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最弱の魔王  作者: よーき屋支部
第四章 戦乙女は戦わない
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ヴァルキリー

お待たせしてしまい、申し訳ございません。

またゆっくりと投稿を再開いたします。

 その日の昼休み。新たなパーティメンバーに木場を迎えた黒部一行は、四人揃って部室に集合していた。

 超をいくつつけても足りないレベルのお嬢様である紀久淑が、ノアのプレイ中いらぬトラブルに巻き込まれないよう突貫で用意されたこの部屋も、日を追うごとに悪目立ちしていく一行のセーフハウスとして大いに活躍している。クラスメイトも黒豚たちの動向が気になってはいるのだが、紀久淑の背後に立つ黒服たちの影響か、深く詮索する気はないようだ。仮にこの部室の存在が明るみに出たとしても、藪をつついて蛇を出す愚か者などいはしないだろう。

 しかし、黒部がいるとその辺でノアをプレイしているだけで悪目立ちしてしまう以上、この部屋の存在は非常にありがたい。初期の無駄に煌びやかなアンティーク類ではなく、折り畳み式の長机とパイプ椅子に、2ドア式の冷蔵庫。程よく快適な、それでいて高校生の枠を大きく逸脱していないゲーム環境が整っている。

 なにより、念願のアタッカーを加えて四人集まったともなれば、いっぱしのパーティを名乗ってもよいだろう。実力に関して言えば黒豚含めて難ありなメンツの集まりだが、あれだけ弱い弱いと騒がれている黒豚(クロベー)がそれなりに戦えていることからもわかるように、必要なスキルや装備が揃っていない最序盤である今ならば、クロベーのそれも大きなディスアドバンテージにはなっていない。必要な技能枠が足りなかろうと、みんなが持っていなければ差はないからだ。

 それでも黒部がこんなにも毛嫌いされているのは、伸びしろのなさ以上にオークの外見から来るものなのである。イケていないオークは男女問わず大変不人気で、その扱いは思春期の娘から見たお父さんよりもひどい。それでも家族のために頑張る一家の大黒柱に倣い、つらい処遇を乗り越えた先に待ち受けるのは、詰みゲー紛いのクソ相性。彼の受難はまだまだ続く。

 とはいえそれもまだ先の話。つらい壁にぶち当たる未来を嘆くよりも、今日から苦楽を共にする仲間をスタートラインに立たせるほうが、今は重要だ。


 部室の紹介を兼ねて木場を招いた一行の目的は、入学式以降モノクリエイターを放置していた彼女が、放課後には円滑にクエストへ赴けるよう、アバターの慣らしとジョブ登録を終わらせることだ。


 各々が弁当を広げ、無意識に身体を委ねる準備を進めている中、黒部が慣れた手つきでモノクリエイターを操作しつつ尋ねた。


「ところで、木場さんの希望するジョブってある?」


「ん?」


 話を振られた木場は対照的に、長い後れ毛を掻き分けながらおぼつかない手つきでモノクリエイターを装着している。慣れない動作に若干の苛立ちを覚えているのか、はたまた聞くまでもない問いへの億劫さからか、少しつっけんどんな声音で質問を返した。


「……戦闘要員としてスカウトしたんだろ?他に何をやらせる気なのさ」


「そうなんだけど、木場さんからの希望がありゃ、そっちを優先しようって話し合ってたんだ」


「戦闘職に限らず、ノアには多くの生産職もございますわ。木場さんがそちらを希望なさるのであれば、ぜひともおっしゃってくださいな」


 パーティとしてはダメージディーラーを任せたいところではあるが、本人の希望を聞かずに押し付けるつもりはない。浮暮波含めアドベンチャー脳を持った三人も、新メンバー加入の喜びよりも、戦闘バランスを優先しようとは思っていないのだ。

 仮に、木場の心の奥底に眠っていたキラキラ乙女マインドが、フリフリの服を仕立てて己をキャピキャピに着飾ってみたいというのであれば、それを叶えるのもやぶさかではないと真面目に思っている。

 だがこれに関しては、服はデザインよりも機能性で選びがちな木場にはいらぬ心配である。それでも気遣いの意思は汲み取れたのか、声の調子を元に戻して答えた。


「こっちはズブの素人だから、そんな頭使わないところがいい。ちまちまと物を作っているよりか、前に出て暴れている方が性に合ってるしね」


「んじゃアタッカーだな」


「あとは……そうですわね、木場さんは武器を用いた戦闘の心得は御座いまして?」


「んにゃ、全く。というより、変な癖を付けたくないから素手がいい。あればだけどね」


「そこんとこは心配ねえよ。慣れない武器なんか持ったら、逆に弱くなりそうだもんな」


「違いない」


 己をスカウトする輩が多くいたことからも、近接格闘を素手で行うジョブも存在すると踏んでいた木場だが、読みが当たって内心ほっとしていた。黒部の言うとおり、馴染みのない武器を持たされたところでそこらの棒切れ以上の扱いは出来そうにない。

 武器を持ったほうが強いのは素人の話、子供のころから身体に染み込ませた技術を超えるほどの恩恵は得られないと木場は考えており、それは格闘技をかじる身である黒部にも理解できた。


「それを黒部さんがおっしゃるのですか」


「ハンマーはロマンだ。浮暮波さんならわかってくれるよな?」


「オークには洗練された意匠の装備よりも、武骨な重量武器の方が似合ってはいますね」


 それでも黒部が武器を使っているのは、彼が彼女ほど才能ある格闘家ではないからだ。実力の話ではなく、己の拳、技量に殉ずる覚悟の差とでも言おうか。


 ノアというゲームの中で黒部は、オークのクロベーだという、一種のロールプレイを楽しんでいる。当然手を抜いたりはしない。人とは違うこの姿でできる精いっぱいを模索しながら、このゲームを遊び倒す。

 ウォーハンマーという扱いにくい武器を使用している理由も、外見以上に魅力的なプラス補正を考慮してのものだ。黒豚ゆえに今後被るであろうディスアドバンテージを、今から少しでも補わんと彼なりに考えた結論が、仲間内から賛否両論をいただくウォーハンマー装備(正統派オークスタイル)であった。

 ほかにも理由はあるのだが、つまりはというと。


「……いいんじゃないかい。それがアンタらしさってやつならさ」


「……おう、サンキュ」


 木場の信念を貫き通すスタイルも、黒部の配られた手札で戦うスタイルも、お互い理解し、尊重しあっていければ、みんなハッピーだよねということだ。


「じゃ、木場のジョブは〝グラップラー〟だな」





 “はじまりのまち”エスタ・キャピタル中央区。


 クロベー、真名、アリアの三人が連れ立って初期リスポーン地点となる英雄像のある広場へ向かうと、目当ての女性アバターが腕組みして壁に寄りかかっていた。

 始めてノアの地を踏むことになるこの広場であるが、彼女のように一人でいるプレイヤーはあまり多くない。スタートダッシュが大事なこの時期に、初期地点にとどまっている暇などないからだ。

 だからと言って人が少ないかと言われればそんなことはなく、いまも2~3人のパーティ同士がお互いに自己紹介を行っている横を通り過ぎる。これらを見てわかるように、この広場は自分の学校でフルメンバーをそろえられなかったパーティが()()のプレイヤーとパーティを組む集会所になっているのだ。

 その大半はクロベーほどではないにしろキャラクリエイトにケチのついたものが多く、お互いに求めるものはさほど多くない……というより、彼ら彼女らはキャラクターリセット前提でのパーティ申請がほとんどだったりする。

 己の学校内ではくそみそ言われ放題でも、同じ境遇にある他校の生徒とならばノアを存分にプレイできる。そんな彼ら彼女らを「負け組」と揶揄する輩もいるし、他校同士ゆえのデメリットも少なくないので円満とは言えないが、一人でも多くのプレイヤーがノアを楽しめればそれに越したことはないだろう。

 ちなみにだが、紀久淑に声をかけられていなければ、黒部も来週の頭くらいにはここに立っていたかもしれない。目つきの悪い魔法戦士ビルドの人間が主人公の世界線の方が、読者受けもよかったかもしれない。

 そんな作者の杞憂もつゆ知らず、ぶっひぶっひと歩く目つきの悪い真っ黒オークことクロベーは、広場の端で目を瞑っている木場に声をかけた。


「悪い、待ったか?」


「いんや、さんざ声かけられてたから、そんな待った気はしないよ」


「ああ、そこも気い遣えば良かったな、悪い」


 待ち人が訪れたことで眉間に寄っていた皺を解き、後ろの二人にも軽く挨拶を返している木場は、遠目で見ても気づけるくらい外見の変化はない。生身の彼女と大きく変わった点といえば、青みがかった艶やかな黒髪が、蒼天のように晴れやかな薄水色をしているところだ。

 空色の髪をポニーテールに結び、研ぎ澄まされた真剣のような危うさを感じさせる美女は、どうやら彼らがここに辿り着くまで相当熱烈な勧誘を受けていたようだ。

 木場が美女だから。だけではない。

 彼女のアバターは強キャラランキングに名を連ねる当たり枠なのだ。





 ―――“ヴァルキリー”。


 名前から漂う強キャラ感に負けず、まず初期ステータスが総じて高い。オークの魔法系ステータスや、エクス・マキナの魔法防御のような穴もなく、レベルアップに応じて上がるステータスにも偏りがない。


 それだけでも扱いやすいうえに、強キャラ特有の特典がとにかく強い。シーンによってはエネルギー・ボルト(エクス・マキナ)にも引けを取らず、デメリットの補填も容易とくれば笑うしかない。

 スロットも豊富なので職業を選ばないどころか、どのポジションにおいても第一線を張れてしまう。

 人間のように特化させることはできないので専門家には水をあけるものの、シーンを選ばず活躍できる万能職、それがヴァルキリーなのだ。





「で、まずは職業決めるんだったね。南の地区だっけ?」


「おう。武道家のギルド……っていうか、道場でチュートリアルが受けられたはずだ」


「なるほど、道場破りってわけだね」


「破んな。しっかり教えを乞うて来い」


 見世物から解放された欝憤もあってか、木場の目はらんらんと輝いている。冗談さと返してはいるが、笑えないくらいオラわくわくすっぞしている。そんな空気を感じ取ったか、あいやしばらくと真名が待ったをかけた。


「お待ちくださいまし。まずはパーティ登録を済ませてしまいましょう」


「お、そうだな。どうする?アリアが申請やってみっか?」


 ナイスと言わんばかりにクロベーが乗る。木場もああパーティねと返しながら一旦は心の中の戦闘民族をひっこめてくれた。


「私が行っても宜しいのですか?」


「もちろん!俺も前回テンション上がったし、一回はやってみたいだろ?」


「はい……! あ……もし、木場さんが宜しければ、ではありますが」


「アタシはいいよ。その感動はまだ理解出来そうにないしね」


「では……っ」


 顔を覆う黒髪で表情はうかがえないが、上ずった声色と慣れないながらも逸る手元の動きを見れば、アリアがとても喜んでいるのがわかる。


 小学生ほどの背丈まで縮んでいるアリアの姿はまさに子供そのもののようで、それを眺める三人の心はまさにほっこりといった様子。髪型の異様さなど気にならないレベルのほっこり力に、木場の心に棲む戦闘民族もオラほっこりすっぞとご満悦のようだ。


 たどたどしい手つきで申請を送ったと同時に、これまたおっかなびっくり承認を送る二人を眺めていると、クロベー、真名のウィンドウが起動した。どうやら二人のはじめてのおつかいはうまくいったようだ。


 〝パーティが結成されました。メンバーは『真名』『クロベー』『Alstroemeria』『ソラ』です。〟

 

「ソラさんですか……シンプルですわね。どういった意味があってこの名を?」


 己の名付け自体はシンプルなものの、壮大なバックストーリーが脳内で展開されている少年誌脳なお嬢様は、案の定彼女のアバター名に食いついた。本名にかかっているわけでもなさそうなその二文字には、文字通り大空のように広大なバックストーリーが隠されているに違いないと興味津々である。


 その温度差に……というより、鼻息荒めなお嬢様の勢いに若干気おされながら木場改めソラは少し照れ臭そうに答える。


「あまり面白い話でもないさ。深い意味もないしね。アタシが生まれる前に男だったら(そら)、女だったら瑠璃ってつけるつもりだったって話を思い出してね。そんだけさ」


「……なるほど、両親に変わり、もう一人の自分もまた、ご両親からいただいた名をもって生まれたと、そういった意味が込められているのですわね」


「この地で生きるセカンド・サイド(もう一人の自分)へ、文字通り空という大いなる可能性と期待を込めて……素敵なお名前ですね」


「お、おう……あれだな、かっこいいぜ!!ソラ!!」


「深い意味ないって言ったよね?恥ずかしいから無駄に壮大にすんのやめてくれない?」


 女子二人がポエミーな感想を述べながらうっとりする中、相変わらず小学生みたいな感想しか浮かばないクロベー。当人としては最大限絞り出したうえでの賛辞だが、いかんせん語彙力がたりていない。

 それでもソラにはオーバーキルだったようで、照れ隠しにクロベーを叩きながら女子二人をキッと睨みつける。平時であれば恐ろしく見えるのだろうが、首まで真っ赤にしたソラがやっても可愛らしいだけだ。

 とはいえ本来の目的はまた別だ。限られた昼休みを有効活用するため、真名は仕切り直しとばかりに咳ばらいを一つ。パーティに迎え入れることのできた愛らしくも頼もしい前衛候補へ自己紹介を行うのだった。


「では、改めてソラさん、よろしくお願いいたしますわ」


「ああ、よろしくね」





 広場を後にする一行を見送る複数の目が、嫉妬と怨嗟の念をのせてクロベーに向けられる。


 中央広場に集まっている面々は、みなキャラクリエイトに失敗したいわゆる“負け組”と呼ばれるプレイヤーたちだ。そんな彼ら彼女らの中でもひと際目を引く黒豚が広場に現れた時、各々の心には安堵と侮蔑が入り混じる、黒い感情が浮かんでいた。

 己と黒豚(最底辺)を比較しての自分アゲが虚しくもあり、それでも少し救われてしまう。ついには己の立場すら棚に上げ、黒豚に同情すらしてしまっていた。ここに来たということは、彼もアバターをリセットするつもりなのだろう。

 リセット後に結成したパーティで“俺、元黒豚なんだよねー”なんて一笑いを提供できると考えればまあ悪くはないのかもしれないなんて、無理矢理長所を探しながら、あまり色眼鏡をかけてみない方がよいのかもなと少し上からな憐憫を向け、それでも珍しい黒豚へ無遠慮な視線を向けることはやめない。

 そんな葛藤と向き合っていた心は、瞬く間に赤く燃え上がった。オークのデカい影に隠れて見えなかった女性アバターが視界に入ってきたのである。

 異様な見た目のハーフリングとアバター越しにもわかる美少女エクス・マキナは、黒豚と楽しげに話している。一目でパーティなのだろうと判別できた。

 それだけでなく、どうやら一行の目指す先は先ほど自分たちが袖にされたヴァルキリー(強キャラ)のようだ。親しげなやり取りに聞き耳を立てていると、聞きたくない単語が耳に飛び込む。


 “パーティ登録を済ませてしまいましょう”


 パーティ登録?黒豚が?ヴァルキリーと?いや、女の子三人と?広場に入る面々の、特に男子の心が嫉妬で赤く染まっていく。そんなハーレムパーティ、強キャラ引いたリア充でも早々見られないぞと、自分の学校に君臨するトップカーストと比較して歯ぎしりする。

 そもそも、ヴァルキリーにしろエクス・マキナにしろ、学内で早々見ないレベルの美少女である。ハーフリングも髪の隙間から除く鼻口は整っている。そんな美少女三人を、オークが?

 一行が去った中央広場、英雄像が見下ろす眼下には可視化できるのではないかと言わんばかりの嫉妬の炎が渦巻いていた。


 ―――こうして“はじまりのまち”エスタ・キャピタルに新たな噂が広まっていく。


 本人のあずかり知らぬところで、“黒豚は手当たり次第に女に声をかけては侍らしている、人類の敵”として名を轟かせることとなったのだった。

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