Chapter.02 【親愛なる家族】
第二話です。
少し、短いかもしれません。
例え朝であったとしても、夜であったとしても何時でも暗い“この世界”には、太陽も月も分厚い黒雲に閉ざされて見ることは出来ない。
地上に日の光が当たらなければ植物や、動物、人間までもが死滅してしまう。
そうならないように、魔術師や魔導師たちが力を合わせて創り上げたのが幻想的な光を放つ“月”。
人工的で幻想的な光を放つ月は、“この世界”の中心にある“エベンダ魔導国”にある黄色の光を放つ、巨大な月が一番最初に創られた。
しかし、その月を創ったのは人間ではない精霊や妖精と、それらを纏めあげている長。
世界樹ウォールド。
彼等の人間を遥かに越える力によって、今も“この世界”は生きているのだ。
そんな、月を遠目に眺めながら、欠伸を一つ噛み殺した少年は、瓦礫によって埋め尽くされている家の帰路を足取り軽く進んでいた。
「五○○万には、届かねぇかも知れないけど、無いよりはマシか」
黒い布の中に無造作に詰め込まれた指輪などの装飾品に視線を落とし、呟く少年は、遠くから聞こえてくる銃声音や怒号に耳を傾けた。
ここでは何時だって殺し合いが起き、人が死に、死体から身ぐるみを剥ぎに人間が集まってくる。
少年は面倒臭そうに眉を寄せると、爪先を向けていた方向を変えて歩き出した。
少年が向かっている方向は、唯一の安息の場所。
通い慣れ、見飽きて仕舞った家への道。
娯楽などなく、耳をすましてみれば何時だってどこからか殺し合いの音が聞こえてくるせいで、精神を病むような人間もいる。
だが、この国は、そんな人間を受け入れてはくれない。
ここで生き残るためには、何がなんでも人間を殺すか、死体から身ぐるみを剥ぐくらいしかない。
少年のように便利屋なんてものを営めば、金を持っていると思われ殺そうとする輩が増える。
それでも少年は、生きている。
冷たい風が吹き、少年の空を覆い尽くす黒雲と同じ色をした短髪の黒髪が風に吹かれる。
「お帰りなさい、リヴィア」
模様のない真っ白いワンピースを着込み、青色のポレロを羽織った、腰を通り過ぎた辺りまで蒼い髪をストレートに伸ばした少女が、少年に声を掛けた。
“リヴィア”と少年の名前を呼んでいることから、少年に近しい存在なのかもしれない。
少女を視界におさめた時は僅かに目を見開いていたが、少女に“お帰り”と言われるとリヴィアは、表情を綻ばせ緩く口角を持ち上げ笑みを浮かべる。
「ただいま、姉さん」
少女を“姉さん”と呼ぶことは、この二人は姉弟なのだろうか、それにしては顔立ちは似ておらず髪の色も眼の色も違う。
リヴィアは、姉へと近付くと少しだけ困ったように眉を寄せた。
「家に居てって言ったじゃないか、姉さん」
リヴィアの言葉に、リヴィアよりも大きく少しだけ丸みをおびたアーモンド形のを閉じて、笑みを浮かべると小鳥の囀ずりにも似た可憐な笑い声を上げる。
「ごめんなさいね。家で出来ることは全部やっちゃったから。それに、今日は“リク”も仕事でいなかったから、待ってるよりも会いに行ったほうがいいと思って」
姉のその言葉を聞くと、リヴィアは困ったように寄せていた眉を元の位置に戻して、少しだけ不格好な笑みを浮かべる。
「帰ろっか、姉さん」
「えぇ、そ」
姉の言葉を遮るように、轟音が鳴り響きリヴィアと姉のすぐ横から瓦礫を連れて巨体が吹っ飛んできた。
リヴィアは姉を自分の後ろへ隠すように庇うと、腰に収めていた刀を鞘から取り出し飛んでくる瓦礫を斬り裂いていく。
瓦礫を連れて吹っ飛んできた巨体は、リヴィアと姉の頭上を放物線を描いて飛んでいくと瓦礫だらけの地面へと顔面から激突していった。
瓦礫だらけの地面に顔面をぶつけ、血塗れになりながらも、立ち上がったのはリヴィアが二人縦に並んでも届かないほどの巨体の男。
「あぁ、不味いな。悪いリヴィア、“セイ”。怪我なぃ"ッ」
「死ね!!!!!灰色男!!!!!」
リヴィアと姉の“セイ”に声を掛けてきた、男性にリヴィアは手に握られていた黒い刀を男性目掛けて投げつけた。
上体を反らした男性をギラギラと獣のように、睨み付けるリヴィアは明らかに不機嫌そうに眉を寄せ男性に向かって口を開いた。
「死んじまえ、クソ野郎」
投稿が、少し遅れました。