17話 所詮ただの獣じゃ
「抜かれた!?」
斧を構えた鬼隊が、前衛の右手側に位置する槍道士・剣道士の横陣を薙ぎ倒す。
「斧を使うのか!何て強さだ…」
データは鬼の力をありありと見せつけられる。
鬼の武器は基本的には槍・斧・矛・弓の4種類。
古代人の戦術レベルに強固な体とパワーを併せ持つ。並の人間ならばひとたまりも無い破壊力だ。
鬼は前衛の求道者をどんどん斬り倒していく。
後衛の聖道士を出すべきだ…先生!ヒールの指示を…
「…まぁそう慌てるな。データ」
データの心を見透かすようにハッセルは答える。
「簡単に抜かれ過ぎているからな」
…簡単だから、尚更ヤバいんじゃないか!?鬼がそのまま中衛に入ってしまうぞ?
「先生!」
何も動かないハッセル。
前衛を抜けた勢いそのまま中衛に雪崩込む鬼達。
そこには短剣を持っただけの罠道士が対峙するしかない。
「おい。何ボサッとしてるんだ?危ねぇっつーの!」
「…!?」
山で見ているエリオットとクライブの方が慌ただしくなる。
「まさかあれで数十匹の鬼と対峙するのか!?」
斧隊の鬼が振りかぶる。
求道者は動かない。
と、突然鬼達がその場で倒れ込み、地面に潰される。
「…えっ?」
鬼が何か危険を察知した?いや、動けないだけだ。
「ガ…グガガ…ガ…」
地面に倒れた鬼は指先ひとつ動かす事ができなかった。
右側に位置する罠道士が笑った。
前衛と中衛の間には罠陣“グラビティ”が無数に敷かれていたのだ。
「詠唱!」
目の前の魔道士が詠唱を唱えると、炎が鬼に灼熱を与える。
「ガァァァァ!!」
そして薙ぎ払われたと思われていた前衛剣道士が鬼の集団を上から突き刺した。
前衛の剣道士に挟まれた“籠の中の鬼”は没落した。
データはやっと戦術を理解する。
そうか。中衛には罠道士の他に弓道士・魔道士。遠距離攻撃に長けた人選は罠を張っていた為か!
「おいおい、どこに罠を仕込んでいるんだよ!危ねぇっつーの!」
「………」
「分かっているよ!勿論訓練された宮廷求道者は踏まないっつーの!」
クライブはエリオットを冷めた目で見ていた。
「罠道士…いつの間に魔法陣を?」
「それだけじゃないぞ」
ハッセルの言葉にデータは罠道士に注目する。
前衛の右側を避けて中央に狙いを定める斧隊が居る。
弓道士の矢をものともせずに突進してくる。
だが、突然倒れる何匹かの鬼。
勢いを失った斧隊が槍道士と剣道士にとどめを刺される。
「あそこにも?」
前衛の前方にも、無数の罠が存在していた。
「罠士のグラビティの魔法陣…こんなに強力だったのか」
データは罠道士の力を見て驚いている。
「はっはっはっ。あやつらは土いじりが大好きじゃからな…。ま、ただのチートじゃよ」
「…恐ろしいですね、罠道士」
「いくら体が強く道具を使おうと、所詮ただの獣じゃ」
山鬼の斧隊はほぼ壊滅状態になっていた。
鬼の軍の動きが止まった。
再び銅鑼の鐘が鳴り響く。
鬼の軍は隊列を組み直している。
「左側に軍を寄せるのか?」
そうではなかった。
鬼は縦長の陣形を取り、求道者達に向かい一斉に走り出した。
「なっ。鋒矢の陣?罠があるんだぞ?」
鬼達はまるで全体が1つの矢の様にな李、無謀な特攻を仕掛ける。
「何だあの鬼の陣形!?先頭潰されんぞ!?」
「弓矢じゃ!」
弓道者の矢が先頭の鬼に集中する。
「当然だっつーの!」
だが、勢いが落ちた鬼を後ろの鬼達が踏み潰しながら進む。
「はぁ!?」
地面を踏んだ瞬間に倒れる数匹の鬼。
だが、それを待っていたかのように後ろの鬼は飛び越えていく。
「…味方で罠を潰すのか」
「…ちっ。獣が」
中央の前衛に一点集中となった鬼が突っ込む。
「今度こそ行かれた!!」
…が、しかし中衛までは届かない。
前衛の後方に位置する中央の男が鬼の一点突破を防いだ。
それも“素手”で。
両手で2匹の鬼の槍を止める女求道者。
槍を手で押さえている様に見えるが、先端は手に接触していない。
「触るんじゃないっつーの!!!」
空気を掴んだ手で鬼を“押し出した”。
鬼は空気の勢いで後ろに吹き飛ばされる。
「誰も私に触らせないよ」
武道士・カルファー Bランクモンク
隣の求道者がカルファーに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「あぁ。汚ねぇ鬼に触られたくないから、さっさとどかすよ!」
まるで球を握っている様に構えた手を鬼にぶつける。
空気の圧力に押された鬼の首が弾け飛ぶ。
「止めました。あそこにいるのは…」
「あの潔癖娘か」
ニヤリと笑うハッセル。