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運命に抗う者たち ~The Black~  作者: 斬崎 奇人
第一章 【It was crazy】
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Chapter.06 【近付く危機を】

第七話です。


ツインテールの少女を出したかった……!!



道端に転がる小さな瓦礫を明るい茶髪(ライトブラウン)の髪を持つ少女が蹴り上げた。


少女に蹴られた小さな瓦礫は、放物線を描きながら数メートル先へと飛んでいき、コツンと軽い音を経てて地面にぶつかった。


つまらなそうな顔をしながら、動く度にユラユラと揺れる二つ結い(ツインテール)にしている自分の髪を弄んでいる。


「ねぇ、リヴィア。昨日あった“第三地区の殺しの件”アンタが殺ったんでしょ?」


“第三地区の殺しの件”。


それは、リヴィアが“クソ貴族”の依頼を受けた後、“クソ貴族”がリヴィアの逆鱗に触れ殺された時のものだ。

日々、殺しが発生する旧アーサー王国、無法地帯だが普通の殺しでは誰も騒ぐこのはなく「あぁ、またか」程度のものだ。


しかし、猟奇的な殺人ほどこの国に住む人間たちにとっては好まれる。


ましてや、一ヶ所で大量の人間のバラバラ死体やら頭の無い死体、上流貴族の死体が見付かれば話題にもあがり、騒ぎ立てるだろう。

“この世界”で貴族たちに良い感情を抱いている人間たちなど、皆無に等しいと言われている。


そんな人間を殺したのだ。この国に住む人間たちは騒ぎ立て、話題に上がるのも無理はない。


「そうだって言ったら、何なんだよ?」

「……やっぱりね。こっちでも結構、話題よ?上流貴族がこんな所に来て、殺されたんだから、ここはもう大盛り上がり」


嘲笑いながら話す少女はとても愉しそうだ。


そんな少女に微塵の興味も無いのかリヴィアは、足場の悪い瓦礫だらけの地面をスタスタと進んで行く。

少し離れた所で少女はリヴィアが先に歩いて行って仕舞っていることに、気付き慌てたように後を追い掛けて行くがどうも、足元が覚束ない。


瓦礫の上に足を降ろす度にグラグラと足元が揺れ、少女はその度に口元を引き吊らせる。


後ろを振り返ったリヴィアは少女が口元を引き吊らせている様を見ると片方の口角を器用に吊り上げて笑った。

その笑い方に少女がキレたのか、額に一筋の青筋が浮き出た。


「……………アンタ……」


少女の肩がフルフルと震え出した。

バッと顔を上げた少女は目を見開き、口を開けた。






「 後方の重機関銃ロング・ディスタンス・ディフェンス 」


少女がその言葉を口にした瞬間、少女の包帯を巻き付けた右腕が包帯の隙間からギラリと赤く怪しく光り輝き、バチバチと静電気が発生したような音が響く。

包帯が千切れ始め、少女の右腕が変形し始め、人間の持つ五本の指が消え去り機械的な……人間が持っているような腕では無くなっていった。


指が無くなり、関節が無くなり……赤く怪しい光りが無くなるとそこには肩から先がが巨大な重機関銃へと変形した少女がいた。


「は?ちょっ、待て!!二つ結い(ツインテール)女」

「アンタねぇ、人を……人じゃないけど……馬鹿にすんの止めなさいよね。あと、アタシの名前は二つ結い(ツインテール)女なんて名前じゃないわよ!!アタシの、名前は






シェールよ!!!!!」


少女、シェールはその言葉を発した瞬間、重機関銃から銃弾が発射された。


その瞬間、リヴィアは驚異的な反射によって上体を反らし、銃口から発射された銃弾を避けた。

リヴィアを掠めることなく完全に避けられた銃弾は、そのまま通り過ぎていって仕舞った。


通り過ぎていって仕舞い、見えなくなって仕舞った銃弾を目で追い掛けていたリヴィアは、シェールに顔を向けた。


「……このクソ女。人に銃口向けてんじゃねぇよ!!」

「アンタ、人間じゃなくて“全能者”でしょ。人間ぶってんじゃないわよ」


二人の会話に理解できない“全能者”という、言葉と“人間ぶってんじゃないわよ”というシェールの言葉。

この二つは、一体どういう意味なのだろうか?しかし、リヴィアは少し眉をひそめるだけで、特に気にすることなく、まるでその言葉が当たり前かのように動じず、シェールもまた自分が発した言葉に特に気にすることはなかった。


シェールは軽く舌打ちをすると、重機関銃へと変形していた右腕を元の腕へと戻していった。


「アンタねぇ、アタシの名前さっさと覚えてくんない?」

「覚えてるよ。言わないだけで」

「……余計たち悪いわよ……」


呆れたように溜め息をついたシェールは、包帯が千切れ素肌が見えている右腕を擦った。


空が黒雲に覆われている“この世界”では、太陽は黒雲の向こうにあるせいで太陽の日光は“この世界”の地上に届くことはない。

その為、例え夏だろが気温は二○℃を越えることはない。


そのせいで、“この世界”はとても寒い。人間や動物、植物が生きていられるのは、空に浮かぶ人工的な月のおかげだ。


しかし、太陽のように日光を出すのは“エベンダ魔導国”という“この世界”の中心にある精霊や妖精が住むと言われる国が創り出した“金色なる天満月ライト・オブ・フェーク”が唯一太陽に似た光りを地上へと届ける。

その光りもまた本物の太陽が放つ紫外線や赤外線には劣る為、二○℃を越える気温を出すことは出来ない。


それでも、人間や動物、植物は生きていけるのだからまだマシな方だ。


光りが無くなれば、気温はマイナスにまで下がり続け“この世界”は氷に閉ざされることとなったはずだが、それでもまだ活きている。


「アンタさぁ、第三地区の殺しの件にさ“ロエル・ビフト”っていう若い男がいるんだけど知ってる?ていうか、知ってるわよね?」


確かめるように、確証を得るように訊いてくるシェールに少し考えるように黒雲に覆われた空を見上げたリヴィアは「あ~」や「ん~」と考え込み始めた。


そして、何かを思い出したのか「あっ」と声を上げたリヴィア。


「確かクソ貴族の目標(ターゲット)がそんな名前だった気がするなぁ」

「は?アンタ、殺す人間の名前くらい覚えときなさいよ」


シェールの言葉に今度はリヴィアが額に青筋を浮かべた。


腰に下げていた柄も鍔も、鞘も全てが黒い刀に手を伸ばしかけたがなんとか踏みとどまったリヴィアは、一旦息を吸い込んだ。

深呼吸を数回繰り返したリヴィアは、シェールに視線を向け直した。


「ならお前は、今まで殺した人間の名前を覚えてんのか?」

「さぁ?殺した人間たちの名前は覚えてないけど、見捨てた人間たちの名前は覚えてるわよ」


さも、当然のようにさらりと述べたシェールに反論することはおろか、返す言葉も見付からなくなったリヴィアは軽くでなく、盛大に舌打ちをすると、シェールを置いてさっさと歩き出す。


「ねぇ、リヴィア!!アンタが殺した“ロエル・ビフト”って男ね、狙われてたのよ」

「誰に?俺にか?そりゃそうだ。クソ貴族に依頼されたからな、殺せって」

「違うわよ。アンタじゃなくて、他の上流貴族の連中がよ。“ロエル・ビフト”って情報屋だったらしいのよ」


面倒臭そうに米神に手を当てて話すシェールに興味を無くしたように、視線を逸らす。

リヴィア自身、仕事で数え切れないほど人間を殺した。


その為かは解らないが、リヴィアは殺した人間の名前を覚えることはしない。


覚えていた所で意味が無いと思っているのか、リヴィアは直ぐに人間の名前を忘れ、覚えようとはしない為、基本的に第一印象等で相手の名前を呼ぶ。

リクが灰色の髪と灰色の眼を持っている事からなのか灰色男(グレーマン)と呼び、シェールの髪型から二つ結い(ツインテール)女と呼んでいる。


名前を覚え、きちんと相手の名前を呼ぶ時ももあるが、それはかなり珍しい。


一番近しい相手で言えば、姉であるセイがいるがその姉すらも、“姉さん”と呼び、名前で呼ぶことはほとんどない。


「“ロエル・ビフト”って、アンタと違って……まぁ、アンタも結構な悪徳野郎だけど“ロエル・ビフト”はその倍以上。上流貴族たちに偽の情報を与えまくって、こっちに逃げて来たの」


ケタケタと高笑いをしながら、口元を歪ませたシェールにリヴィアは鬱陶しそうに口元をへの字に曲げて、シェールをギロリと睨んだ。

シェールはリヴィアに睨まれていると知らないのか、先程よりも軽い足取りで足元の瓦礫を蹴りながら移動する。


リヴィアよりも前に移動すると、シェールはニタリと両方の口角を吊り上げ不気味な笑みを浮かべた。


「上流貴族の連中は、“ロエル・ビフト”の殺害を“アルベルト暗殺組織”に依頼してたのよ。けれど、肝心の“ロエル・ビフト”はアンタが殺して仕舞った」


“アルベルト暗殺組織”。


五年ほど前、突如世界に知られるようになった殺しを生業とする暗殺者(アサシン)たちで成り立っている巨大な組織。

この組織は第五地区と隣接している“ジスティール共和国”にあり、共和国の約四割が組織の人間だと言われている。


が、しかし、それ“アルベルト暗殺組織”についてそれ以上の事は何も解ってはいない。


「アンタが“ロエル・ビフト”を殺したせいで上流貴族たちは暗殺組織に払った金が無駄に成ったとかで、怒り狂ってるわ。そんな奴らが何をするかだなんてアンタでも、解るわよね?」


優しく問い掛けるようにして、囁くシェールを強く睨むリヴィアは口を閉ざしたままだ。


「アイツらは、






今度はアンタを殺そうとするわよ。良かったわね?」


愉しそうに笑うシェールを見た瞬間、リヴィアはベシリとシェールの額を叩いた。

“パシン”と軽い音を響かせ、叩かれた額を押さえるシェールは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。


「あぁ、軽い音だな。中に何も入ってねぇ証拠だな。大体、その情報はどっから入ってきたんだよ」

「頭の事は後でぶん殴るわ……。情報の事は、“オードル”から聞いてきたわ」


シェールはそう言うと、右手を握り勢いよく振りかぶった。



ツインテール少女の暴挙。

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