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混乱

「あいつ死んだよな」

「静かにしろ、こっちの方を向いたらどうする気だ」


 天井に刺さった直也を見て素直な感想を述べるギルド職員に対して、マリーの注意を惹くような真似はよせと、同様の職員が俯いて、決してマリーの方を見ないようにしながら注意をしていた。

 しかし、静か、というよりこの場にいる全員が沈黙を守り、無音に近い今の冒険者ギルドの中ではとても良く聞こえた。目の前で起こった凄惨な殺人事件。本来ならば犯人のマリーを逮捕しなければならないのだが、誰一人として動こうとするものはいない。

 何度も死地を経験に、荒事には慣れているギルドマスターのバッカスですら開いた口が塞がらないという例えを体現し、目に写る光景が何かの間違いではないのかと思わせるように、マリーと刺さっている直也を何度も何度も見直していた。


「ん? 何か問題でもあるか」


「いえ、何の問題もありません」

「勝手に話をして申し訳ありません」


 マリーは鋭い視線で話をしている二人を睨みつけると、ギルド職員の二人は竦みあがってしまい脂汗を滝のように流しながら真っ青な顔色をして震えだした。


(あんな風に殴られたら、自分達では確実に死ぬ。頭がトマトのように弾ける)


 自分の頭がトマトになるという恐怖とマリーのキツイ視線に耐えられなくなった職員達はあっさりと白目を向いて意識を手放した。


「マリー、問題なら大ありです! 何で直也さんを殴ったのですか! 見なさいあの姿を! 完全に気絶しているじゃない」


 サクヤは天井に刺さったままの直也を指さしながら、気絶した職員を興味なさげに見ていたマリーに問い詰めた。


「まさに会心の一撃でした。胸がスッとしました」

「そんなことは聞いていません。あれはやり過ぎです。もう」


 サクヤはマリーに文句を言いながら直也を下ろすために風の精霊の力を借りた飛行魔法の詠唱を始めた。


「風の精霊よ、契約に基づき我に力を借し与え給え。風を纏いて自在に操り、大空を舞い飛ぶ力を、飛翔フライング


 サクヤの体は風を纏って天井に刺さる直也のもとへ登っていく。風の精霊の力を借りて周囲の風を集めて気流を作り出す飛翔魔法なので、当然サクヤの足元からはサクヤの体を宙に浮かせるために必要な激しい風が起きる。


「書類が、大切な書類が・・・!」

「依頼の達成報告書が飛んでいく、何処に行った、あれが無いと金が! 飯が食えない!」

「お願いします。止めて下さい! 屋内での、しかも事務所ないでの飛行魔法の使用は止めて下さい」


 ギルドの事務所内で飛行魔法を使った結果、ゴミや埃、そして職員達の机に合った書類や冒険者達が持ち込んだ依頼に関する重要な書類などは暴風に煽られ吹っ飛び回り、破壊された玄関や暴風で開け放たれた窓から次々に外に飛んでいく。


「走れー、探せー、絶対になくするな! 死ぬ気で書類を集めろー!」


 誰かがそう言うと、大事な書類を失ったと思われる数人の職員と冒険者達が外に走って出て行った。室内では未だサクヤの飛行魔法が継続して展開しており風の勢いは止むことはない。周りの状況が見えていない訳ではないのだが、直也最優先で後は二の次ということで魔法を止める気は無いようであった。


 舞い散る重要書類、必死に回収を試みるギルド職員。しかし魔法は今なお継続しているため、その試みもうまくいかない。ギルド職員が必死で暴風に飛ばされる書類を追いかける阿鼻叫喚の現場を見ながらギルドマスターのバッカスは呟いた。


「何て奴らだ。奴らは本当にアマテラスのメンバーなのか? テロリストか何かじゃないのか?」


 風が一層力を増した。見るとサクヤが直也の頭を天井から引っこ抜いたようだ。直也の体重を支えるためにサクヤが魔法の出力を上げた様だった。


「棚が倒れる、早く抑えろ!」

「椅子が、机が飛ばされていく」

「ヤバい、もう駄目だ支え切れない。死んだ、俺はもうここで書棚に挟まれて死ぬんだ!」

「もう止めてー。風を止めてスカートがめくれちゃう。私の絶対領域が崩れて見えっちゃうー」

 

 勢いと激しさを増した風に翻弄される職員達。必死に色々頑張って風に抵抗をしていたが、数名の職員と冒険者達は、ギルド自慢の看板受付嬢エリーナさん(22歳・未婚)が、吹き上がる風に翻弄され乱れに乱れたスカートの絶対領域の奥底から姿を表した、下半身の黒色の追加装甲を目視していまい、反射的に股間を抑えては、書棚や舞い飛ぶ備品の餌食をなりその身を床に沈めていった。


「誰かあいつらを何とかしてくれ」


 みんなの心を代弁したギルドマスターバッカスの切実な願い。



そして奇跡が起きた。


サクヤの魔力に反応した者がいたのだ。


「この魔力はサクヤのだな。直也さまをみつけたか!」



 運命の神はバッカスの願いを聞き届け、何とか出来るだけの力しか持たない者を、彼の元へ送り込んだのだった。

(力は有るけど、役に立つ保証はないと言う意味)


















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