13話 戦争・夜明け前
鬼の奇襲を人知れず止めていた頃、ガッドランドでは、王宮の渡り廊下にあるテーブルに神妙な顔付きで座るデータとジル。
その正面で紅茶を飲みながら2人の話を聞くジェフリー・サンダース。
「山鬼の隊列ですか…」
「えぇ。恐らく、ガッドランドに攻め入るつもりでしょう」
「やはりそうですか…」
「サンダース先生は予想されていたのですか?」
「人間と鬼の協定は、ここ数年ずっと緊張状態でした。まるで膨らんだ風船の様に、一本の針を刺すだけで決壊する寸前です」
「はい。だから宮廷では決戦に向けた準備を重ねてきたんですよね」
「しかし鬼が攻めてくる。先を越された形になりますね。急ぎましょう。もう宮廷求道者の隊は組んであります。データとジルも加わりなさい」
「はい!」
「データ、他に、異変は無かったですか?」
データは亀裂の入り口にあった出来事を思い出す。
「…ルッド教会へ行く岩の亀裂の入り口に鬼の残骸が1匹ありました」
「鬼の?」
「恐らく、グリーンマンを焼いた求道者の仕業でしょう」
「なるほど…わかりました」
サンダースは何かを考える仕草をしながら、紅茶を持ってテーブルを立ち去った。
思考を巡らせるデータ。
本当に報告して良かったのか?いや、サンダース先生には全ての情報を伝えるべきだ。
「データ、どうしたの?」
「…いや何でもない」
「よし、それじゃあすぐに隊列に加わろう!いつ山鬼が攻めてくるかわからないよ!」
「そうだな。行こう!ジル!」
走り出すデータとジル。
「…ジン。鬼との戦争が始まるぞ…」
―――
ジンを背中で抱えて洞窟を歩くゾフィー。その前で松明を持って歩くクラウゼとテトラ。
「お嬢ちゃん達は、なぜタンタウン広場に来た?」
クラウゼはテトラに質問をする。
「1つは、ゾフィーの妹を救出する為。もう1つは鬼の状況を知る為」
「知っていたのか?鬼が協定を破りガッドランドを襲撃する事を」
「そうね」
テトラは表情を変えずに言った。
「人間と鬼、どれぐらい力の開きがあると思う?」
突然のテトラの質問に、クラウゼは顎に手を当て思考を巡らせた。
「そうだな…人間がアリとするならば、鬼は強固なダンゴムシって所か。普通に戦争したらまず勝ち目はねぇ」
「そうなると、人と魔獣ではアリとカブトムシぐらい開きがあるって事ね」
「あぁ。1対1じゃ相手にならねぇよ」
「…その為に、求道者がいる。クラウゼ。あんたは見た所粗暴な人間ではなさそうだけど、どうして追放者になったの?」
「…粗暴ね…元々、俺だって宮廷求道者だったぜ」
「そう。ならどうして?」
岩の亀裂に到着する。クラウゼはテトラに松明を持たせ、先に登る。
「…まっ、意見の相違って奴だ。1つ大事な事を教えておいてやる」
「大事な事?」
クラウゼは亀裂の入り口に立ち、テトラに手を差し伸べる。
テトラとジンを片手で担いでいたゾフィーは亀裂の入り口に戻る事ができた。
「求道者になる為には、求道者の祠に入り洗礼を受ける必要があるだろう」
「そうね。神様が道を示してくれる」
「あの祠には“不正”がある」
「…なっ…どういう事?」
「細かい話をしている時間が無さそうだな。それじゃあ俺は戻るぜ。もしもまた会えたら一緒に戦おうや」
「…わかった」
「その、とんでもねぇエネルギーを扱う兄ちゃんにも宜しく言っておいてくれ」
クラウゼは森の中を走り出した。
「ジン、聞いていたか?」
ジンは俯いたまま言葉を発しなかった。
「…ジン?大丈夫か?ジン?」
「…く…首が…」
ゾフィーがジンを担ぐ為に回した手が首を思いっきり締めていた。
「あらごめんなさい!力の加減がわからなくて…」
「…ジン?死んだ?」