06_エイラ先生の授業
「魔法を扱うのに必要な物は様々だけど、その魔法に必要な絶対要素があります。術式、魔力、機構、この三つがそれぞれ正しく機能していない限り魔法を扱うことはできません。」
特別教室の中で、今マヒロは居残り勉強をさせられている。
授業を受ける以前に常識を持たないマヒロは教科書を読めていなかった。
トリエステの魔法学園でほとんど知識を持たない人間が、強力な攻勢魔法の使い手というだけで入学できるのは公正さを疑われる原因になった。
そのため、マヒロは徹底的に勉強させられる羽目になり、頭の重さが100キロ近く増加したような感じになった。
「術式は魔法を形成するための呪文のようなものです。現在ではデバイスや機構の効率化により無言で公正したり、魔法武器にあらかじめ用意することができます。」
教室、エイラ・ノーリスは延々と教科書の中身を読んでいるが、それらは基本的には初等部に叩き込まれるらしい。
「魔力は名前通り、魔法に必要とする力です。この力はいくつか種類があり、マギカ、フォース、スピリチュアルの三つが主に使われる力です。」
マヒロが使うレーヴァテインはマギカを主要とする魔剣の一種らしい。
昨日、メルルにレーヴァテインの調査を半ば強引に手伝ってくれたのでどんな力を持つかは知ることができた。
「機構は魔法を行使する術者の内面に存在する魔力を扱うための力です。機構は基本的には単独だけで行使するには非常に難しいため、デバイスと呼ばれるものを使います。」
レーヴァテインも厳密にはデバイスであり、魔法の杖もそれに含まれる。
その事を知らなかった僕はメルルに未確認生物を見たような目で見られてしまったが。どうやら力は与えられても肝心な知識はそこまで教えてくれないようだ。
「ちなみに、当校の首席であるアニスはスピリチュアルを主体とした精神魔法が得意であるのは知ってますね?何故魔力に複数種類があるかというと、魔力の根源である魔法因子がありその因子の形態の違いによって物質に干渉する、あるいは発生させる力が出来上がります。この魔法因子を発見したひともスピリチュアルの使い手であり、魔法因子の形質を変えるのは基本的に術者の機構のせいです。人によって機構の性質が様々なため、全ての魔力を扱える人は居ません。アニスも、フォースだけは使えず、また私もスピリチュアルを使うことはできません。ちなみに、マギカは更に細分化すると火、水、風、土の四つの属性があり、それらは妖精と呼ばれるマギカで生まれた存在によりコントロールされています。」
早く終われと思いたいが、これを履修しないと学年を上げるのは不可能である。
「フォースは俗称では神力と呼ばれています。学園最強と呼ばれるリーシャもまたフォースの使い手ですね。フォースは神の力とされたように、神への信仰により得られる魔力です。マギカは大気に存在する魔法因子が妖精によってマギカとなりますが、基本的にフォースは神により作られます。神という存在は私が認識できない領域に存在しており、リーシャは機構の回線の違いによりその神を認識できるそうです。」
セシル曰く、リーシャは学園最強のチートであって強者ではないらしい。
フォースは魔力の中でも攻勢魔法という、攻撃用の魔法の威力が高い。
しかし、例外的にレーヴァテインは神力を抑制するアンチスキルが術式として設定されていたためダメージが緩和されていたらしい。
そのため、もしそのスキルがなかった場合セシルとほぼ同じ負け方をしていたそうだ。
「そして、スピリチュアルはマギカとフォースとは更に異なる性質を持ち、妖精による魔法因子の変化はありません。スピリチュアルは人の意識によって魔法因子を操作し構成するため、難度の高さはトップクラスです。」
チートといえば、アニスもそうだが聞いた限りでは四つの属性を使えるらしい。
アルケーという魔法武器はある意味、妖精が持て余していた誰も使えない魔法武器の一つのようだ。
「まだ、マヒロ君は魔法の実技テストをしていないので、魔力の性質はまだ未解明ですね。試合をみた限りでは、マギカとフォースを察知した人がいたようです。」
「マギカとフォース…?」
「そのレーヴァテインの鑑定も後で進めていきたいところですが、今は基礎知識からです。次は術式ですが、これは全ての魔法に必要な要素であり、術式の構成によって魔法も異なる性質を見せます。ただ、あまりにも多種多様なため全てをマスターするのは不可能とも言われていますね。アニスが首席でいられるのも、そのマギカの四大属性全ての術式を解読できるからです。術式は妖精によってコントロールされるため、属性それぞれの術式言語が異なっています。言語の文法が全て違うため、解読や暗記が困難であり全て覚えるのが不可能なのもその違いが原因ですね。」
火、水、風、土の属性は妖精によって積極的にコントロールされる。妖精にも種類があり、マギカを作り出した妖精が4パターンあるため属性が四つに分かれてしまった。
「しかし、その術式を知っていたとしても機構と回線が合わなければ魔法は使えません。機構は人によって違い、受け入れられる魔力が異なるため使える魔力も異なります。その受け入れられる魔力の違いを、私たちは回線が違うと言います。また、機構も未知である部分も多くあり、妖精も機構を持っています。機構は人によっては使えない、全ての回線が閉じている人も沢山、というより回線を持っている人が少数派なんです。錬金術によって作られた、魔法が使えない人でも魔法を使える道具もありますが、それも微々たるもの。私たちは機構の回線の違いにより異なる力を魔法として現実に表すことができる、それは分かりましたか。」
はい、もう寝たいですと言いたい。
「妖精は私たちのパートナーのようなものであり、妖精はマギカの形成に関わる存在です。妖精は魔法因子が自然と重なり合うことで妖精を生み出し、四つにマギカが分類されました。例外的にフォースと妖精がリンクしたことで出来た属性として闇と光の二種がありますが、フォースの回線を持たない人は闇と光を使えません。妖精が生まれるとマギカを生成し、私たちはそのマギカを機構に取り入れることができます。そのマギカは妖精が独自に作り出した術式を唱えることで魔法を発生させることができます。つまり、妖精とマギカは切り離せない存在でありますが、それはフォースと神も同様です。私たちの認知の外に存在する宇宙的存在とチャネリングすることでそのフォースを得ることができます。神の形質の違いにより、フォースもある程度分けられますが。自然界に存在する雷は妖精がフォースと同化しない限り使えません。恐らく、妖精は自身が破壊されるおそれがある自然現象を術式として言語化できないからだと思われます。」
リーシャはそのフォースを見る限り、雷属性を持っているのは分かる。
妖精がフォースと同化することで、その神の存在から雷という現象を知ったことになる。
言い換えれば、妖精は自然に存在する物理現象しか術式として言語処理できないのだ。
「そして神の信仰の値によって奇跡を発生させることも理論上可能であり、人も生き返ることもありえるそうです。」
そんなバカな、と思っていた。しかし、冷静に考えたら僕は一度死んでるのでは?
「ですが、その信仰によって得られる力も少ない。基本的に有効利用するのが難しい魔力です。そして、スピリチュアルは基本的には妖精を必要としない魔法です。人間の意識によって魔法因子をスピリチュアル化し、術式言語を生み出す。これは元から妖精が魔力の基礎と術式を用意されるのとは違い、全て一から人間が魔法をコントロールしなければいけません。その意味では、スピリチュアルは人が行使できる本当の意味での魔法でありますね。スピリチュアルで行使できる精神魔法は私たちでは想像が難しいですけど。
大体、今のが魔力、術式、機構に関する主要な説明でした。次はデバイス、魔法武器に関する授業ですね。」
まだ帰れないんだろうか。
まさか異世界に来ても教師による責め苦を受けるとは。
「まず、デバイスについてです。この魔法杖も、そのデバイスの一つです。デバイスは術式をデバイスに刻印することで魔法を効率化することができます。ただし、許容範囲をこえた魔法を行使するとデバイスが破壊される場合もあります。更にデバイスに機構を備付けることで、魔法を使えない人が魔法を使うことも可能です。ただし、機構を人工的に作るのは難しいため、錬金術士によっては妖精とデバイスを1セットにすることで魔法を安定化させています。そして、次は魔法武器ですね。」
レーヴァテインも、分類的には魔法武器に入る。アンチフォーススキルといった謎の能力を持っているが、さっきまでの説明を聞いた上でも謎が多すぎる。
「貴方がレーヴァテインと呼ぶ、その魔法武器は妖精によって持たされたのでしょうか。」
「それは…」
分からない。記憶している限り、この世界の妖精に出会ったことがないからだ。
もしかしたらあるかもしれないが、それでは僕の身体の説明にならない。
「人によってはフォース、神から魔法武器を譲り受けた人がいるそうです。」
「神、ですか?」
「はい。妖精と契約し、魔法武器を得ることができますが。リーシャはその意味では、神から魔法武器を得たかもしれません。魔法武器は妖精が生み出した兵器であり、人に合わせて作られています。もしかしたら、貴方はもっと特別な力を内包しているのかもしれない。マギカ、フォース、スピリチュアル以外の力を持っているのかも。伝説上の異世界の勇者はまさに、その異界の力の使い手でしたから。」
そう、だろうか。
その異世界の勇者と僕は関係あるのか?そもそも神ってなんだ?宇宙的存在?この世界に宇宙ってあるのか?
「混乱してきました?」
「先生、あとは自習で。」
「筆記試験も重要ですから、早めに覚えてくださいね?あと、まだアドリア王国の基礎歴史がありますし、錬金数学や物理も習得しないと。三年に上がれませんから。」
まず、歴史はともかく錬金数学ってなんですか?何で異世界なのに物理あるんですか?
あんまりな授業になったが、こうして謎知識を延々と勉強させられた。
学園の名の通り、生徒を落第させないためにマヒロに基礎知識を植え付けていく。
あと、アドリア王国の言語も追加されたので、一週間程度は実技はできない。
エイラ先生からの優しい授業で、何も嬉しいイベントは起こらずに時間が過ぎた。