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止まない雨  作者: 結羽
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4 いまだ過去に囚われたまま

「彼らは俺の客人だ!丁重に迎えてくれ!」


悠牙がそう言うと里の人たちが代わる代わる声を掛けてきた。


「そうかい。いらっしゃい」


「よく来たね。」


 今まで敵対してたとは思えない親しさのある態度に2人は目を見交わした。


「どうだ? 乱暴者に思われてたけど、俺たちだってお前らと何も変わらないんだ」


そう言って悠牙と笑った。

人狼族の人たちの対応は里の人たちのそれと変わりない。

温かい空気が流れている。


「人狼族の村ってもっと殺伐としてると思ってた」


「あぁ」


弥生と暁斗にとっては意外すぎる光景だ。


「ほら、こっち来いよ。案内するぜ」


 悠牙に村を案内してもらった後は歓迎の宴が開かれた。

山の幸をふんだんに使ったごちそうが用意された。


「俺は族長になって人狼族を変えたいんだ」


 酒も入って饒舌な悠牙が語りだす。

悠牙は二人よりも年上で20歳。

若くして族長になっただけあり、その語りには人を惹きつけるものがある。


「争いは悲しみしか生まない。だから、俺が族長になってからは人を襲うことを禁じたんだ。」


 ここ最近、人狼族は鳴りを潜めていた。

悠牙が禁じていたかららしい。


「それでだ!もっとお互いをわかりあえばもっと友好な関係を作れるはずだ。だからお前らと仲良くしたいんだ」


 屈託なく笑っている悠牙だが、弥生には綺麗事にしか思えなかった。

過去は消えない。

失った人は戻ってこないのだ。


「だけど、人狼族に傷つけられた人はたくさんいるわ。なかったことにはできない」


「もちろん。俺達人狼族はたくさんの人を傷つけてきた、それは事実だし忘れちゃいけない。ちゃんと償うつもりだ。だけど、だからといっていがみ合ってちゃいつまでも憎しみの連鎖は終わらない」


「だから許せって?だったら命を失った人を返してよ!」


 弥生は冷たく言った。

悠牙の言うことは正論かもしれない。

だけど、納得はできなかった。

周りで騒いでいた里の人たちも事態を察して黙る。

嫌な空気が流れていた。


「……人狼族にだって退治屋にやられた奴はいる。俺たちだって傷つけられたんだ」


 悠牙が静かに言う。

射抜くような眼で弥生を見つめる。

そこには怒りの色が見える。


「弥生。もうやめろ。落ち着けって」


 不穏な空気を感じて止めに入った暁斗の声で我にかえる。

そうだ。

今、人狼族の里の中でたった二人しかいない。

この状況で揉めたらただではすまない。


「いやー!俺も悪かったよ。言い過ぎた」


 場にそぐわない明るい声で悠牙が突然言った。

先程の表情が嘘のような笑顔だった。

弥生もつい呆気に取られた。


「こうやってちゃんと話せるだけで十分だ。嫌な思いさせて悪かったな。まぁ食え食え」


 そう言いながら自分が先にごちそうに手を伸ばす。

ホッとしたように里の人たちも騒ぎ出し、嫌な空気が払拭された。

隣で暁斗もため息をついている。

賑やかな宴が続く。

弥生だけはその様子を遠目に見ていた――。


 それから、悠牙は弥生たちの里にも訪れるようになった。

弥生たちの里の人たちも始めは人狼族の悠牙を警戒していた。

しかし、悠牙の持ち前の人当たりの良さに少しずつ打ち解けるようになっていった。

人狼族も同じなんだと、自分の身を持って示しているようだ。

いまだ過去に囚われたままなのは弥生だけのようだ。


 小春と皐月もすぐに懐いて、悠牙にも稽古をつけてもらうようになった。

悠牙は族長だけあって強い。

本気でやりあえば弥生たちより強いかもしれない。

二人がかりでもいいようにあしらわれている。


 まもなく皐月の誕生日を迎える。

皐月が16歳になれば、一足早く誕生日を迎えている小春とともに、いよいよ初仕事だ。

2人はこれを心待ちにしていた。

だからこそ、稽古にも身が入っているのだ。


 弥生はひとり、弓道場で訓練をしていた。

弥生の放つ矢が的の中心に刺さる。


「弥生ーちゃん、あからさまに避けんなよ」


 そこに悠牙が現れた。

スパン!とまた矢が的に刺さる。


「俺が来たの知って、訓練に行っただろ」


「たまたまよ」


「この間の話の続きでもするか?」


 その瞬間、弥生は的を外した。

ため息をついて弓を降ろし、悠牙に視線を移す。

悠牙はいたずらっぽく笑っていた。


「別に避けてた訳じゃない」


 弥生は矢取りに入る。

的に刺さった矢を回収し戻ると弓矢を片づけた。


「今の人狼族は昔と違う。それはわかってる。悠牙の言うことの方が正論よ。ただ気持ちの整理がつかないだけ」


「わかるよ。俺だってそうだった」


 あっさりと肯定するから思わず悠牙を見た。

その目には優しさが宿っている。


「別に俺だってさ、最初からそう思ってたわけじゃないさ。こう言っちゃ悪いけど、退治屋の中には人狼族ってだけで攻撃してくる奴だっていたんだ」


 弥生ですら知らない事実。

実際、人狼族は悪事を働いていると教えられてきた。

退治するべき存在だと。



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