表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/36

12話 ジン・バーネットと燃焼の魔法

「本当に大丈夫なのか?」


草むらの影からジンを見守るテトラ、ゾフィー、クラウゼの3人。


「テトラさん。いくらなんでもジンさん一人では心配です」


「…あいつは大丈夫」


「…ったく。とんでもねぇ奴等と一緒に行動しちまったかもしれねぇ」


クラウゼは身構える。


―――


1時間前。


「…俺が一人で?」


「そうだ。ジンなら百数匹の山鬼も余裕だろ」


クラウゼとゾフィーが立ち上がりテトラに異を唱える。


「ちょっと待て。何を考えているか知らねぇが無謀にも程がある!」


「そうよ。ジンさん一人で山鬼を倒せる訳ないじゃない!…あっごめんなさい」


ゾフィーは言い過ぎたのかジンに頭を下げる。


「いやいいよ、本当にそうだし…」


「とにかく、洞窟まで逃げられたらいい訳だ。隙を作る方法を考えようぜ」


「心配ない。黙って見ていろ」


「おい…」


本当にテトラは俺一人に何とかさせようと思っているのか?でも、みんなが逃げるには、方法は…。


「ジン。お前は強い。」


「えっ?」


「お前なら出来る。絶対大丈夫だ」


まただ。こいつのこの言葉…。


―――


ジンの目の前には槍を構えた十数匹の山鬼がジリジリと間合いを詰め寄っている。


テトラの計画では、俺が火柱を放ち、混乱した山鬼を尻目にテトラ、ゾフィー、クラウゼが洞窟内へ逃げる。


洞窟からテトラが細く伸ばした剣を俺が掴み、そのまま脱出。


…なんっつー雑な作戦だよ!


俺が火柱を使える事が前提か?


グリーンマンの襲撃の時と同じような火力が出せるかわからねぇだろ!

っていうかあれはまぐれで…。


クラウゼは集中して見張るテトラに声を掛ける。


「暴れん坊お嬢ちゃん、あいつとは昔からの仲間か?」


「いや。昨日会ったばかりだ」


「…えげつねぇ事を考えるな」


ゾフィーが反応する。


「えっ?どういう事ですか?」


「作戦は止めだ。俺が囮になる」


「待て!まだ動くな!」


立ち上がるクラウゼをテトラが静止する。


「囮?どういう事ですの?」


「どうもこうも、お嬢ちゃんはあいつを焚き付けて敵前(てきぜん)に出したんだ。俺たちはあいつを囮にして逃げるって事だよ」


「そんな…テトラさん、止めましょうよ」


テトラは微動だにしない。


「…ジンは、私でも実力の底が分かっていない」


「どういう事だ?」


「ジンは過去のトラウマから自分の力を上手く出す事が出来ずにいる。だが本来の力が出れば、ジンはきっと負けない」


ジンはバッグから燃焼の魔法陣布を取り出す。


「俺が、みんなを守れるのか?」


燃焼の魔法陣布を腕に巻き付る。


「ゴフ!ゴゥ!」


槍を持った数匹の山鬼達がジンに向かって一気に襲いかかる。


ジンは右手を思いっきり突き出しながら詠唱を唱える。


「ファイアトラップ!!」


…が、右手が空気を殴っただけだった。


何も変化は起きない。


「ぐぅ!」


山鬼の槍がジンの右肩を引き裂いた。


「痛ぇ…」


咄嗟に体を引いたが、右手の肩が切れた。


「おいジン!」


「ジンさん!」


立ち上がるクラウゼとゾフィーをテトラが静止する。


「待て!」


「いい加減にしろ嬢ちゃん!」


「待て!」


テトラは右手で剣を握りしめる。


「あっつ!!」


ジンは右手に巻いた魔法陣布を落とした。

魔法陣布はくすぶった燃焼をしている。


「そうだった。燃焼のタイミングがズレてたんだ」


1匹の山鬼が槍を突く。


「ぐっ!」


もう一度避けるが、再度右手の肩が切られ、ジンは倒れ込む。


もうダメだ…作戦は失敗だ!みんな…


ジンはテトラ達を見る。


だが、テトラは微動だにせず、ジンをじっと見つめている。


「限界だ!」


クラウゼは槍を構えた。


「立ち上がれ!ジン!」


テトラが叫ぶ。

さっき『あいつは大丈夫』って言っていたっけ?


無茶苦茶だよ。俺にそんな…


…でも、誰かが俺を信じてくれるなら…俺の力を、信じてくれるなら…。


ジンは落ちた燃焼魔法陣布を拾う。


「ジン、やっつけろ!!」


槍を構えた山鬼が声に反応し、テトラの方を見ている。


やめろ。あっちに行くんじゃねぇ!


「ファイアトラップ!!」


魔法陣布が再び燃焼される。


「おあああ!!!」


右手を突き出したジンの手から炎が燃え上がる。


炎は山鬼の集団目掛けて火力を増し、数メートルの巨大な火柱となり周りを包み込む。


ボアアアアアアアアア!!


夜のタンタウン公園が炎に照らされる。


「グゴガァァァ!!」


大炎の中で苦しそうに暴れる鬼達。


「キャー!!」


圧倒的な熱と光量にゾフィーは顔を背けた。


「な…なんだこの魔力は…」


これだけの熱さにも関わらず、クラウゼは冷や汗をかいた。


さらにその炎は後ろにいる山鬼の集団にも喰らい付き、辺りを焼き尽くした。


「ゴフ!ゴゥ!ゴフ!ゴゥ!」


動揺する鬼達。


「よし。行くぞ!」


テトラはゾフィーとクラウゼに声をかけ、洞窟へ走った。


山鬼は3人を見つけただろうが、大炎を前にそれどころでは無かった。


「ジン!」


洞窟に着いたテトラはジンに剣を向けた。


剣は円柱に細長く、紐のように伸びてジンの前に来た。


「テトラ!」


ジンは咄嗟に紐の様な剣を掴んだ。


剣はそのまま形状が戻り、ジンは洞窟まで引っ張られた。


「ジンさん!大丈夫ですか?」


ぐったりして倒れ込むジン。


…あの力は、テトラのおかげだ。俺を信頼してくれたから、頑張ろうと思えた。


「さ、すぐに逃げるぞ!」


薄れゆく意識の中で、テトラの事を考えていた。


テトラ…もしもお前が一人になっても、俺だけは絶対に信じてやる。


「ジンさん!早く逃げましょう!」


ゾフィーがジンをおぶり、4人は洞窟から抜け出した。


タンタウン公園の奥にある、鬼の城・チェイテ城。


そこには、玉座に座る3メートルはあろうかというエルジェーベトが座って紅茶を飲んでいる。


そこへ1匹の“人間”が駆けつける。


「奇襲をかける為に鬼を集めていたタンタウン広場のルッド教会で炎が立ちました。何か異変が起きた様子です」


「あぁ?」


エルジェーベトは玉座を蹴り飛ばした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ