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最弱の魔王  作者: よーき屋支部
第二章 機械人形と円舞曲を
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 機械人形と円舞曲を

 短いですが、これにて第二章完結です。


 次章開始まで少し間が空きます。


 読んで下さっている方々には申し訳度座いませんが、暫くお待ち頂けますよう、何卒宜しくお願い致します。

 その日の放課後。


 黒部と紀久淑の〝もう一人の自分(セカンド・サイド)〟であるクロベーと真名は、正式にパーティが結成されてから初めてのクエストへ向かっていた。


 連れ立って歩く二人の姿は相変わらず悪目立ちをしているが、二人は気にした様子もなく会話を交わしている。


 本体である黒部と紀久淑が腰を落ち着けている場所は昨日と変わらず、部室棟の三階角部屋である。ただし、昨日の件を鑑みてか、持ち込みは控えめとなっている。昨日の失敗を受けた紀久淑が大人しかったのだ。


 はしゃぐ様子も見せず、淑女然とした態度で必要なものだけを買い求めていく姿は、背伸びして大人ぶるおませさんのようでとても微笑ましかった。日を跨いだ変貌に驚く店員さんの姿が印象的だったと、後に黒部は語っている。



 ―――紀久淑茉奈が行った、いっそ宣戦布告にも近い自己紹介を受けたクラスメイトの反応は、当然というべきか、沈黙によって返された。


 さもありなん。同所にいた者達からすればあれは自己紹介でもなんでもなく、武力をちらつかせた脅迫以外のなにものでもない。


 かといって、表立って何ができるわけでもないし、裏でことをなそうとしても上手くいく気がしない。その結果、具体的な案は出ないものの、いつか吠え面をかかせてやりたいというのが正直な心中だろうか。


 そういった背景も手伝って、さしたる問題もなく放課後とあいなったわけである。



 一方の脅迫した側。真名はというと、今日も今日とで足取り軽くワープ・ポータルへの道のりを歩いていく。


 道中に立ち寄った武器屋にて、同じシリーズの装備をクロベーと購入したからか、表情はにっこにこである。曰く、揃いの装備は仲間らしさが増しますわね。とのこと。


 それを眺めるクロベーも穏やかに微笑んでおり、真名の語る〝真名がクロベーと行動を共にするまで〟という内容の長編三部作に聞き入っている。


「ここで真名は声高らかに宣言するのです!〝昆布だし香る今こそ、長靴であれ!〟と!」


「す、凄え……その決め台詞は真名だからこそだわ……俺じゃシンプルに〝一括払いで〟としか言えねえよ」


「そうでしょう!これから敵を迎え討つうえで、これ以上の鼓舞はそうそうありませんわ!」


 昆布だけにってか。うるせえよ。二人は一体なにを話しているのだろうか。クエストを前にして、随分と緊張感のないパーティである。


 とはいっても、前回のクエストから色々と学んだ二人。本日受注したクエストは、防具を作製するための素材クエストだ。漸く腰巻一枚では心許ないと言える立場になれたクロベー。


 ノアを始めて数日、かつてない解放感に晒され続ける下腹部。言い知れぬ不安を抱いていた昨日までの自分とおさらばするためにも、クロベーは闘志を漲らせていた。


 このような戦いを常に強いられている女子ってすごい。謎の敬意を払いつつも、危うく女子を見る目が変わりそうになったクロベーであった。


 そんな彼に言っておきたい。オークの腰巻と女子のスカートを一緒にするんじゃない。


「あら、もう広場に着いたのですわね」


「マジか。これからって時に間が悪いな。キリのいいところまで聞けなかったわ」


 クロベーの闘志は真名の創作話に上書きされていた。それでいいのかお前は。


 話している間にも足は止まらず、クロベー達は目当てのポータルへと向かう。どうやら今回のクエストは人気があるようで、二人以外にも多くのプレイヤーが列を作っている。


 最後尾に並ぶ彼らへ好奇の視線が注がれるも、素知らぬ顔で会話を続けている。真名は勿論、クロベーも平然としているところを見るに、どうやら彼の中で何かが変わったようだ。


「クエストが始まる前に、クロベーさんにお願いがございますの。聞いてくださいますか?」


「おう。なんだ?」


 順番待ちを使って、真名がかしこまった顔つきになる。それを受けたクロベーもまた、真剣な表情でこれを聞く。


「前回のクエストにおいて、クロベーさんが最後にお取りになった行動についてです」


「まあ、そのことについてだよな」


 彼女の性格を加味してある程度あたりをつけていたクロベーが、納得したように苦笑する。


 実入りの多さにうやむやになっていたこの問題であったが、二人の間で明確な着地点が定められたわけではない。


 結果に喜び合ったのが事実ならば、彼女が涙を流したのもまた事実なのだ。


 何より、同じ状況に陥った場合、クロベーはまた同じことをする。今度は真名のためではなく、お互いの利益のために。


 真名もそれは分かっているのか、続く言葉はクロベーの考えを踏まえての発言だった。


「今後も二人でやっていく以上、同じような手段を用いなければ立ち行かない事態もあるかと思います」


 人数が少ないうえに、取りうる手段もまた少ない二人である。そのあたりは真名も客観的に分析していたようで、クロベーの策を否定はしなかった。


 クロベーも同じ考えなのか、真名の言葉に首肯する。 


「ですのでどうか、次からは実行に移す前に、わたくしにもお聞かせくださいまし」


 それでも、感情で納得できるわけではない。何も言われぬまま、一人で置いてけぼりにされるのは嫌だったのだ。


「何も知らされず一人にされるのは、とても心が痛いのです。ですからどうか、わたくしにその覚悟を決める猶予をくださいまし」


 希う様そのままに、彼女は望みを口にする。これを受けるクロベーもまた、真摯な言葉で答える。


「分かった。必ず相談する」


 できればそうはなりたくないなと思いつつも、これだけは守ろうと心に誓う。


 もう二度と、彼女を泣かせはしない。


 告げられた答えに、真名は笑顔で首肯する。


「それに、一人では思いつかないような打開策も、二人であれば思いつくやもしれませんもの」


 人差し指をピンと立て、そうでしょ?とばかりに真名が言う。思いのほか幼く見えるその仕草に、クロベーもほっこりした顔をする。


「そうだな。次こそはその場でグータッチをしよう」


「そうですわね。であれば……」


 いつもとは逆の手。右手で後ろ髪をかき上げる真名。心なしかぎこちないその仕草を終え、流したその手を掲げたままに、クロベーに真っすぐ向き直り、強く、凛々しく言い放った。


「クロベーさんのお陰で強くなったわたくしが、今度は守ってさしあげますわ」


 舞うように、美しく戦う機械人形の言葉に頼もしさを感じながらも。


「ああ。そのかわり、足りない分は俺も隣で頑張るよ。なんたって、パーティだからな」


 共に戦う誓いを込めて、クロベーは笑った。



 ―――紀久淑茉奈もまた、お嬢様という肩書による腫物扱いで相当コミュニケーションに苦労していた。


 そんな中、率先して自分に話しかけてくれた人物が現れたのだ。


 お嬢様としてではなく、純粋に一人の人間として普通に接してくれる人物はとても得難く、仲間として過ごした時間もまた、非常に心地よかった。


 何より、自罰的かつ繊細な彼の在り方を目の当たりとしたせいで、彼女の内に秘めた母性本能が〝彼を放ってはおけないと〟ビンビンに反応してしまったのだ。


 つまり、紀久淑茉奈もまた、黒部に負けず劣らずチョロかったのだ。割とダメな男に引っかかるタイプで。


 実力面でも、人間関係においても、非常に将来が心配になるコンビである。





 誰からも求められなかった一人に、手を差し伸べる者が現れた。


 誰もが遠巻きに眺めるばかりだった一人に、声をかける者が現れた。


 二人は互いを必要として、その結果。



 二人は〝同類〟ではない〝仲間〟になった。



 あれこれと話しているうちに、ワープポータルの順番が回ってきた。二人は顔を見合わせて、軽く頷きあう。


「さあ、参りましょう」


 先導するように先を行く真名。遅れないようにと後に続くクロベーが、ふと視線を落とす。


 視線の向かう先は、鼻歌交じりに前を行く真名の右手首。



 ―――楽しそうな腕の振りに応じて輝く、薄水色の腕輪を眺めて、クロベーは暖かい気持ちになった。

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