11話 追放者と芸のからくり
テトラは目を光らせクラウゼを見る。
「是非とも手合わせ願いたいな」
ダメだこいつ。何で初対面の助けてくれた人に決闘を申し込んでいるんだ。
「ったく。お嬢ちゃん、変な奴だな。まぁ説明してもいいぜ。俺の芸はこれだ」
クラウゼは左手の親指と人差し指を使い輪っかを作った。
「この輪っかの部分を密封させ空気の気圧を変える。空気変化の一種だな」
「気圧を?」
「こうして指を離すと…」
ボンッと乾いた音が響く。
「一気に放たれた空気が爆発する。この力で槍を飛ばすんだ」
「はぁ〜」
想像する事はできるが、実現までは多大な努力が必要だろう。
「という事は、槍道の求道者ですか?」
「槍道?あぁ、俺は求道者じゃねぇよ」
「えっ?でもそれだけの芸が使えるって事は、Cランクは…」
「俺は追放者だ」
「バンカー…」
聞いた事がある。宮廷に属さず、免許を持たない上級求道者集団。
求道者の主な仕事は2つ。
1つ目は、宮廷で王都を守る事。
2つ目は、魔獣を狩って国へ資源を持ち帰る事。
学校を卒業した求道者は選抜され宮廷に入る者が決まる。
ここに属する人達を宮廷求道者と呼ぶ。
それ以外の求道者はソロ・またはパーティを組み、魔獣を狩って国へ収める事で収入を得る。
ここに属するのが、フリー求道者。
だが、それとは別に免許を持たず、ランク試験や宮廷からの招集にも参加せずに違法に魔物を狩るだけじゃなく、宮廷を狙うと言われるレジスタンス集団がいる。
それが追放者だ。
「…」
何も言葉が無かった。助けてくれた恩人が、違法犯罪者集団?
「まぁ、宮廷求道者を目指すならあんまり関わらない方がいいタイプの人間だよ。だから手合わせはまた今度な。おっ、肉貰っていいか?」
「え、ええ…」
「ところで、お前達は求道者だろ?俺のネタバラシはしたんだ。どんな芸を持っている?」
テトラとジンは顔を見合わせる。
「私は、剣道の求道者、ランクはEだ」
テトラを折れた剣を取り出し、細長く伸ばす。
「鋼の部分を軟化させ形状を変える」
「ほう。形状変化の芸か。こりゃレアだな」
「そうなのか?」
「あぁ。魔力と技術を組み合わせた技を芸と呼ぶが、ほとんどは自己変化や、自然の力を借りたりするものだ。お嬢ちゃんみたいな物質を変化させる事が出来るのはそういない。まっ、芸の先もあるけどな」
「芸の先?それってどういう…」
「そんで、兄ちゃんは?」
「あっ、僕は、罠士です…Fランク。芸は無いです」
「そうか。罠士が1人いればパーティが全滅する事は無いって言うしな」
この人は本当に良い事を言ってくれる。そうなんだ。俺が止めなかったらテトラは今頃どうなっていたか。
「それで、あっちのマッチョお嬢ちゃんは?」
「あぁ、えっと…」
ゾフィーが立ち上がった。
「ゾフィー、気分は落ち着いたか?」
「ええ。もう大丈夫です」
クラウゼの前に立つゾフィー。
「ゾフィーです。ヒーラーをしています。先程は助けて頂いてありがとうございます」
「鱗粉を吸ったろ?もう大丈夫か?」
「ええ。私が絶望する訳にはいかないので…」
ゾフィーの気持ちを考えれば、9年間思い続けていた妹を救出できないどころか“鬼側”の人間になっちまったんだ。絶望して当然だ。
それなのに、もう立ち直っている。強いな、ゾフィーは。
「そうか。それじゃあ自己紹介が済んだ所で、洞窟へ戻る算段をつけなきゃな」
「そうですね…。その前に、クラウゼさんはなぜタンタウン広場に?」
「それは…偵察って所だ。まっ、追放者の行動なんて気にすんな」
「…鬼がガッドランドを襲撃する日を調べているんだろ?」
テトラはクラウゼに向かって言った。
「なっ…ガッドランドの襲撃?」
鬼の襲撃?どういう事だ?クラウゼさんは知っていたのか?
「…宮廷も知り得ない情報だぞ、お嬢ちゃん」
「ある筋から、な」
どういう事だ?鬼との協定が破棄されたのか?
「ああ、おそらく明日、グリーンマンが戻る前だろう」
「そんな…」
ゾフィーも驚きを隠せなかった。
「明日!?大変だ!それじゃあ早く街のみんなに伝えないと!」
「あぁ、俺も偵察から戻らないといけない。だからすぐに洞窟を抜けたいんだが、洞窟前には百数体の鬼がいる。おそらく先導だろう。本体が来る前に抜けるしかない。ったく。厄介だぜ」
クラウゼは三人を見る。俺たちの力量を測っているんだろう。
「大丈夫だ。我々の心配はしなくて良い」
テトラはクラウゼに言った。
おい。やっぱりこいつ突撃する気だ…。
「うちにはジンがいる。こいつがいれば鬼には負けない」
だから…えっ?俺?
「ほぅ…」
クラウゼが笑みを浮かべる。
お、俺が…?罠士Fランクの俺が?
何を言ってるんだこいつは…。
―――
夜。
「ゴフ!ゴゥ!」
洞窟前にいる数百匹の山鬼達が槍を構え待機している。
そこへジン・バーネットはたった一人で現れた。
「ゴヴゥ?」
気がついた数匹の山鬼が槍を構える。
「…やるしかない…」
ジンは右手を握りしめた。