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最弱の魔王  作者: よーき屋支部
第一章 〝ノア〟と〝黒豚〟
3/38

〝黒豚〟

―――〝黒豚〟。


 引いてはいけない最悪な組み合わせの一つであり、ハズレ枠の中で最もメジャーな組み合わせでもある。


 インターネットサイトによるクソ相性ランキング堂々の第三位。単純な人気で言えば、その醜悪なルックスも相まって最下位必至だろう。



 実際、オークの嫌われようは尋常ではない。


 近年メジャーになりつつあるファンタジー作品の中で、オークは往々にして人類の、特に女性の敵として扱われることが多い。


 強さにしても、大体が序盤の噛ませ犬。中盤からは主人公達に軽くあしらわれ、後半以降は薙ぎ払われるその他大勢といったところか。


 外見の醜悪さは語るまでもなく、作品内でも一部を除いて忌み嫌われる存在だ。知能が低いとされる点も不人気に拍車をかけている。


 ステレオタイプの化物であり、ある意味ファンタジー世界の王道をいく嫌われ者が、今時の女子校生にウケるはずがない。自然と、女子からの評価を気にする男子からも覚えが悪くなる。


 その結果、高校生という一つのコミュニティから有り得ない存在認定をされてしまった悲劇の種族。それがオークなのだ。


 そんな不人気枠にあってひと際毛嫌いされる黒豚。その理由は偏に、出現した魔法適正にある。



 そもそも〝黒豚〟という名称自体、オーク内に数あるハズレ相性の一つでしかない。ただ単に、最も有名で、最も使えなくて、最も語呂の良い名前だから有名なのだ。


 正確に言えば〝オーク〟に〝魔法適正〟の組み合わせ自体が死にスキル扱いをされている。


 実は一部のキャラクターには、魔法の適性が全くない種族がいる。


 例えば〝エクス・マキナ〟と呼ばれる機械人形種族は、オーク以上に魔法適正がない。よって、このアバターには魔法適正が生まれないよう、ゲーム側からシステムロックがなされているのだ。


 そうまでして魔法適正をオミットする理由は、ノアの世界観にある。エクス・マキナやゴーレムをはじめとしたいわゆる無生物には、魂が宿っていない。そして、魂のないものには魔法適正が発現しない。それがノアにおける絶対のルールなのだ。


 ここで重要なのは、無生物というカテゴリだ。魂のないものに魔法は扱えないという条件がある無生物とは違い、生物であるオークは魔法の()()がないというだけで、全く使えないわけではないという裁定がされる。


 オークはなまじ生物であるがゆえに選択肢が残ってしまい、運が悪いと真珠を持った豚が生まれてしまうのだ。



 そのくせ先に語った通り、オークと魔法の相性は最悪だ。


 具体的には、魔法の規模や回数を司るMPと、魔法攻撃力を表すINTというステータスが笑えないくらいに上がらない。


 いくら習熟度が高くても、他の数値がゴミ以下なオークは、どんなに無理して魔法を打ったところでダメージを稼げないのだ。


 因みに、MPは魔法適正の習熟度に応じてプラス補正を受ける。


 彼のMPから闇魔法の習熟度を引いた数値がオークに与えられたMPだと言えば、悲惨さは伝わるだろうか。一。にのまえ。英語でONE。


 悲惨ついでに付け加えると、この闇魔法、単体での攻撃力が皆無なのである。


 いや、正確に言えばゼロではない。出てきた闇は質量を持っているし、打った時の反動もある。


 ただ、圧倒的に密度が足りないのだ。


 構えた掌の先、やたら勢いよく噴き出したのは黒い煙。


 試しに一人で使ってみた黒部の感想は一つ。


 何も見えねえ。


 これに尽きた。


 眼前に広がる圧倒的な黒。これで自分だけは見えていたり、ここは私のテリトリーだ!などと言えれば話は変わってくるのだが、皆等しく一寸先は闇。


 使用者も見えない魔法ってホント何なんだよもう、とは黒部の言葉である。


 やはり威力もたかが知れていたようで、直撃を受けたチュートリアルモンスターのHPを一ドット削るのみ。いや、削れたように見えたことすら目の錯覚かも知れない。


 しかも、やたら反動が強くて尻もちをつく始末。何も見えないわ体勢は崩すわ、挙げ句碌にダメージも与えられないわで、彼は一体どうするつもりなのだろうか。


 そもそも煙で相手を倒せとか、無茶を言うなという話だ。



 この時点でもう最悪だというのに、習熟度イコール威力ではない点も彼の不幸に拍車をかける。


 ノアにおける魔法、ここでは属性を持つ攻撃魔法についてのみ説明するが、使用できるようになる魔法は各属性ごとに一つのみだ。


 炎の属性であれば炎を出せる。


 水の属性であれば水を出せる。


 風の属性であれば風を起こす。


 土の属性であれば土を操れる。


 基本属性と呼ばれる四属性であればこうなっている。他のRPGによくある、消費するMPによって効果の違う魔法を使用できるという仕様にはなっていない。


 唱えれば炎の槍が相手を焼き貫き、水の檻が相手を捉え、風の刃が敵を切り刻み、大地の怒りが地を割くことはないのだ。


 とはいえそれでは面白くないし、ノアが謳う自由もへったくれもなくなってしまう。


 ならばどういう仕組みになっているのか。ここがノアの面白いところで、このゲームにおける属性魔法とは、魔法の効果や演出も含めて自分で考えられるのである。


 魔法の使用は適正があれば可能で、魔法の威力はINTに依存する。


 それ以外の全てを、習熟度に応じて自在に変化させられるのだ。


 例えば先ほど挙げた炎の槍も、習熟度が高ければ実現は可能だ。


 まずは産み出した炎を細長く収束、先端を鋭利にした形状で固定させる。そうして作られた槍の軌道を操作すれば、みんな大好きフレア・ランスの完成だ。


 習熟度によっては無数の火の玉を生み出せるようにもなるが、そうすると威力も分散してしまう。


 そういった事態を防ぐためにあるのがMPだ。効果を及ぼす範囲、威力の上乗せを行うのがMPの役割で、多ければ多いほど複雑な魔法を高威力、広範囲に行使できる。


 他のものに例えて説明すると、魔法の適正が粘土、習熟度は作る人間の技術力。魔法の威力は作品の質量で、追加の粘土がMPだ。


 今の黒部はパッと見優れた作品に見えても、中身はスッカスカの張り子しか作れない。この例えだとこちらの方が凄そうに聞こえるが、ぶつけられても痛くないと言えば、彼のショボさは伝わるだろうか。



 彼を追いつめるようで申し訳ない気持ちになるが、悪いニュースは更に続く。


 黒部唯一の長所である習熟度も、プレイヤーのレベルが上がらないうちは十全に発揮されない仕様となっている。


 ステータスがついてこないうちは、どんなに奇をてらったところで碌にダメージが稼げないのだから当然であろう。小数点以下の計算までさせていては、サーバの負荷は指数関数的に増えていってしまうのだから。


 そのため、どれだけ高い習熟度を持っていようと、レベルを上げなければ話にならない。


 さきの例えを用いるとするならば、さしずめ黒部は、才能を開花させていない芸術家の卵のようなものだろうか。例え話ばかりがカッコよくなっていくが、今の黒部には何の慰めにもならない。



 腐っている彼のために唯一ともいえる長所を挙げるとするならば、恐ろしいほどに燃費が良い点だろう。


 半径十メートルほどを覆う闇を産み出しても、消費したMPはたったの一。自身の視界すらも隠すデメリットに目を瞑れば、驚異のコストパフォーマンスである。


 そのデメリットさえなければとは、黒部が夜通し何十回と考えた問題なのだから、今の彼に無理矢理長所を教えたところでむなしくなるだけなのかもしれない。



 そもそも、なぜ闇魔法がこんな用途不明の産廃仕様になっているのか。その理由は、闇魔法が数ある属性魔法の中において唯一、付与魔法に近い側面を持っているためだ。


 もっと簡潔に言うと、アクセサリに近い。


 誰もが聞いたことがあるだろう、もしかしたら言ったことがある者もいるかもしれない。〝漆黒の炎に抱かれるがいい!!〟であったり、〝この黒き雷は、触れるものすべてを灰燼に帰す!!〟とかいう文言。


 闇魔法は、アレを行うために作られたのだ。


 例えば前者であれば、炎魔法と闇魔法を同時発動する。


 そうすると、生み出された炎は闇魔法と混ざり、黒い炎となるのだ。


 肝心な威力自体はお察しの通りであるが、相手は闇と炎、どちらの属性も対応しなければならない。闇属性が付与されると、どちらか一方の耐性だけではダメージが素通しになるのである。


 使う側には高い威力を、受ける側には甚大な被害を与えるのが、闇魔法の正しい扱われ方なのだ。


 もともと付与前提に作られていることを思えば、燃費の良さも納得できる。


 闇魔法単体の威力が皆無な理由も、混ぜて使うことを前提にしているのだから仕方がない。


 事実、一部拗らせた面々からは絶大な支持を得ているうえに、威力の高さやエフェクトの派手さから使用者も多い。


 だがそれも、複数の適性に恵まれた者のみに与えられる道だ。種族に与えられる魔法適正スロットが一つしかないオークは、闇魔法の適性が出た時点で詰むしかない。


 他の種族ならば、職業でウィザードを選ぶという手があった。いわゆる魔法職と呼ばれる職業には、魔法スロットを増やす効果があるのだ。


 だが残念なことに、オークに魔法使いの門戸は開かれていない。自由度が高いとはいえ、種族によってはなれない職業もあるのがノアだ。



 因みに、名称の基となった黒い肌だが、発現した魔法適正によって色が変わる種族がいるのもノアの特色である。


 習熟度によって濃さや範囲が変わる場合もあり、黒部のアバターほど全身がはっきりと黒く染まることはまずない。考え方によっては、中途半端な斑模様にならなかった分まだマシなのかもしれない。


「……前向きに考えるしかないよな」


 ここまであれこれ言ってはみたものの、引いてしまったものは仕方がないのだ。


 元々オークに魔法戦闘なんて求めてはいけないし、アホほど高い闇魔法の適性も、最初から無いものとして戦えばいい。


 魔法使いになんてならない。そもそもオークだからなれない。


 ならば、定番の戦士系ビルドで進めよう。


「……全く使い道のない魔法を極めたオークの魔法剣士って新しいよな?次世代の主人公来たよコレ」


 言ってて悲しくなる黒部だった。


 どうやら彼は堅実に進めていくらしい。闇魔法に関しては、ちょっとした呪いだと思うことにしたようだ。





 しかし、そう思うのも彼が当事者だからでしかなく、残念ながら周囲はそう思ってくれなかった。


 ビジュアルは黒いオーク、みんな大好き嫌われ者だ。


 中肉中背な彼から反映出来る唯一の個性だからなのか、目付きの悪さは十全に引き継いでいる。


 思いの外悪役面をした威力的な外見に反して、ステータスは並。寧ろ普通のオークより下。


 唯一の適性にして最大の長所である闇魔法の使い道は、敵味方を巻き込んでのブラインドのみ。


 果たして、彼とパーティを組みたがる物好きなどいるのだろうか。

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