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止まない雨  作者: 結羽
3/12

3 出会いは突然に。

 あれから数日たった、よく晴れた日。

陽は高く、ぽかぽかと暖かい。

弥生と暁斗がいる林の木々も陽に照らされ、鮮やかな緑を見せている。


 爽やかな空気を破るように魔物の叫び声が響きわたる。

暁斗が斬りつけ、弥生の矢が射抜く。

流れるように魔物を倒していく二人。

そのは背後には倒された魔物が折り重なる。


 今日も弥生と暁斗は仕事をこなしていた。

この日は隣りの村の依頼。

この前よりは強力な魔物が相手だったが問題なく倒していく。

魔物の気配が消えた。


「終わったな」


「そうもいかないみたいよ」


 新たな殺気を感じた。

さっきまでの魔物とは桁違いの殺気。

確かに感じる5つの影。

姿は見えずともその殺気ははっきり感じとっていた。

ゆっくりと剣を抜き、構える暁斗。


「出てこいよ。相手してやるぜ」


 ニッと笑った暁斗が挑発すると、5人の男が音もなく現れた。

その誰もが獣の毛皮で作られた衣を纏い、狼のような尾が生えている。


――人狼族。


 その名が示すように人と狼の血が混ざり合った種族。

浅黒い肌と狼のような尾が生えているのがその特徴だ。

気性が荒く、戦闘能力が高い。

昔から近隣の町を襲っては略奪を繰り返していた。


「何のつもり?」


 人狼族の男たちから視線を外さず、ゆっくりと問い掛ける弥生に1人がニヤリと笑って答えた。


「金目の物、置いてきな。そうすれば命だけは助けてやるぜ」


 回りの連中がニヤニヤ笑う中、2人は顔を見合わせ溜め息をついた。

油断ができる相手ではないが、戦闘能力の高さは弥生たちの方が上だろう。

しかし、できれば余計な戦闘は避けたいところだ。


「嫌だ、と言ったら?」


暁斗がさらに問う。


「無理矢理奪うまで……だ」


 そのまま一斉に襲いかかってくる男達。

やはりこうなるか。

弥生たちが応戦しようとしたその時――。


「やめるんだ!」


 弥生たちの背後から低い凛とした声がかかった。

すると人狼族の男たちがピタリと動きを止めた。


 ゆっくりと現われた男は弥生たちとそう変わらない年の青年だ。

しかし、浅黒い肌と狼の尾が生えていることから人狼族の者であることがわかる。

鋭い眼光で、弥生たちを襲った人狼族の者を睨む。


「人を襲うなと言っただろう?」


 五人の男たちは慌てて武器を降ろす。


「すまなかった!お前たちも武器を降ろしてくれないか?」


 警戒を緩めずにいた弥生と暁斗を、男は気にすることなく近付いた。


「俺は人狼族の族長、悠牙だ。お前たちは退治屋の里の者か?」


 歩み寄った悠牙はニッと笑い、暁斗の手をとった。

そのまま、ブンブンと風を切る音が聞こえそうなくらい、握った両手を振った。

勝ち気な瞳が輝いている。


 あまりの警戒心のなさに2人も呆れてしまった。

悠牙の仲間たちも呆気にとられている。


「本当に悪かったな! お詫びにうちの里に来てくれないか?」


 突然の悠牙の言葉に2人は驚く。

それもその筈、人を襲う人狼族と人を脅かす者を退治する弥生たちはずっと敵対していたのだ。

それに、人狼族の里は山深くにあり、行き来することなど今までなかった。

再び警戒心を強める2人。

里に誘い込み、襲うつもりかもしれない。


「そんなに警戒しないでくれ。別に何も企んじゃいないぜ? 少なくとも俺が族長やってるうちは今までみたいなことはさせねぇ。俺は争いが嫌いなんだ」


 そう言った悠牙の顔は少し悲しみをたたえていた。


「そういや、お前らの名前は?」


「暁斗。そっちは弥生」


 結局、なかば強引に連れられた2人。

もちろん人狼族の里に行くなんて初めてのことだ。

悠牙の後を弥生と暁斗が歩き、その後ろを人狼族の男たちがついてきている。


 どういうつもりなんだろうか。

5年前のあの日。

人狼族との関係が決定的になった。

同じ年頃の悠牙が忘れているわけがない。

それなのに何故、平気な顔をして自分たちの里に招き入れるようなことをするのか。


「弥生。行くのやめるか?」


 少し先を行く悠牙に聞こえないように小声で暁斗が言う。

表に出さないようにしていた動揺を、さすがに暁斗は気づいていた。


「どうした?そろそろだぞ」


 悠牙が振り向いて言った。

弥生は小さく首を振った。

人狼族の里が近いなら今更逃げても仕方ない。

五人の男たちも手練だが、悠牙は族長というだけあってそれ以上の実力だろう。

下手に戦闘になれば無傷ではすまない。

相手に敵意がないのなら逆らわない方が良い。


 だんだんと辺りが開けてきた。

その先には人狼族が暮らす里が広がっていた。

その光景は弥生たちが暮らす里と大差ないように見える。


「よう!族長!」


「おかえり!」


里に入ると人々が気さくに悠牙に声をかけている。

ある意味族長らしくないといえば族長らしくない。

ただまぁ里の人たちには慕われているようだ。




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