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最弱の魔王  作者: よーき屋支部
始まり
1/38

 プロローグ

 初投稿です。

 温かい目で読んで頂ければ幸いです。

 お暇な時にでもお読み下さい。

 〝高校進学という言葉を聞いて何を思い浮かべるのか〟



 漠然とし過ぎて質問にすらならないこの問いは人の数だけ答えがあり、それこそ十人十色、千差万別だろう。


 新しい学び舎で始まる、義務教育課程の先に待つ学習要綱に身構える者。


 成長に伴い身体が育つことで、本格化していく部活動に青春を捧げる者。


 広くなった活動範囲に併せて、初めて触れる景色や体験で心を育てる者。


 自分が知らない土地に住む、様々な人との出会いに期待を膨らませる者。


 生涯の友人や、ひょっとしたら恋人なんか出来るかもしれないなんて考える人もいるはずだ。


 総じて前向きなイメージを持つ人が多い新生活ではあるが、決して良いことばかりではない。禍福は糾える縄の如しと言うように、新しい環境には魔物が住んでいるのだ。


 新しい環境に馴染めず孤立してしまい、青春時代を灰色に染め上げてしまった少年少女の一例は枚挙に暇がない。


 しかし、この程度であればまだマシである。勉強を疎かにして留年、悪い遊びを覚えて人生を棒に振る……なんてことも、ないとは言いきれない。


 当然、誰もかれもがそういう可能性に気づいていないわけではない。だが敢えて見て見ぬ振りをすることで、後ろ向きな感情を頭の中から締め出し、楽しいことばかり思い返して今日も笑っているのだ。いつも明るいお調子者のあんちくしょうも、家へ帰れば携帯端末の登録件数に一喜一憂している。断言してもいい。


 そんなドキドキワクワクを前にした学生の在り方は今も昔も変わっていない。良くも悪くも、浮足立ってはしゃぐのが高校生なのだ。





 根っこの部分は変わらないと仰々しく語ってみたところではあるが、今、この時代に生きる高校生には決定的に違う点もある。


 今までの在り方に新しいエッセンスを添えられた今時の高校生。正確に言えば、十六歳の誕生日を迎える子供たち。


 彼ら彼女らが最も心を奪われ、最も心を砕いているイベントは、一つのゲームだった。



〝N・O・A・H〟通称ノア。



 西暦二二十五年に発売されたこのゲームは、人類史に革命を引き起こす。ひと昔前に流行ったVRゲーム技術に立体投射技術を併用させることで、場所を選ばずにゲームを楽しめるようになったのだ。


 携帯端末から専用アプリを通して、全国のユーザーを一つのサーバに集めたMMORPG。


 専用の機器を使用して作られた自身の分身(アバター)を使用した、自由かつアクロバティックな操作性。


 世界観は分かりやすく、剣と魔法のファンタジー。その世界で人や亜人、魔族に扮するプレイヤーたちを待ち受ける一大スペクタクル。


 アバター視点で見る風景は世界観を完全に再現しており、壮大なフィールドを背景にリアルな戦闘を楽しむことができるらしい。


 高層ビルが立ち並ぶ都会の景色も、アバターを通じて見ればあら不思議。荷馬車が行き交うファンタジー世界に早変わりとなる。



 当然、待っているのはバトル要素だけではない。


 アバターが拠点とする街の発展に寄与したり、仲間内でパーティを組んでクエストをクリアしたり、自室やパーティホームを改築したりと、自由度は多岐に渡る。


 装備やアクセサリの作成などはオシャレを楽しむ女性ユーザーに大人気で、ライトユーザーや生産職としても気軽に楽しめる。


 亜人に扮した自分を豪奢な衣装で着飾る楽しさというのは男女問わず一定の需要があるようで、ゲーム内でファッションショーまで開催されるのだからすさまじい。



 と、これだけであれば今までのVRMMORPGと変わらないだろう。


 ノアが今までのゲームと異なる最大の特徴が、フルダイブ形式ではなく〝並列同時操作〟であるという点だ。


 〝セカンドサイド・システム〟と呼ばれる新しい仕組みを用いることで、現実世界で肉体を持った自分と、仮想空間内にアバターとして存在する自分。二人の自分が同時間軸に存在できるようになる。


 これをノアと同期させることで可能となる、二人の自分が異なる世界観を同時に体験する感覚が、この時代の人間を虜にするのだ。



 意味が分からないかもしれないが、このシステムを完成させる為に国が用いた予算は数十兆円に及ぶ。伊達や酔狂でこんな国家予算は下りない。


 ノアの開発、運用が国営の企業によって行われていると言えば、この国がノアに相当入れ込んでいるのが伝わるだろう。


 何せ、満十六歳を迎える国民には、年度毎に国から端末をはじめとした機器一式が無償で配布されるのだ。金銭的な理由を考慮させないためであろう、ゲームに使う端末の通信費すら無料だ。


 お陰でこの国の高校生は、進学に併せたノアデビューを今か今かと待っているのだ。





 そもそも何故、言ってしまえばたかがゲームが国の主導で製作され、周辺機器を提供してまで高校生に遊ばせようとしているのか?


 理由は単純。それが教育の一環であり、将来的に必須であるからだ。



 今を遡ること八年前の、西暦二二一〇年。人類は進化した。



 進化と言っても急に手足が増えただの、右腕が疼きだして異能に目覚めたわけではない。


 日夜研究と実験に明け暮れた科学者たちの手によって、脳のブラックボックスが一部解き明かされた。結果、我々は並列思考を持つに至ったのである。発表当時のキャッチコピーは〝ながら作業の究極化〟。


 何とも微妙な進化ツリーを歩んだ我ら人類ではあるが、この変化が我々に与えた影響はとても大きかった。


 他の技術が追い付いていなかった当時にして、作業効率が約二倍に跳ね上がったのである。個人で処理する情報量が増えたお陰で、業績を伸ばした企業は計り知れない。


 時間に余裕ができたことで、人の心にも余裕が生まれた。家族や趣味に多くの時間を使えるお陰で、人類は思わぬ恩恵を受けたのだ。


 具体的には、他人に優しくなった。


 国内における犯罪発生率は、最も多い時代と比べても半分以下。特に傷害や殺人といった重犯罪が激減した。



 当然、それを見ていた他の国は面白くない。急激な経済成長を遂げ、あろうことか治安の向上まで成功させた技術を得ようと躍起になる。


 そうした他国の動向を受けた政府は、進化に至る研究のいろはを全世界に発信。莫大な利益を生みだす金の卵を得た他国も、挙って研究を始めた。


 そのお陰か、並列思考の研究は今もなお日進月歩を続けている。国によっては並列思考で動くアンドロイドなんてものの研究まで行っているらしい。



 各国の注目を集めてやまない同研究が、今日に至るまでの盛り上がりを見せる中。革新的な出来事が、五年前の二二一三年に起こった。


 セカンドサイド・システムの完成である。


 並列思考における最大の問題は〝どこまで行っても自分の身体は一つしかない〟に尽きた。


 いかに優れた処理能力を持っていても、それを十全に発揮できなければ宝の持ち腐れである。この研究に着手した国々も、これこそが並列思考研究永遠のテーマになるだろうと思っていた。


 それらの予想を裏切る形で、我が国の研究は一歩先んじてみせたのだ。


 我が国の研究者達は、能力に肉体が付いてこない現状を改善しようと、黎明期を迎えていたVR技術に着目した。


 まずはVR世界に自身の分身を作る。


 次にアバターの視点でものを見る〝目〟を作ろうとした段階で、当時のVRゲームに使用されていたヘッドセット型を廃止。求められていたのはもう一つの肉体である以上、生身の視界を塞いでしまうヘッドセットでは意味がなかったのである。


 その問題を解決するために用いたのが、立体投射技術である。これを応用することで、VRの世界ではなく、現実世界にアバターを投影させる。その結果、両目を覆う従来のヘッドセットとは違ったアプローチに成功したのだ。


 代わりに用いられたのが〝モノクリエイター〟と名付けられた機器。使用者の片耳片目のみを、小型の機械と透明なスクリーンが覆う。スクリーンは向こう側が透けて見えるため視界を塞がず、耳も集音機能のお陰で普段よりも聞こえやすい。


しかも、モノクリエイターで反映させる情報は並列的に処理されるので、生身の機能を阻害しない優れものなのだ。装着感以外に何も変わらない不思議な感覚は、それだけでも感動を覚えてしまうだろう。


 モノクリエイターでアバターの管理を一手に引き受け、携帯端末のアプリを通してもう一つの世界へ反映させる。全ての情報はサーバで処理され、モノクリエイターに返ってきた情報は、あたかも自分がその世界にいるよう伝達される。


 一般企業ではこれを会社規模などで共有し、そこでは日夜多くの社員が仕事に励んでいるのだ。生身が出勤した後に、アバターもバーチャルの会社に出勤していると言えばイメージしやすいかもしれない。


 脳の発する電気信号はモノクリエイターを介してアバターへ反映され、自分の身体と変わりなく動かせる。


 逆にアバターから得られる信号は、モノクリエイターを通して脳へ伝達される。〝見ていないのに見えている〟という不思議な現象により、生身の視界を遮ることなくものを見ることができるのだ。言うならば第三の目と言ったところか。


 勿論、生身の肉体も違う動きをすることができる。その気になれば生身の自分がギターを弾き、アバターがドラムを叩く一人セッションもこなせる。当然どちらも演奏できるのが前提ではあるが、その映像を動画投稿サイトにあげる人も大勢いる。



 このシステムが与えた恩恵はそれだけではない。先ほども言ったように、とても気持ちが良いのだ。


 例えるならば、退屈な授業が終わった時にする大きな伸びのような感覚。窮屈な脳が解放され、それを如何なく振るう快感は筆舌に尽くしがたい。なかには、三大欲求に迫る要素と考える研究者まで現れる始末だ。





 こういった経緯を経て、とうとう人類はもう一つの肉体を持つことに成功する。お陰で労働環境は一変した。


 それもそのはず、仮想空間の肉体とはいえ、誰もが一度は考えた〝自分がもう一人いればなあ〟が叶ったのである。


 生産性と利益の向上を受けた我が国は、学校教育にアバター操作を組み込もうと動き出す。教育機関を巻き込み、ここ数年で大幅に増えた予算を大量につぎ込み、若い世代が積極的に取り組む方策を考えたのだ。


 情報という科目でパソコンを習うように、若いうちに授業の一環として触れさせれば、アバター操作もスムーズに行われるだろうと結論づけての取り組みである。



 そうして完成したのがノア。かつてサブカルチャー大国と謳われていたこの国ならではの手法だ。


 教師と生徒が戦闘まで行えてしまうシステム上、残念ながらこのゲームが指導要綱の一つに組み込まれることはなかった。それでもセカンドサイド・システムに関する知識や操作は、学校で教えを乞うことができる。また、授業に支障をきたさない範囲でのプレイは推奨もされている。


 高校生の教育用にと作られたこのゲーム。完成してみると思いのほかクオリティが高く、高校生活の三年間でアカウントが消えてしまうのはあまりにも惜しいと製作者サイドがごねた。


 そのため、当初に予定していた仕様を高校生専用サーバとして、新たに一般公開用のサーバも作成された。


 高校生用のサーバは、高校卒業に併せてアカウントが自動削除される。その後は一般向けのアプリに自動移行する仕様になっており、プレイヤー達がいつまでも楽しめるゲームに変更されたのだ。



 一方、急遽設けられた一般公開用のサーバは、希望するプレイヤーを募集して運営する運びとなった。当然、それほど力を入れて作られたゲームを、国民が放って置くはずがない。


 募集倍率は百倍近い数字をたたき出し、実施された抽選会は〝箱舟乗った!!〟〝TKG(宝くじ越え)〟といった数々の流行語を生みだした。


 瞬く間に広がった攻略情報、レビュー、メディアミックスは社会現象を巻き起こし、セカンドサイド・システムも相まって新人類初の技術革新と呼ぶ人も少なくない。


 併せてこれに関連した犯罪が頻発し、この年の犯罪件数は数年ぶりに上昇した。





 それから三年が経った、西暦二二一八年。緩やかに増えていた登録者も落ち着き始め、今や国民の約二割がこのゲームをしているとまで言われている。


 そんな、国が教育機関に働きかける程ゲームに重きを置く時代。


 後に〝セカンドサイド・ノア世代〟と呼ばれるようになる時代。



 そんな世界に生まれ落ちた〝黒部(くろべ) 泰智(やすとも)〟も例にもれず、このゲームを楽しみにしている高校一年生の一人である。

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