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守れなかった約束

 大戦の英雄、高杉直哉がこの世界に帰還してから一週間の時間が過ぎていた。直也はずっと案内された大社の離れの部屋に閉じ籠ったままでいた。サクヤやイズナに聞かされた事実を、まだ消化しきれず、認められず、受け入れられずに苦しんでいた。

 

 

 ここはあれから千年後の世界で、桜はもういない。

 

 桜は僕の子供を一人で産んで、一人で育てたそうだ。

 

 僕は、桜にどれほど悲しい思いをさせてしまったのだろう。

 

 僕は、桜にはどれほどの苦労をしいてしまったのだろう。 

 

 僕は、桜に、何一つしてあげることが出来なかったというのに。


 ずっと一緒にいるって、一生幸せにするって、あんなに、あんなに誓ったのに。


 僕は桜に何一つしてあげられなかった。


 慰めのつもりか、すべて千年前の出来事だと、もう終わった話だとみんなは言うけれど、


 

僕にとっては、昨日の事だ。


 魔王との決戦前夜、僕は桜と初めて夜を過ごした。不安や恐怖からではない。二人の絆を深く残し、何があっても生きて帰る、這いつくばってでも、どんなに傷を負っても必ず生きて帰る。帰って必ず添い遂げる。二人でこの狂った世界で生きる、生き残る。それは二人が、僕と桜が幸せになる覚悟をするためだった。


 僕達は約束したんだ、生き残って結婚をしようと。二人で幸せになろうねと。



それを僕は、それを僕は、


僕は僕は僕は僕は僕は、


約束を、


守って、


あげられなかった・・・


桜を一人にしてしまった。



 直也の思考は永遠とループを繰り返して先に進めずにいた。桜の喜ぶ顔、怒った顔、泣いている顔や笑った顔、桜の声や桜の温もりばかりを思い出してしまう。

 小さい時からずっと一緒にいた、すべてをかけて愛した女性。生きていた理由ともいえる女性を失ってしまった。


 喪失感は直哉の心にぽっかりと穴をあけ、後悔は直也を責め続ける。心に空いた穴、桜との約束を守って生きて添い遂げることが出来なかった後悔が、直也から生きる希望や意味すらも奪い、その生命も脅かそうとしていた。

 神の契約者としての力はまだ直也の中に残ったままだ。しかし力が宿るのは精神すなわち魂である。魂が弱り衰えると力を発揮することは出来ない。今の直也の肉体は普通の人間と変わらない。もう一週間まともな食事をとってはいない、弱った体では、いくら考えてもマイナスの思考から脱することが出来ない。直也はこの世界で、千年後の世界で、生きる意味を見出すことができすに、ずっと部屋の隅に座ったまま動くことが出来ないでいた。




 閉じこもる直也を心配して見守る者達がいる。サクヤとイズナだ。ふたりは大社に帰ってから直也が心配で傍で見守っているが、今はかける言葉も見つからないし、何を話したとしてもそれは彼の重荷にしかならず、かえって彼の心の傷を広げることになってしまいかねない。結果、心を閉ざして、拒否されてしまい、彼はいなくなってしまったらと恐れてしまい、直接声をかけることがためらわていた。でも、直也が心配でたまらない二人は少しでも傍にいたいと、直也がいる離れの部屋の玄関の左右にそれぞれ即席のテントを立てて、公務を休み24時間一時も直也から離れずに生活をしていた。

 

 直也の傍にいたいが、同時の直也に近付き過ぎて避けられるのも辛い。直也の負担にならず、かつ自分が直也を傍に感じることが出来る上、何かあった時には即応できる。二人に取って、丁度良い理想の距離が導きだした理想スタイルの形が、お一人様キャンプ生活だった。











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