表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/123

討伐とは

 舞い上がる土煙が次第に薄れ、母の亡骸に未だしがみ付いて涙する、人に似た姿のオークの少女を見た直也は心に鋭い痛みを感じた。母の死を悲しむ姿はオークであろうと人間であろうと一緒で、もう少し自分が早く動いてさえいれば子供から母親を奪わずに済んだのにと自責の念に駆られていた。


 このオークの少女はこれからどうやって生きていくのだろうか、恐らくこの集落にはこの少女以外のオークはもういない。戦死したか、食べられたかのどちらかだ。運よく逃げ出すことが出来た者のいるのかもしれないが、それはごくわずかな者だけだろう。この少女をこのまま放置すればきっとこのままここで母の亡骸の隣で命を落とすことになってしまうかもしれない。


 自分がこれからしようとしていることは偽善だ。直也はそんなことを考えながら亡骸にしがみ付いて泣いている、怪我だらけでボロボロのオークの少女の傍らへと向かって歩き出した。


 オークの少女は母の亡骸にしがみ付いたまま直也の接近に気が付かない。直也は泣いているオークの少女に手をかざすと、自分の霊気を優しく流し始めた。霊気はオークの少女を包み込み傷ついた体を少しずつ少しずつ癒していく。温かな霊気に包まれたオークの少女はゆっくりと涙で濡れた顔を上げると、直也の顔をジッと見つめている。


「ごめんなさい。君のお母さんを助けることが出来なかった」


 直也はオークの少女に向かい頭を下げた。オークの少女は母の手を握りながら悲しそうにポロポロと涙を溢しながら言った。


「なんで、ボクを助けたの。・・・殺せば良かったのに」


「・・・・・・」


「君は僕達を殺しに来たんでしょ」


「・・・・・・」


「お母さんは何も悪いことをしなかった。なのに、何で殺されたの?」


「・・・・・・」


「あいつが言っていた。君が来たせいだって」


 オークの少女は声を荒げることもなく、ただ淡々と直也に問い掛ける。オークの少女の言葉が直也の胸に突き刺さる。自分は人間を守るために、オークを討伐するためにやってきた。目の前のオークの少女を殺すのが受けた依頼、だ。


「・・・」


「君は人間の冒険者? 僕達を殺しに来たの?」


「・・・うん」


「そう。なら、僕も殺してよ。どうして僕を助けたの? 僕、お母さんのとこに行きたいよ。お母さんと一緒にいたいよ! ねぇ、殺してよ」


 オークの少女の叫びは次第に力を失い尻すぼみとなり、俯き光の無い瞳で母の亡骸を見ている。オークの少女暫く母の亡骸を見た後には独り言を言うように小さな声で再び話始めた。


「僕、あいつらが人間を殺していたことも怖いことしていたのも僕もみんなも知ってた。でも、僕は何も出来なかった。逆らえば殺されるから」


「・・・・・・」


「みんな言っていた。こんな事ばかりしていればいつか、人間が殺しに来るって。復讐に来るって。みんな怖がっていた」


 オークの少女は直也のことをじっと見つめながら、覚悟を決めた者が言う様な落ち着いた静かな声で直也にお願いとした。


「お願いです。僕を殺してください。オーク族の僕を殺してください」


 そう言って頬笑むオークの少女を目の前にして、直也は言葉を失った。オークの少女は本当に無防備に体を晒して殺されるのを待っている。もう生きる事を諦めているようだ。


「ごめん。僕は君を殺せない。僕は、君に生きてもらいたい」


 直也の言葉を聞いたオークの少女は大きく目を見開き直也に向かって大声で叫んだ。


「どうして、何で殺してくれないの。僕は君の敵で、人間を殺した奴の仲間なんだよ。殺してよ。 ・・・どうせ僕は一人きりなんだ。どの道僕はもう生きていけないんだよ」


 直也は泣き叫ぶオークの少女を胸に抱きしめて耳元で言った。


「僕を憎んでも良い。恨んでも良い。だから、生きてくれないかな? 僕と一緒に生きてくれないかな?」


「僕辛いよ」


「うん、わかっている。 ・・・それでも、僕は君に生きて欲しいんだ」


「・・・」


 優しい心を持ち人に似た姿をしたオークの少女は、肩を震わせながら直也の胸に抱かれながら、ただ泣いていた。




 もう大きな爆発や戦闘音が聞こえることもなく集落は静けさを取り戻していた。レーヴァもマリーはあらかたの敵を討伐したようで荒ぶっていた気配はなりを潜めていた。

 

 直也の前から逃げ出した超兄貴オークキングは、一番始めに感じた桁違いの力を持ったレーヴァがいる反対の方に無意識に逃走進路を取っていた。敵に背を向けた上に、逃げながらも戦々恐々としている自分に超兄貴オークキングは怒りを溜めていた。


「あいつは許さない。絶対に俺が殺す。俺があんな人間ごときに負ける訳はない」


 兄貴ハイ・オークから超兄貴オークキングへと仲間の魂を代償にして進化したはずの自分が、ただの人間の男に恐れをなして逃げ出してしまったという羞恥と、「悪食」のスキルをもつ自分こそ最強だと思っていた自負やプライドがあっさりと粉々に砕かれてしまった超兄貴オークキングは直也に強い憎悪と嫉妬を抱いているようだ。


「許せない。人間が俺より強いなんて絶対に許せない!! 絶対に俺が喰ってやる!」  


 直也に対する罵詈雑言をヒソヒソと言いながら逃走を続けている超兄貴オークキングは倉庫として使っていた建物の中に人間らしき気配が複数あることに気が付いた。


「あいつの仲間か? この匂いは女だ。クックック、丁度良い。そこそこの力を持っているようだし全員が壊れるまでヤッて、生きたまま食って、魂を喰らって俺の力にして、あの男に復讐してやる」


 食って首だけにした女達をあの男の前で潰してやったら、あの男はどんな顔して泣き叫ぶだろう、超兄貴オークキングはそんなことを考えながら、サクヤ達がいる倉庫へと近づいて行った。



 倉庫の中で調査に飽きた元大罪の魔王アスモデウスが、手招きして待ち構えていることを知らずに。

  









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ