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心配のかたち

 離れの部屋の窓から、心配そうに中を覗く二人組がいる。直也が籠ってから、かれこれもう10日になる。毎日3食のご飯をマリーから受け取り、サクヤとイズナの2人が部屋に届けている。ご飯には手をほとんど付けず、水をほんの少しだけ飲むばかりだ。目に見えて衰弱し痩せていく直也に、ご飯を食べて早く元気になってもらいたいと、思ってはいるものの、上手くはいっていなかった。



 サクヤは自分が桜の生まれ変わりかもしれないと言うことが重荷となっていた。


「私はサクヤで桜ではない。直也さんが求めているのは桜であってサクヤではない。私は桜の代わりにはなれない。私には桜の記憶なんてない。貴方は桜、転生したなんて言われても、そんなこと言われも私は」

 

 サクヤは自分の感情が誰のモノなのか、分からなくなっていた。


「男性の人に惹かれたのは初めてだった。

この気持ちは桜のものだったの。それともあたしのもの?今は、直也さんに早く元気になって欲しい。元気になった直也さんと沢山のお話して、私の気持ちを確かめたい。」

 

 サクヤは直也のことで頭を一杯にしなら、今日も離れを覗いていた。



 一方イズナも、まだ直也に自分の事を伝えられずにいた。桜を悼む直也に、自分のことを伝えるのが憚られた。

 直也が消えてからは、最後の願いを聞き届けて、千年もの時間の間ずっとセフィロトの町を守って来た。人々からもっと受け入れてもらえるようにと人化の魔法も習得した。イズナは街を外敵から守る為、直也の子孫を守る為に奔走し、長い時間を一人身で過ごしてきた。


(私は、待つのには慣れている女)


「直也様、今の貴方には時間が必要です。私にとっては千年前、でも直也様にとっては、ついこの間のことだもの。私は信じています。悲しみも苦しみも受け入れて直也様が立ち直るのを信じています。その時に桜の生き抜いた話をお聞かせしましょう、最後まで貴方のために生き抜いた彼女の話を」

 

イズナは直也が立ち直ること心から信じて、今日も離れを覗くのだった。


 


 小屋の前で部屋を覗いて一喜一憂する二人の姿を、大社の執務室の窓からイライラしながら見ている者がいた。

 その者は、シラサキ家のメイド長マリー。

 

サクヤが公務を休んでいるせいで滞っている、決済を求める書類の整理や町の会議への出席、町の拡張工事の現場視察や苦情対応などの仕事や、ガーディアンズからのイズナの即時帰還の訴えと状況の説明を毎日求められていた。

 話をイズナに繋いでも「嫌、直也様から離れない」と責任者とは思えない発言をするので、仕方なく離れが見える大社の部屋で、ガーディアンズ連絡員との面会をセッティングするも「無理、直也様から離れない」と応じてもらえない。毎日毎日、サクヤの休みとイズナの我が儘のために、あちらこちらで頭を下げる仕事漬けの日々。休みはない。日に日にストレスが溜まり爆発寸前になっていた。

 

 元々あまり気が長い方ではないマリーは、町の住民の貴重な投稿ご意見「未婚の女性を紹介してくれる場を作って欲しい」や「食堂の野菜炒めからピーマンを除いて欲しい」という貴重な意見、お願いに対しての回答書を作っている時、とうとうブチ切れた。

「何故、こんなことを私がせにゃならんのだー!女を紹介しろだと!ピーマンが食えないだと!そんなん私が、知・る・かー!」

 マリーはどこからか出した刀で、町の貴重なご意見を両断しながら叫んでいた。刀を正眼に構えて、まるで自分の目の前に親の仇でもいるかのような殺気を放つ。


「これもあの軟弱者の所為だ、契約者だか、英雄だが知らんが、いつまでもクヨクヨしよってからに!なんで、メイドの私が、こんな仕事をせにゃならんのだ!」


 マリーの怒りは収まらずに連鎖する。


「だいたい、あいつは何なんだ?私が丹精込めて作ったご飯を毎日毎日残すとは、一体何様のつもりだ!失礼な奴め!その腐った性根を、私が叩き直してやる!」

 いきなり、限界を越え臨界までキレたマリーは、


「天誅だ、高杉直也。覚悟しろ!」

 

そう大声で叫ぶと、机の上に大量に重ねた書類を勢いよく床にぶちまけながら、離れに向かって全力で走りだした。

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