15話 ガッドランドの宮廷求道者
「…着いた。ガッドランドだ」
日が明けて随分経った頃、ガッドランドに戻ったジンとテトラとゾフィー。
フラフラになりながら城壁の門をくぐる。
「どうやら昨日のいざこざのおかげで鬼がすぐに来ないみたいだな。とりあえず、鬼の襲撃をどう伝えるか…」
城下町はすでにお店も開いている。
ガッドランドの宮廷『ホスカ城』に向かい歩く3人。
「凄い!こんなに沢山の人や物が溢れた活気がある街だったなんて」
あたりを見回しながら興奮しているゾフィーにジンは語る。
「そうか。ゾフィーは村出身だから、ガッドランドには来た事が無かったのか」
「そうなんです!わわっ!食材が沢山!」
「…活気が凄いというより、今日はバタバタしているな」
食材や武器・防具が並ぶ店の店主達が慌ただしくお店を畳んでいた。
「急げ!鬼が来るぞ!」
「早く店を畳め!」
「ん?なんだ?」
「どうやら鬼の襲撃は伝わっている様子だな」
テトラがそう言いながら真っ直ぐと歩いた。
「そうか。それなら話は早い。でも、それならテトラはどこへ向かって歩いてるんだ?城じゃないのか?」
歩みをどんどん早めるテトラ。
「決まっているだろう。飯屋だ!」
「あっ、そうだったの?…まぁ開いているお店もあるか。とりあえず、飯を食おう…」
「やった!楽しみです!」
3人はガッドランド中腹にある酒場『ジョンソン』に到着する。
テーブルの上にはソーセージや小麦粉を練って焼いたパンや、麺状にした料理や野菜が並ぶ。
「よし!食うぞ!」
「はい!」
がっつくテトラとゾフィー。
「慌てて食べるな二人共。ここは貴重な加工肉を出すお店だ。中でもソーセージはガッドランド1の旨さだ。これにマスタードをつければ絶品の肉が更に…」
と解説をするジンだが、目の前のソーセージはもう無くなっている。
「俺の分は残せよ!」
「嫌だよ!」
「嫌なの!?嫌ってなんだよ!」
「腹が減ったんだから仕方ないだろう」
「私も、この体になってかから沢山食べないと疲れちゃって…ごめんなさいね」
と言っている間に皿の上にはもう無くなっている。
「…ふぅ。さてと、食ったな?」
「お前らだけな!まだ俺は食っていないんだよ」
「何をしていたんだ?」
「逆に何もしていない」
「ふぅ。美味しかったです。ジンさんももっと食べたら良かったのに」
「今更言うのはずるいよ」
「あっ、ソーセージが1本だけ残っていましたよ。食べて下さい」
「あぁ、ありがとう」
とにかく、鬼が来る。俺たちは何をするべきか。
「ゾフィーはどうする?」
「勿論、戦いに参加します!私は妹を助けなければいけませんもの」
ゾフィーの妹、ローズを思い出す。
あの状態の妹を見て、まだ助けると語るゾフィーは本当に芯が強い。
「テトラはどうする?」
「私は…鬼と人間の協定を壊さなきゃいけない。その為に戦う」
テトラの意思は硬いだろう。
「じゃあ、鬼との戦いに参戦か」
「勿論だ」
俺はテトラの為に戦う。それ以外の理由は今の所無い。
俺はソーセージを口元に運びながら思った。
と、突然ジョンソンに剣を持った数人の宮廷軍が入って来て、真っ直ぐ俺たちのテーブルに向かった。
軍人はテーブルに剣を振り下ろす。
ガシャーン!!
俺のソーセージが地面に落ちた。
「なっ!」
「…テトラ・クローバーだな?」
「…誰だお前達?」
「…拘束だ」
「…えっ?」
嘘だろ?鬼との決戦は?ソーセージは?
―――ーーーー
「さぁ、行こう」
マーク・ハッセルは自分の背丈よりも大きな剣を背負い、3万人の求道者を引き連れてガッドランドの門を出る。
その中にはデータとジルも参加している。
「…凄い。先生の緊張感が隊員にもビリビリと伝わってくる」
この戦いは、鬼をガッドランドに入らせない為の“防衛戦”。
宮廷『ホスカ城』とその城下町であるガッドランドの周りには大きな防御壁があり、普通ならば簡単に抜ける事は出来ないが、あくまでそれは対人間同士の戦闘の場合である。
鬼は岩を砕く。
対鬼用の硬い城壁を作るにはまだ人間の技術が足りないと言わざるを得ない。
そこでガッドランドの参謀であるサンダースは、戦いの場にグラッドバックを選んだ。
ガトラス地方の森林を抜けた先の草原であり、ルッド教会へ行く洞窟への導線となっている地域だ。
グラッドバックは魔獣の血や骨、皮などをすりつぶした粉末を撒いた場所であり、他の場所よりも“魔”が宿ると言われている。
自然の恵みを利用する魔道士はここでの戦闘に長けていた。
それは芸を持つ前衛隊も同じだった。
「陣を敷け」
ハッセルの隊は戦闘体制に入る。
砂嵐が吹く中、前衛の“槍道士”“剣道士”の武道求道者達が前に出る。
その中衛には“弓道士”“罠士”“魔道士”。
後衛には“聖道士”“召喚士”とハッセル本陣が構える。
砂嵐が消えかけた頃、先には波のような軍勢が向かってくる。
「来たぞ!山鬼だ!」
隊員が叫ぶ。
「さぁ、やろうか」
ハッセルは剣を構えた。