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女の戦い

「忘れろ。私は泣いていない」


 イズナが号泣していたのは20分ほどであろうか、現在は取り敢えず落ち着きを取り戻し、青年の服の袖を指で掴んだまま、赤くなった目をゴシゴシと腕で擦りながら鼻をすすっている。


「これをお使いください」


マリーがイズナにハンカチを差し出すと


「ありがとう。でも、私は泣いてない」


 目を真っ赤にして借りたハンカチで涙を拭いているのに、口を尖らせ頑なに泣いていないと、言い張るイズナをとても可愛く感じしまい、サクヤは思わずギュッと抱きしめて背中をポンポンしスリスリとヨシヨシを始める。


「サクヤ、お前一体何のつもりだ?」


イズナの低く冷え切った声を聴いてハッと自分を取り戻した。


「えっとごめんなさい、あまりに可愛かったもので」


「いつ迄でくっついているつもりだ、さっさと離れろ」


「ああッ」


と、イヅナが鬱陶しそうに両手で押しやるとサクヤは残念そうで悲しそうな声をだした。



「しかし、イズナ様はどうしてこちらへ?」


 サクヤがイズナに尋ねる。


「昔の知り合いの気配を感じてな。あの雷もあったし気になってな」


「知り合い?」

サクヤはすぐに思い当たる


「そうだ。まあ、ちょっと特殊な方なんでな。あまり詳しくは言えないんだ」


「その方の職業は女神様とかではないでか?」


「お前はあの方にあったのか?」


「はい。私の執務室にいらして神託をいただきました」


「なんだって!?なんて言っていた」 


「はい、彼を支えて一緒になるようにと、おっしゃっていました」


「はぁー!なんだそりゃー!」 


 サクヤのもう少し言葉の選びようもあったのだろうが、さっきの抱きついて泣いていたイズナの姿や今も彼の服の袖を掴んで嬉しそうにしている姿をみて思わず言ってしまった。

 

彼が取られてしまうのではないかと、そう思ってしまった。


サクヤは思う。


(私は彼に恋をしたのかも)


 イズナが彼の名前を呼びながら泣いている姿を見てから、ずっとモヤモヤしている自分がいる。


イズナの額に青筋が浮かび上がる。


「あのウエイトレス女神め。私に黙って勝手しやがって」


 イズナはサクヤにではなく、フォルテューナに対して怒りが沸いているようだ。


「サクヤ、悪かったな。変なことに巻き込んでしまって。もう忘れていいぞ。全部私にまかせておけ」


(嫌、彼は私が)


「いえ、そういう訳にはいきません。私が任されましたし、私が彼にしてあげたいのです」


「ほう、お前がだと?却下だな、諦めろ」


徐々に重くなる空気を変えようと、マリーが提案する。


「お二人とも、お話は結構ですが、いつまでも倒れている人をそのままにして置くのも可愛そうなので、そろそろ大社に戻りませんか?」


無言で睨み合う二人はマリーの提案に反応する。


「そうだな、ナオヤ様の身柄は私が責任をもって預かる。なんの心配もいらない」


 青年を抱きかかえようとしたイズナの手首をサクヤが笑顔でガシッと掴む。


「待ってください、イズナ様。彼は私がお世話をして一緒に住みます。どうか私にお任せ下さい」


 にこやかな笑顔を浮かべて話すサクヤに、怪訝な表情を浮かべてイズナは言った。


「お前何を言っているのだ?頭は大丈夫か?直也様のお世話が出来るのは、この星広しといえども、過去に関係を持っている私以外に居る訳がないだろう」


「言っている意味が良く分かりません。彼を誰かとお間違えでは?彼は私の運命の人ですよ」


「誰が運命の人だ!私が直也様を間違えるなど有り得ないし、私の方が運命だ」


ぐぬぬぬぬ!とお互い顔を見合わせて争う二人、


「お二人共、彼は傷ついて怪我をしています。静かに出来ないのだったら、せめて離れてやってください」


二人は黙ってマリーの言葉にしたがって離れていく。20メールほど離れた所で立ち止まりお話を再開させる。


「今の彼には治療と休息が必要です。幸い大社のお部屋は衛生的ですし、彼を見守ってくれるメイドや治療が専門の巫女もおります。」


「この町に私以上に医療に詳しい奴はいない。治癒魔法だって私は一流だ」


「ですが、お住まいは不衛生ですよね。お掃除嫌いのイズナ様。最後に掃除したのはいつですか?」


「痛いところを・・・」


 奥歯をギリギリと嚙み、一般人であれば見ただけで殺してしまえる様な殺気をこめた視線でメンチを切るイズナと、それをものともせずにあおり続けるサクヤ。


「分かっていただけたら宜しいのです。では満場一致で私が彼と暮らすということで」


「宜しくないわ!私が一緒に暮らすわ!」


 すっかり興奮してしまい普段は決して人に見せることない姿で声を荒げているサクヤと、数々の戦場を駆け伝説となり学校の教科書に載っているほどの英雄イズナ。

 絶世の美女の二人が感情的になって罵り合う姿は壮絶の一言で、グリフォンのクルちゃんが余りの恐怖で死んだふりをする程であった。

 マリーもそろそろ本気で何とかしなければと思案し始めた時あることに気が付いた。

 

 死んだふりを続けるクルちゃんの背中に寝かせている青年が意識を取り戻して、じっと二人の様子を窺っていたのだった。



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