礼します」と頭をさげて子供達のあとをついていくシスターの背中を見送りながら、マリーは直也に言った。


「予定変更だ、後、もう少しだけ付き合え」


 マリーの言葉に直也は素直に従った。2人は並んで町を歩いた。特に会話はない。太陽はもう西に大きく傾いていて、赤く綺麗な夕日が生命の樹を包んでいた。





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