Chapter.04 【日常の風景】
第四話です。
更新、更新。
リヴィアたち三人が住んでいる国、旧アーサー王国、無法地帯は五つの地区に別れており、最も人間が多く住んでいるのが第二地区である。
住む理由としては、第二地区には巨大なスラム街の中枢である商店街ならぬ闇市があるため、他の地区と比べれば随分とマシな暮らしが出来るという理由があるからである。
対して最も人間たちが住んでいる数が少ないのは、第四地区。
旧アーサー王国、無法地帯において五つの地区中最多の殺人率と失踪率の高さから、他とは比べ物にならないほどの訳有りの人間たちしかいないと言われている。
しかし、そんな第四地区に住んでいるのがリヴィアたち三人である。
旧アーサー王国、無法地帯第四地区は、他とは比べ物にならないほど瓦礫で溢れ返っている。
かつては壮観であっただろう景観も、こうも瓦礫だらけではその面影すら存在しない。
綺麗なタイル張りの道の残骸は、乾ききり、こびりついて仕舞った何かの血によって薄黒く汚れて仕舞っている。
それでもなお、第四地区にはかつて絶大な富と繁栄をもたらしたアーサー王国の面影が少なからずある。
“最期の王”と称えられ、自国の人間だけでなく他国の人間たちからも信頼の厚かった“オーガスト・アーサー”が生前に建てたと言われる“白き護りの古城”が、今はもうアーサー王国の面影がないこの国、唯一の名残である。
しかし、“白き護りの古城”は、“オーガスト・アーサー”の死後、アーサー王国が一気に衰退し滅んでいったためそれに伴うようにして“白き護りの古城”は人の手が長年加わることがなかった事もあり、城跡を残し、崩れ去っていった。
そんな第四地区の奥部に、外から隔離するかのように瓦礫に囲まれポツンと存在しているのがこの国では珍しく原型を留めている、煉瓦造りの小さな二階建ての家だった。
煉瓦造りと言っても所々煤けていたり、欠けていたりとボロくなっている。
その家の中から、声が聞こえてくる。
「リク、どうしたの?目、痛むの?」
心配そうにリクの顔を覗き込んだセイは、向かい合って左側の目、本人からすれば右目を抑えるリクに声を掛けた。
リクの両眼には、どちらにも傷痕がある。
リクが片手で覆い隠すようにして抑えている右目は、指の間から僅かに見えており綺麗とは言い難いほど乱雑に上瞼と下瞼を縫われているため、開くことが出来なくなっている。
リク曰く、縫っている右目には眼球は無いらしく、目を守るためにある瞼は不必要らしいので自分で開かないように縫ったのだという。
何故無いのか、何故自分で縫ったのかと、疑問はあるが深く詮索しないのはリヴィアやセイなりの配慮なのかもしれない。
そもそも二人にとって、リクが片側の目を縫っているのは物心ついた時からもう既にだったため、とくに気にすることではないというのが理由なのかもしれない。
そんな片側の右目なのだが、いまだに痛むことがある。
もう片方の目、左目には眉の上から下瞼にかけて、縦の一本傷があるのだがそちらはただたんに怪我をしただけとリク自身が言っていた。
ズキズキと、抉るような痛みが今はもう無いはずの右目を刺激しているようでリクは眉を寄せた。
何が切っ掛けとなって痛みが走るのかは判らないが、戦闘行為をした後はどうにも痛みが何時もの倍以上になって襲ってくるのだという。
「痛み止め、飲む?」
心配そうに眉を寄せて、顔を覗き込みながら見上げてくるセイに苦笑いを向けるとリクは「いや、大丈夫」と断りを入れた。
そんなリクに一つ影が伸びた。
セイのものでは無いため、影の正体なんぞ分かりきっているがリクは右目を抑えながらセイから視線を外し、自分に影を伸ばしてきた正体に視線を向けた。
どこか不機嫌そうな顔でリクを睨み付けているリヴィアは、口をへの字に曲げていた。
「……痛がられてもうぜぇだけなんだよ。姉さんがお前みたいな灰色男に優しくしてやってんだから、姉さんの親切心を無下にしてんじゃねぇよ」
リヴィアの言葉に思わず笑みがぜろれそうになるのを抑えたリクは、抑えていない左目をユルリと細めた。
「無下なんて言葉、知ってたんだな」
「あ"ぁ"?!」
リクの小馬鹿にしたような言葉にピキリと額に青筋を浮かべたリヴィアは、何時もの数倍の目付きの悪さでリクを睨み付けた。
言い合いを始めるのは何時もの事らしく、セイはそんな二人を微笑ましそうに眺めていた。
まぁ、視線を多く注いでいるのはリクではなくリヴィアの方なのだが。
最終的に二人の言い合いは武力へ発展することが多いのでその時はセイの鉄槌が下り、二人共両成敗となることが基本的な流れである。
セイは二人が早々に言い合いを止めるようにと思いながら、リクがスラム街の商店街で買ってきた物を物色し始めた。
スラム街の商店街といっても規模は小さいものではなく、かなり規模は大きく食材やら武器やら、持っていたら確実に呪われそうな逸品までが揃っている。
しかし、第四地区からスラム街の商店街まで行くには歩いて行こうとすれば約三時間近くかかる。
走って行こうにも、途中で第三地区や第一地区を通らなければならなく、第四地区ほどでないにしても戦闘行為やら略奪やらが頻繁に行われておりそれらに捕まって仕舞えば、買い物どころではなくなる。
しかし、リクやリヴィア、セイにとってそれらはその程度の事であるため、障害としては考えていない。
「あら、珍しいわね。紅玉の実まで」
果実は早々出回らないため、セイは嬉しそうにしていたがリヴィアとリクの言い合いが武力へと発展しかけていたため、一旦手を止めて二人の元へと近付いて行った。
二人がセイの細腕から繰り出される拳によって、ぶっ飛ばされるまであと数秒。
次の話くらいには、物語をグッと進めたい。