ハーフリング
はじまりのまち〝エスタ・キャピタル〟。
中央区にある冒険者ギルドの前で待ち合わせをした〝真名〟と〝クロベー〟は、連れだって北の方角へと歩みを進めていた。目的地は北区の待ち合わせスポットだ。
ログイン前に軽く話しあった結果、既にパーティを組んでいる二人が合流を済ませてから、土地勘の鈍い浮暮波を迎えに行く流れとなったのである。
真っ黒いオークと小柄なエクス・マキナが並んで歩く姿はどこを歩いていても目立つようで、相変わらず奇異の視線が二人を取り巻く。
若干うんざりしつつもこれに慣れてしまった二人は、気にしていても仕方がないとマイペースに会話を続けていた。
話題は勿論、これから迎えに行く新たな仲間候補の話だ。
「それで、クロベーは浮暮波さんのアバターを覚えておいでなので?」
「まあ、クラスメイトは全員覚えてるよ」
「それは頼もしい」
いや、割と気持ち悪いって。然程親しくもないクラスメイトが、自分のフルネームを漢字まで正しく暗記していたらぞわっとするだろう。それに近い感覚を覚えさせる黒部の発言だ。
だが正直、紀久淑が放課後にやったことに比べればかわいいものだとも思う。
当然真名もクラスメイトのアバターは把握しており、目的地に着いてしまえば合流に手間取ることもないだろう。
たとえ彼女のアバターが、教室内で拝む姿とは趣を変えていたとしても。
取り敢えず、目下の問題は。
「それなりに人がいる待ち合わせ場所だからな……浮暮波さんが灰になってなければいいけど」
「どんな心配ですか……まあ、仰りたいところはわかりますけれど」
何とも失礼な発言をしつつ、気持ち足取りが早くなる二人であった。
―――エスタ・キャピタルは、東西南北とその中央に置かれた五つの区画で大雑把な括りを設けられている。それぞれが違った特色を持っており、用途に応じて該当の区に移動する造りだ。
もっとも、これはエスタ・キャピタルに限らない。どの街でも似たような区分けがなされており、目的に応じて自然と棲み分けがなされていく。
街が大きくなればなるほど分類も細かくなっていき、街の特色によっては分けられ方も違ってくる点が、初めて訪れる者の好奇心を刺激してくれるのだ。
クロベー達が主に活動している中央区は明確な特徴はないものの、他の区画ははじまりのまちらしい単純な枠組みで仕切られていた。
ニュービーがまずはじめに選択し、なおかつそれが一か所に集まっていればスカウトも捗る大きな括り。
すなわち、職業による区分けである。
東区は戦士系の職業につくための施設や警備兵の詰め所が、南区には盗賊や商人ギルドのあるやや治安の悪い区画がある。クロベーと真名はそれぞれがこの区画を訪れて職業登録を行っている。
今回の目的地である北区は、回復職を目指すプレイヤーが集まるように作られた区画だ。周囲には神々を奉る教会や、それに併設された孤児院などがある。他の街並みとは違った宗教色の強い建物の数々は、こういった慣習に疎い我が国のプレイヤーにも神聖な雰囲気を伝えてやまない。
当然、そういった毛色を持つ場所に造られた待ち合わせスポットもご多聞に漏れず、この場に応じたランドマークとなっている。
北区中央部に設けられた小さな広場。その一角に鎮座する三メートル弱はあろうかという巨大な人型建造物が目印だ。
〝癒しの女神像〟と命名された女性の石像は、ノアの世界を創造した神々の一柱であり、人々を平和へと導く最高神であるとされている。
目元はローブに隠されて見えず、穏やかな微笑を湛える口元だけが窺える。天を仰ぎ祈る姿が青い空とマッチして、一層の神聖さを纏わせる。
皺の一本一本にまで魂を込めたような精緻な造りは、これに携わったスタッフのガチ具合が窺えて何かあれだ。
因みにこの女神像、教会のある街に必ず一体は置かれており、しかも一つ一つが少しづつディテールを変えているという気持ち悪さ…もとい、スタッフの遊び心も盛り込まれている。
その愛が伝わったのか、プレイヤーの間でもこの女神像は〝ネズミ女〟の愛称で親しまれている。いや、馬鹿にしてんだなコレ。
そんなネズミ女像の足元に、蹲ったまま震えている黒い毛玉が纏わりついていた。
プルプルと震える姿は悪いモンスターには見えないが、逆に言えばどう見てもモンスターにしか見えない。
周囲のプレイヤーも危うきには近寄らずの精神で遠巻きに眺めるばかりで、同所は待ち合わせスポットだというのに閑散としている。目印周辺だけぽっかりと人混みが途絶えていた。
中には深刻なバグだと勘違いしたプレイヤーが、運営にダイレクトメールを送る姿まで見受けられる。
到着早々とんだ絵面もあったものだとある意味感心していたクロベー達も、それを受けてはうかうかしてはいられない。
早く彼女を人間に戻してあげなければと、鉄火場に飛び込む勇気を奮い立たせて歩き出した。
「浮暮波さん……だよな?大丈夫か?」
「お待たせしてしまい、申し訳ございませんわ」
街中に現れないはずのモンスターに声をかける、黒いオークとエクス・マキナ。その姿を見たプレイヤー達がざわめきだす。
しかし、彼ら彼女らの驚きは終わらない。
「……い、一日千秋の心持ちで、お待ちしておりました」
穏やかな川のせせらぎのような声が響いたかと思うと、一抱えほどの大きさの毛玉から、手が、足が、身体が生えてくるではないか。
やがて本体であろう毛の塊は、頭部から生える美しい黒髪に姿を変える。正体不明のモンスターが人間に擬態する姿を眺めては、危うく剣を抜きそうになったプレイヤーだ。
そんな周囲に構う様子もなく、滔々とこれまでの心境を語るモンスター(人間形態)。
「お二人を待つ間は、まるで一冊の長編アドベンチャーを読んでいるような緊迫と、焦燥を覚えました……。これが、冒険心なのですね……」
「違いますわ。これしきのことで満足されてはわたくし達も困るのですが……」
「一人で待たせるよりは、多少無茶でもこっちに来てもらったほうが良かったか」
「いえ、今の彼女にとって、街中を一人で歩かせるのはダンジョンアタックに等しい行為ですわ」
「下手したら、そのまま満足して帰りかねねえな……」
と、漸く周囲の目を気にした三人が、続きは歩きながらとばかりに移動を始める。その様をギャラリー達は固唾を飲んで見守っていた。
暫くして、広場を抜けた三人が町中に消えていったところで、この場に張り詰めていた緊張感が薄れていく。
ここにいる誰もが見たことも聞いたこともないモンスターを使役する、恐らくは〝黒豚〟であろうオーク。
連れ立って歩くエクス・マキナが美し外見をしていた点も相まってか、二人の姿はそこにいたプレイヤー達の心へ強く印象づけられた。
オークが〝モンスターテイマー〟という珍しい職種についている点と、飼い慣らしているモンスターが女性型だという背徳的な絵面が、パーティを組むエクス・マキナの存在も相まって噂好きの間を駆け巡っていく。
数日後には、先日冒険者ギルドで騒動を起こした二人組の続報として。
〝黒いオークとエクス・マキナが、人型に変身する魔物をテイムしている〟
という新たな噂が、始まりのまち〝エスタ・キャピタル〟を中心に広まっていくこととなる。
これの続報、新たな噂が流れる時。
〝黒豚〟は、多くのプレーヤーの敵となる。
他プレイヤーの失礼な勘違いを正しておくと、浮暮波 凛のキャラクターアバターは決して異形の類いではない。今はクロベーと真名に挟まれる形で歩いている彼女だが、れっきとした直立二足歩行の人族である。
彼女を異形たらしめているあまりにも多くどこまでも長い頭髪は、残念ながら彼女の自前だ。
だからといって、彼女の種族は外見的変化がないヒューマンであるかといえば、それはノーである。現に、人間ベースではない外見をしたクロベーや、体組織すら変わってしまっている真名と並んで歩いていても違和感なくファンタジーしている。
彼女が普段と異なる点。それは、真名と比較しても頭一つ分は小さい身体のサイズだった。
〝ハーフリング〟。
一般的には小人族と呼んだほうが馴染み深いだろう。ファンタジー世界は勿論のこと、古くは神話にも登場する超メジャー種族だ。
アバター自体の人気は、背の高さをコンプレックスに持つ女性や、可愛い系男子ポジションを狙う一部の気持ち悪い男子に熱狂的な支持を得ている。眺める側としては、可愛い物好きな女子から大きいお友達まで引き寄せる屈指のマスコットポジションだ。おい後者。
外見的な特徴は、小さい。これに尽きる。
さすがに名前の通り人間の半分とまではいかないものの、それでもクロベーの臍辺りの高さしかない。お陰でクロベーから見えるのは彼女のつむじだけだ。
もっとも、これに関してはクロベーが大きくなっていることも原因の一つに挙げられる。ハーフリングが一二〇センチ前後に固定されるのと同様、オークは二メートル近くになる。
他にも大きくなったり小さくなったりする種族はいるが、二人の種族は割と両極端な種族といえるだろう。因みに、エクス・マキナは据え置きだ。
目線の低さや単純なリーチの短さが災いして戦士職には向いていないものの、DEXを活かした遠距離攻撃や高MNDによる支援魔法は、まさにパーティを支える縁の下の力持ち。
種族特性はクロベーと同じく、特定ステータスへのプラス補正。ハーフリングの場合はMNDだ。このステータスは魔法攻撃への防御力だけではなく、デバフへの抵抗値や補助、回復魔法の効果も上昇させる。まさに僧侶の必須ステータスといえるだろう。
敏捷性はさほど高くないものの、身体が小さいので相手に気付かれにくく、奇襲からの狙撃もこなせてしまう。
山椒は小粒でもぴりりと辛い、愛らしい外見に騙されると手痛い敗北を喫する種族。それがハーフリングである。
そういった、ある種とても分かりやすいフックを持つ種族がアバターであるにもかかわらず、真っ先に浮かぶ彼女の特徴が何かと問われれば、まず間違いなく自己主張を続けてやまない髪の毛だろう。
自分を守る絶対防衛線だからか、手間暇をかけて手入れのなされた濡れ羽色の御髪は、陽光に輝いて艶やかな色気を放っている。
小さな身体へ纏うように下ろされたそれが踝までを覆う様は、闇夜に紛れる外套を羽織ったように映る。ご多聞に漏れずファンタジー仕様な装飾がなされた濃い藍色のワンピースが、夜色のコントラストとなっていやにマッチしてしまっているのが反応に困ってしまう。
相変わらず目元は髪で隠されており、妙に血色の良い唇が放つ赤が毒々しく異彩を放つ。本人にその自覚はないだろうが、艶やかな真紅は蛇のような色香を湛えていた。
ファンタジーだからと言えば大体の説明がつく世界観なので、彼女の身なりに口出しをするのは野暮なのかもしれない。それでも言いたいことがあるとするならば、こんなナリした回復職はまずいない。仮に彼女が神の教えを説く存在になったとしても、信仰しているのはドマイナーな破壊神か何かだろう。
浮暮波の放つ邪教に魅入られた暗黒神官オーラがもの珍しいのか、いつにもまして注目を集めるクロベー達。イロモノばかりを集めた三人組の歩く姿は、図体のデカい真っ黒なオークが小さな少女二人を連れて歩いているという、憲兵さんにそっ首刎ねられてもおかしくない絵面を提供していた。
クロベーがさらっと社会的にもノア的にも死にかけているとは知らず、目的地へ向かって歩いていた三人は大通りの端に寄って足を止める。歩きながら、先に今後の流れを決めてしまおうとあいなったようだ。
「そんじゃ俺と真名は、浮暮波さんが職業チュートリアルを受けている間に必要なモン買い揃えておくか」
「そうですわね。浮暮波さんをお送り次第、向かいましょう」
「も、申し訳ありません。私は持ち合わせが……」
言いにくそうに告げる浮暮波が下を向いて呟く。外見年齢が小学生ほどの少女がしょげている姿は、見る者に庇護欲と罪悪感を抱かせるはずなのに、長すぎる髪の毛がすべてを台無しにしている。
とはいえ、そもそも同級生であるうえに彼女の外見にも思うところがない二人は、そんなことは分かっているとばかりに笑顔で返す。
「なに、こっちが急に誘ってんだから、浮暮波さんの分は俺がもつよ」
真名の腰巾着のままではいけないとでも思ったのか、ここぞとばかりにカッコつけるクロベー。防具を買うために貯金を始めていたので、懐に余裕はあった。
だがその発言では、巾着が財布に変わるだけだ。時代的には進化したが、ものからの脱却ができていない。
そして、パーティが絡む話題で彼女が大人しくしているはずがない。
「お待ちください。パーティの共有ですもの。わたくしも出しますわ」
当たり前でしょうと言わんばかりにカットインした真名にクロベーも頷く。一方、パーティに誘われた結果諸々を貢がれることになった彼女はというと。
「申し訳ございません……」
恐縮しすぎて再び毛玉と化していた。だがこれは先ほどのように蹲っているわけではなく、背の低い彼女が深々と頭を下げているからだった。
急に獣化形態をとった彼女を早く人間へ戻そうと、気にすんなとジェスチャーを込めて声をかける。
「お気になさらず。では、メッセージのやり取りが行えるよう、浮暮波さんともパーティ申請を済ませておきましょう」
「私に、パーティ……いまだに信じられません」
浮暮波も、自身がパーティを組むとは夢にも思っていなかったのだろう。胸に手を当てて感じ入っているようだ。
しかし、パーティを組むという行為に関しては他の二人も負けていない。特に片方は、前回どうしてもやりたいことがあったのだ。
「待った!俺、俺にパーティ申請をやらせて!!」
「別に構いませんが……」
太い腕を振り上げて挙手、クロベーが前のめりに言葉を発した。アバターの存在感以外は然程自己主張をしてこないクロベーの豹変に、真名は戸惑いながらも首肯する。色よい返事にこれまた珍しいガッツポーズなどを見せながら、クロベーはルンルンで申請の処理を始める。
昼休みに見とれていたり、率先して励ましたり、今もこうして積極的に申請を出したがったりと、今日のクロベーはどうにも積極的だ。
ここで真名の女の勘が働き、一つの推測を立てる。
もしや、黒部さんは浮暮波さんに懸想しているのでは、と。
そうなると乙女の思考回路は早い。ニヤニヤと彼らを眺めては気持ち悪い笑みを浮かべてしまう。
そんな彼女の変貌などつゆ知らず、クロベーと浮暮波はおっかなびっくり申請を進めていく。
「パーティの申請……感じ入るものがありますね」
「そうだろうそうだろう!初めは俺達も感動してさ。いやあこの感覚を共有できてよかったよ、な、真名!」
「え、ええ。そうですわね」
急に話を振られた真名が、慌てて同意を示す。自身の妄想に気を取られて、割と身が入ってなかった真名である。心の中で浮暮波に謝罪しながら、表示されたポップアップアイコンに目を向ける。
〝パーティが結成されました。メンバーは『真名』『クロベー』『Alstroemeria』です。〟
「おるすとろえめりあ、であってるか?」
「いえ、アルストロメリア、花の名前ですわ」
見慣れない英単語に馬脚を露すクロベーに、しっかり訂正してあげる真名。とても進学校の生徒がする会話とは思えないが、男子高校生は文法は理解できても花の名前など知らない。
案の定、花より団子を地で行くクロベーはピンとこないようである。
「はあ……どんな花だかわかんねえわ。浮暮波……っと、違う。アルストロメリアさんの好きな花なの?」
「はい、それもありますが……花言葉が〝凛々しい〟という意味を持っていまして。私の名前にちなんだものなんです」
「素敵ですわね」
「クロベーなんかよりはよっぽどおしゃれだな」
「あ、ありがとうございます…」
名づけの由来を話すにあたり、少々気恥ずかしさを覚えた浮暮波改めアルストロメリアであるが、二人の肯定的な感想を受けてほっと胸をなでおろす。
少々気取り過ぎたかと、内心ドキドキしていた彼女だ。多少辛辣な意見は覚悟していたし、ここに至るまで自分からは名乗れなかったのだ。
しかし、危惧するところとは別の問題が生まれる。アルストロメリアの仕草を受けて申し訳ない気持ちになりながらも、今後のためにと二人はそれを口にした。
「ただ…」
「ですわね…」
「「長い」」
他人の名前に対してとんだ批評もあったものだが、事実、戦闘時の指示出しなどを思うと八文字は長い。何より、ちょっとした早口言葉じみた文字の羅列が、今後のパーティ運営に支障をきたす気がしてならなかった。
赤いアルストロメリア青いアルストロメリア黄色いアルストロメリアはありまするか?三回言ってみよう。
「呼びづらいと不便ですわね……」
「なんかこう、イイ感じの呼び方でも考えるか?」
「そこまで考えが及ばず、も、申し訳ございません」
「いや、責めてるわけじゃないんだ。そんなに恐縮されると、こっちこそごめんなさい」
いたたまれなさからまたしても毛玉と化しそうなアルストロメリアを制して、クロベーが黒い塊になる勢いで頭を下げる。どうでもいいけど、謝りあってばかりだなコイツら。
ここで、下を向きながらも色々考えていたクロベーが、妙案でも思いついたらしい。顔を上げると同時にお伺いを立ててみた。
「あ、それじゃ〝アリア〟ってどうだ?」
「アリア……ですか?」
クロベーの呼称にきょとんとした表情を返すアルストロメリア。その上背も相まって微笑ましい仕草のはずなのに、どうしても髪の毛がポイントを下落させる。連日ストップ安だ。
一方のクロベー、持てる力の全てを動員した、渾身の女子らしいセンスに舌を巻く。自分で。
「縮めただけであれだけど、呼びやすいし、名前っぽいだろ」
「はい、とても素敵な響きです。叙情的な独唱曲という名前の意味も、私の在り方に良く馴染みます」
「そんな意味があんのか。ゴメン、違うの考えるか」
「いえ、好ましく思っているのは本当ですよ。ありがとうございます」
「そ、そうか。なら良かった。真名はどうだ?……って、なんだその顔」
狂気を孕んだ表情にしか見えないドヤ顔で真名に振り向くと、彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべている。その様子からは驚愕を通り越して恐怖すら見受けられる。さすがに失礼だと思う。
「いえ……クロベーにしては、良いネーミングセンスだと素直に感心しておりました」
「素直に褒められてる気はしねえけどな……じゃあ、決定ってことで。よろしくな、アリア」
「はい」
「むう」
本人も気に入っているようだし、ネーミング自体には文句はない。文句はないが、いろいろ納得いかないお嬢。自分につけられたあだ名とは色々差があり過ぎるのではないかと思ってやまないのだ。
名前のセンスもさることながら、クロベーが何の照れもなくアリアを呼び捨てにできている点も納得がいかないようで、彼の恋路と成長を見守る思いとは別のもやもやが胸によぎる。
もっとも、これに関してはクロベーに下心などない。あだ名の誕生に際しては、長いから縮めるという下地があったからこそ生まれたもので、ゼロから考えさせられた紀久淑の時とは違う。
センスについては生涯一度きりの奇跡が起こったとしか言いようがないが、呼び捨てに関しては〝真名〟という名前の読みそのままが恥ずかしかっただけである。
浮暮波の呼び名であるアリアに関しては、本人の名前に一切かからない。そのため、クロベーの中ではセーフ扱いだったのだ。
とはいえ、それらを理解したところで複雑な乙女心が晴れるわけではないだろう。真名はどこか釈然としないものを感じながらも、今は新しい仲間との冒険が大切だと思いなおした。
謎のしこりは後でゆっくり考えることにして、アルストロメリア改め〝アリア〟を歓迎しようと笑顔を浮かべる。
その前に、とりあえず悶々とした気持ちにさせられたクロベーへ蹴りを見舞ってから、今を精一杯楽しもうと気持ちを切り替えた。




