第54話 羊を数えて……
夕日を浴びた長閑な風景が目の前に広がっている。灰色の羊達が「メエ~」と広大な草原を鳴きながら走っていた。犬と追いかけっこ中?
「チェトも走る?」
『いや、われはあれには混ざらんぞ』
「そう……。羊って大きいんだね」
『毛を剃れば細くなるぞ』
「へえ……。ねえ、数えられないけど100匹くらいいない?」
『いるわね』
『いるな』
「あれを全部シャンプーしてブラッシングするのかな?」
僕は、数に茫然としていた。
「おや? もしかして君がロマドさんかい?」
「え? はい」
振り向くと髭を生やしたおじいちゃんが居た。
「やっと来たのかよ!」
「え? ユイジュさん!? なんでいるの?」
聞いただけなのに、会って直ぐにはぁ……とため息をつかれた。なんで~。
ユイジュさんは、ダダルさんの依頼で僕のサポートをする為に別に来ていた。昨日あれから街を出て、今日の朝にここに着いたらしい。
だから昨日ユイジュさんの姿が無かったんだ。
「ちょっと今日、試して欲しい事があるんだ。一匹でいいから洗ってほしい」
とユイジュさんに言われた。よかった。今日中に全部とか言われるかと思った。
羊に近づくと、毛はまだらな灰色だった。マトルドのような感じ。もしかして、マトルドはここら辺の出身の馬なのかも。
って、羊って角があるんだね。
「一人で出来そうか?」
「え? あ、うん。初めて見たからマジマジと見ちゃった」
桶に水を汲み、掛けようとすると逃げられた。水は、ただぶちまけられ地面を濡らす。
「え? 羊って水嫌いなの?」
「嫌いというか、人間不信になっているらしい。毛も汚れてるし暴れるから刈る事も出来なくて困っている。それでまずは、毛を綺麗にって事らしくてな。お前が綺麗に洗うのが上手って聞いたらしく依頼が来た」
「まあ、綺麗には出来ると思うけど、洗えないと……」
桶に水を汲み直し構えると、小さな囲いの中を逃げまくる!
「もう! 待って!」
ピタっと羊が止まった! 今だ!
ジャバーっと水を掛ける事ができた。でも驚いたのか、また駆け回る。
次は、アワアワ粉で綺麗にしないと行けないからなぁ。ユイジュさんに抑えてもらうかな。
「ねえ、ユイジュさん、羊が止まったら押えてくれる?」
「いいけど……。結構パワーありそうだよな」
「羊さん! 動かないでジッとして綺麗にしてあげるから!」
通じたのか止まった!
すかさずユイジュさんが、押さえ込む。そして僕がアワアワ粉で洗う。
『これは、あれだな』
『そうね。彼の手に負えるかしら?』
柵の外で二人が話をしている。何とかなってるもん。
羊の毛ってチェトとも違う触り心地。これもこれで気持ちいかも。
「和んでないで、ちゃんと洗えよ」
「洗ってるよ」
後は、洗い流すだけ。桶に水を汲んで羊にかけた。
泡は流し落とされる。
「ねえ、ブラッシングは?」
「いや、いい。一つ聞くが、その洗うのもスキルなんだよな?」
「え? あ、うん」
「やっぱりな。だとしたらこれって……」
ユイジュさんが綺麗になった灰色の羊をジーッと見て呟いた。
「錬金術か?」
「錬金術? どういう事?」
「本来、ここにいる羊はチェトのように真っ白らしい。だがある日、一匹また一匹と灰色になっていったらしい。洗っても落ちないし、それから羊があまり言う事を聞かなくなった。調べてもらうように国に要請が来ていた」
「え? 灰色の羊じゃなかったんだ。錬金術だとスキルでも落ちないの?」
「らしいな。洗うだけでは落ちないって事だろう。錬金術で色を変えたという事だろうが、なぜそんな事をしたのかだ。たぶん実験なんだろうがな」
ユイジュさんが、眉間にしわを寄せて言った。
羊が実験台になったって事?
「凄いね。百回以上も実験したんだよね? あれ? 錬金術って実験しないと出来ないの?」
「お前の感動する場所はいつもずれてるな……。錬金術は、自分でオリジナルを作りだす事も可能らしい。その際、実験を繰り返し成功率100%になれば、失敗しなくなる。ただ、色を変えるという錬金術は既にあるから、違う実験で失敗して色がついたって事だろうな」
「え~! じゃこれ落ちないの?」
「落ちないと商売が上がったりだろうな。錬金術でどんな効果になっているかもわからない毛なんて誰もいらないだろう?」
「あ、そうか。ウールだかになるんだっけ?」
「ロマドのスキルの中に、洗うような違うスキルってないか? あったらそれを覚えて試してほしい」
「え? うーん。そんな事を言われてもなぁ……洗うか。あ、これかな清める」
「清める? どうやったら覚えるんだ?」
「ちょっと難しいかも。清める行為をするだって」
「え? それってどんなんだ?」
「知らない。それしかわからない」
「滅茶苦茶アバウトだな」
『あるわよ。方法』
「え? 知ってるの?」
サザナミが知っていると言ったので驚いた。サザナミも物知りだったんだね。
「チェトが知っているのか?」
「サザナミが知っているって」
「え? 大丈夫なのか?」
「なんで?」
「いや、何となく……」
大丈夫に決まってる!
「教えてサザナミ!」
『いいわよ。ついて来て』
「うん!」
僕は柵の中から出た。
「ちょっと待て! 今から行く気か! 夜だぞ」
『夜だからいいのよ』
「だって」
「だってって! 俺には聖獣の声は聞こえないんだから説明しろ! おい待て! 俺も行く!」
慌ててユイジュさんも柵から出てきた。
『マトルドも連れて行くぞ』
そうチェトが言うので、マトルドも連れて行くことにした。嫌ではないみたいだ。




